S?
先輩と昼ごはんが食べられるからと楽しみにしていた昼休み。
だが、今の僕はとても楽しいとは言えない状況に追い込まれている。
「れーい君?詳しく聞かせてもらおうか。」
皆さん、お気づきだろうか?語尾が疑問形ではなかったことに。
そして、今先輩が発している凍えるような雰囲気。
余計なことを言ったら殺されそうだ……
それは、ついさっきの話。
僕が少し浮かれた気分で部室のドアを開けると、中にいた先輩に手招きをされた。
僕が先輩のほうに近づくと、何故か持っていたおもちゃの手錠で僕の両腕を拘束。
そして、椅子に座らせられる。
それで、話は冒頭に戻る。
まず、なにを詳しく話せば開放してもらえるのだろう。
それを聞こうにも何か下手なことを言えば殺されそうなので、何も言えない。
先輩の後ろに鬼が見える。
「零君、部活が廃部になるかもしれないってこと昨日の内に知ってたよね?どうして言ってくれなかったんだい?」
尋常じゃないくらい怖い。
もう、霊もビビって逃げだしそうなレベル。
「そ、それには深い理由がありまして……」
「どうしてだい?」
「……これに関しては、僕と会長で何とかするので、先輩に余計な心配をかけたくなかったからです。」
「それだからこそ!どうしてボクに相談してくれなかった!」
先輩はそう言うと、机をバンと叩く。
「いや、だってあの時、先輩泣いてましたし、そんな雰囲気じゃ……」
先輩は気まずそうに目線を逸らすと、若干悔しそうな顔をする。
「じゃあ!帰り道に教えてくれればっ!」
「それはそうですね。すいませんでした。」
「っ!!素直に謝られると怒りにくいじゃないか!」
「理不尽です。」
「もういい!罰として、今日の昼食は無しだ!」
「え?」
思わず思考が止まる。
昼食がなしってことは、今から購買いかなくちゃいけないけど、もう何も残ってないだろうし……となると昼食抜きで午後の授業と部活をしなくてはいけないんだけど……
無理だ。耐えきれるわけがない。
いくら文化部とはいっても高校生男子に昼食抜きとか鬼畜すぎる。
そんなことを考える間にもお腹がすいてきて……
ああ、お腹なりそう。どうしてこんなにひもじい思いを……
「ああ!もうやっぱなし!やっぱり昼食あげるから!そんな絶望の淵に立たされたみたいな顔をするな!」
そう言いながら先輩は弁当箱を突き出してくる。
「……天使?」
「ん?何の話だ?」
「いえ。何でもないです。」
僕はありがたくそれを受け取ると、机の上に静かに置く。
ちなみに手錠は仕込んでおいた針金で外しておいた。
「先輩、本当に反省しているので、これからはこんなこと言わないでください。最悪飛び降ります。」
「とびおrっ!?そ、それはまずいな。」
「はい。とてもまずいので、できれば罰を与えるときはそれ以外にしていただければ……」
「わかった。たかが昼食で飛び降りられても困るしな。」
先輩の理解も得られたようで助かった。
もしもまたこれで脅すとか言われたら、僕は先輩に逆らえなくなってしまう。
「「いただきます。」」
先輩と声を揃えて、一言。
まずはから揚げから……
もはや何も言うことはない。
弁当でこの味を出せるということは、出来立てはもっと……
「ど、どう?ボク的には結構よくできたと思うんだが……」
「とても……」
「とても?」
「とってもおいしいです。もう死んでも……」
「よくないから!!死なない為に弁当あげたのに本末転倒だからな!!」
「わかってますよ。言葉の綾です。でも、それくらいおいしいのは事実です。……うん。美味しい。」
僕はそう呟くと、どんどん弁当の中身を平らげていく。
箸が止まらないとはこんな感じなのだろうか。
「……昨日よりも食べるペースが速くない?足りる?」
「…………はい、足りますよ。ただペースが速いだけなので。」
僕は口の中のあるものを呑み込んでからそう答えた。
先輩はそれを聞いても、何故か僕の口元を凝視したままだ。
正直、食べにくいことこの上ない。
「……先輩、そんなに見られていると食べにくいのですが……」
「んんっ!!?み、み、み、見てないぞっ!そんなことするわけないだろう!」
本当に見ていないのだったらそんなに目線が泳ぐのだろうか……
「…………」
「な、なに?」
最後の一口を呑み込んだところで、先輩をひたすら見つめるという技を仕掛ける。
「…………」
「ちょ、そんなに見られると……」
「…………」
「あ、あんまり見ないでくれるか?緊張して……」
「…………」
「認める!キミを見ていたと認めるからそんなに凝視しないでくれ!ボクが悪かったから!」
見つめすぎて逆にこっちが恥ずかしくなるかもしれないという決死の勝負は僕の勝ちで終わったようだ。
それより、やっぱり先輩は僕のことを見ていたんだな。
「先輩、何で見てたんですか?」
「も、黙秘だ。」
「…………」
「そんなに見つめられてもダメなものは駄目だ!」
「…………そうですか。それは残念です。」
僕はそう言うと、席を立って先輩側の席まで回り込む。
先輩は何かを察して素早く席を立とうとするが、両肩をおさえてそれを阻止する。
「先輩。本当に残念です。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今のキミからは悪い予感しかしない。獲物を前にした蛇のような、悪事を企む敵役のような、悪の組織の参謀のような顔をしているぞ。そ、その表情で近づかれると、色々やばいんだ。」
そう言う先輩は表情に少しの怯えを出しながら、僕に上目遣いを……
「先輩、僕の知識欲の為に少し犠牲になってもらいます。」
「ち、ちなみに拒否権は……」
「無いです。」
「や、やめひゃあ!!?ちょ、やめっ!ひゃ!うひゃ!」
僕は先輩の言葉を遮るように、それを開始する。
素早く先輩の方から手を動かして、右手を先輩の耳元に持っていき、左手で後頭部をおさえる。
そして、口元を先輩の左耳のところにもっていき、息を吹きかける。
その瞬間、先輩は変な声を出した。
「ほら、早く降参しないともっと大変なことになりますよ。」
「ひゃ、ひゃめ、こ、これいひょう……うひゃあ!」
なかなか先輩が口を割らないので、右手で耳を優しく触るともっと変な声を出す。
これ以上すると先輩がくすぐったさで呼吸困難になりかねないので、いったん休憩にしよう。
「先輩、耳弱いんですね。」
「はぁ……はぁ……う、うるさい……このサディストが……」
「僕はサディストではありませんよ。ただただ知識欲を満たすために行動しているだけです。僕はただ、先輩が僕を見ていた理由が気になるだけなんですよ。少し楽しかったのは否定しませんけど。」
「はぁ…はぁ……あのな、そういうことをしてはいけないと教わらなかった?」
「あ、先輩元気そうですね。話していただけないのであれば第二の策を取らせていただきますが。」
僕はあえて先輩の言葉を無視して、そう問いかける。
勿論、先輩が逃げられないようにしている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。もう昼休みも終わるだろう?だから、やめてくれないか?」
先輩がそう言うので時計を見てみると、確かにもうすぐ昼休みが終わる。
「先輩。命拾いしましたね。」
「なにその悪役みたいなセリフ……」
先輩はまだ火照っている顔に苦笑を浮かべてそう言った。
これ、R15指定は要らないですよね?
大丈夫だと信じます。
なかなかもう一つの連載だと女の子をいじめr……ごほんごほん。からかえないので、こういうシーン書いてみたかったんですよ。駄目そうなら書き換えます。
8月31日追記
この話の冒頭部分が飛んでいたのに気が付いたので、修正しました。




