イケメンを盗み撮る闇
「ねえ、これあげる。」
放課後、部活に行こうとしたらスマホをいじっている茜からそう言われる。
何かのメッセージを受け取ったボクのスマホを取り出して、胡散臭そうに思いながらも、茜からのメッセージを表示する。
茜がこういう言い方をするときは大抵ボクにとって良くないことが起こるというのが経験則なのだが、今回もその例に洩れなかったようだ。
ボクのスマホに映し出されていたのは…………
……零君の写真(しかも数枚もある)
…………
…………
…………
え?
なんで、これが茜から送られてくるんだ?
この送ってきた相手が零君の同級生とかならまだ理解できるが、ボクの同級生である茜から送られてきたというところに疑問を感じる。
「な、何でこれを……」
「ん?私が裏のルートから入手したからだよ。嬉しいでしょ?」
「ま、まあ……」
零君の写真を他の誰かも持ってるって考えると何故かモヤっとするが、ここは大人しく貰っておいて、あとでゆっくりと見たほうがいい気がする。
部室を開けないといけないし。
「じゃ、じゃあ、ボ……私は部活に行くね。」
「うん。いいほーこく待ってるよ~~」
いい報告って何のことかがわからないが、とりあえず茜の期待するようなことにはならないだろうなということは察することができる。
うん。やっぱり写真は後でゆっくりと見たいような気がする。いや、ゆっくり見よう。
本人に頼んでも写真なんか撮らせてもらえない気がするし、大事にしないといけないかもしれない。
ボクが鍵を先生からもらって、部室に行ってもまだ零君は来ていなかった。
部室の明かりをつけて、机の上に鞄を置く。
……まだしばらく零君は来ない気がする。
そう判断したボクは、辺りを警戒しながらもスマホを取り出し、先ほど茜から送られてきた画像を表示する。
一枚目は教室(恐らくは授業中)で頬杖を突いている零君の横顔。
どことなくアンニュイな雰囲気が魅力的な一枚。
「……こんな表情、見たことないなぁ……」
何というか、ボクの前での彼はもっとシャキッとしているので、こういう表情をするんだという驚きと、もっと色々な表情を見てみたいという気持ちが混ざっている。
少し、複雑かもしれない。
二枚目の写真は、体育の時間らしい。
ジャージを着て、バスケットボールをシュートする瞬間の一枚。
これは、決まったのかな?そこがわからないのが残念。
でも、零君は運動もできそうだもんなぁ……
そして、三枚目の写真は……
「えっ!!?」
思わず、大きな声を出してしまうような写真だった。
なぜなら、少し微笑んだような姿の零君が写っていたから……というのはもちろんあるが、それだけではない。
その写真には、彼だけではなくもう一人にもピントが合うように撮られている、所謂ツーショット写真だったからだ。
そして零君と一緒に移っていたのは……
「ボク、だよね?」
恐らく、通学中のところを撮られたものなのだろう。
でも、そこに写っているボクはいつも鏡で見るボクとは違う表情をしていた。
その写真のボクは、どこまでも自然に、零君に向けて笑いかけていた。
零君といるときに、こんなに幸せそうな表情をしていたなんて、知らなかった。
本当に、ボクは零君のことが……
「こんにちは、先輩。」
!!!!!??
やばっ!写真見られないようにしないとっ!!
「……急に入ってくるのやめてくれないか。心臓に悪いから。」
ボクは何とかバクバク言う心臓を押さえつけながら、努めて冷静に彼に向かってそう言う。
「そう言われましてもね。僕の部室でもあるわけですから、僕が自由に出入りしてもいいはずですよ。」
確かにそれはそうなのだが、ボク側の都合も考えてもらわないと困る。
「それはそうだが、やはり部長に許可というものが必要だと思うんだ。」
また今回のように写真を見ていたりするかもしれないし。
「二人しかいないのですから、僕は副部長でしょう?別にいいじゃないですか。」
「……なんか正論な気が……」
「正論なんですよ。」
彼にそう言われるとそうなのだろうかと思ってしまうが、ここで折れたらまた急な登場で心臓に悪いことが起きるかもしれない。
だから、もう少しだけ粘ってみる。まあ、負ける気がするが。
「というか、先輩はどうして僕にノックしてから入ってほしいんですか?驚くからだけではないような必死さがあるように見えますけど。」
「うっ……それは……か、仮にだよ!ボクが中でえっちいことしてたら困るでしょ?」
って、何言ってんだよボク!!!
これじゃあ、まるでボクがエッチな女みたいじゃないか!!
「その時はそれを撮影してそれをネタに脅します。」
「外道!!というか、入部した翌日とかはもう少し優しかった気がするんだが!!」
蔑まれるよりかはましな答えだったけれどさ、脅すって怖いし、零君が言う脅しとか洒落にならない気がする……
「ああ、あれは先輩に対して素で対応していいか見極めてたんですよ。お見事、先輩は僕からの信頼を勝ち取り今に至るわけです。」
「嬉しいのか嬉しくないのかわからない!!」
いや、間違いなく嬉しいし、こういう態度の零君も好きだ。
ただ、やっぱり女の子だから優しくされたいという思いはあるものだ。
「…………(ごにょごにょ)」
「ん?なんか今言った?」
「いえ。何も言ってませんよ。」
何か言ったような気がするんだが、気のせいだったのか?
まあ、気のせいだったのだと思っておこう。
次回更新は未定ですが、まだエタらせる気はありません。
一か月以内には更新したいと思います。




