情報戦開始
玄関のドアを開けると、そこには既に先輩がいた。
いつもよりも十分早く出たのだが、それでも先輩のほうが早いなんて、先輩は何時にここに来たのだろう。
「おはようございます。」
「うん、おはよう。じゃあ行こうか。」
先輩はそう言うと、僕の手を引いて歩き出す。
僕、手汗が凄かったり、体温がやけに高くなってたりしないだろうかと心配になってしまう。
たぶん大丈夫なはずではあるが、心配になってしまうし、恋を自覚したのが昨日だということもあって、まだこの気持ちになれない。
結果、今の僕は緊張している。
「先輩、これって、傍から見たら恋人に見えませんか?」
「んんっ!?そ、そんなことないと思うぞ。」
先輩は一瞬止まって、すぐ再起動したかと思えば、明らかに嘘っぽい感じで言葉を言う。
だが、ここで先輩がそんな嘘をつくメリットがわからない。
恋人に見られたかった、もしくは恋人に見られることで何かしらの利益がもたらされる。そんな場合ならわざと恋人に見せるか?
でも、それをしてもメリットが……
「零君?どうしたの?」
動かない僕を不思議に思ったらしい先輩の言葉で、僕の意識は現実に戻った。
「あ、何でもないです。少し考え事していただけで……」
「そう?じゃあ行こう。ここで止まってても意味がない。」
昨日と同じような通学路だが、僕の気分は昨日とは全く違った。
「零、呼ばれてるぞ~。」
机に荷物を置いて考え事をしていると、クラスメイトからそう呼ばれる。
「何?」
「いや、隣のクラスの深星さんが呼んでる。」
そう言われて、僕はピンときた。
教えてくれたクラスメイトにお礼を言うと、僕は廊下に出る。
そこにいた人物を見て、僕は少し驚く。
昨日見た会長にそっくりな車椅子の女の子がいたからだ。
というか、後ろにいる人は誰なのだろうか。無茶苦茶睨まれてるんだが……
「初めまして。あなたが琴木さん?」
そう透き通る声で呼ばれたので、反射的に「はい」と答える。
「じゃあ、貴女は会長の妹さんですか?」
「うん。そうだよ。これ。全部書いてあるから。」
そう言って渡されたのは、茶色い封筒。
「わかりました。ありがとうございます。」
「うん。頑張ってね。」
そう言うと、彼女は帰っていってしまった。
やけにあっさりだったと思うかもしれないが、あまり関わっているところを他人に見られるのはまずい。
最悪、何かしようとしているとばれる。それは絶対に回避しなければいけない。
あと、後ろに立っていた女の人は、何故かずっとこっちを睨んでいた。
睨んできた人の名札には『梅田 七緒』と書いてあったのを覚えたから、何かされても大丈夫だとは思うけど、少し心配が増えたかもしれない。
僕はトイレの個室に入って、封筒の中身を見る。
そこに書いてあったのは、今回の作戦と、対象の情報。
そして、会長の連絡先。
対象の名前は、宝井 智。
どっかの大会社の社長の息子で、妹がこの学校の一年生にいるらしい。
いまさらっと読んだ感じ、これだけの作戦があれば、僕の力は要らなそうだけど、念のため保険をかけておいた方がいいだろう。
会長が僕に援軍を頼んだのは、そういう目的があってのことだと思うから。
僕はスマホを取り出すと、一輝に電話をかける。
さらに多くの情報を得るために。
『もしもし。零か?』
「うん。で、収穫は?」
僕がそう訊くと、電話の向こうからため息が聞こえてくる。
『バカな生徒会役員の名前は、宝井智……まあ、この辺は知ってるか。で、面白いことに、こいつの妹はお前にいつも絡んでいるやつだってことだな。』
「え?ほんと?なら、兄弟そろって潰す?」
『お前ならそう言うと思ってもう会社や家まで調べ始めてる。この分なら、三日後までには全部わかるさ。』
流石僕の親友だと感心するほど仕事が速い。
まあ、保険だから収穫が無くてもそれでいい。あの兄妹を別々に潰すだけだから。
「流石一輝。仕事が速い。じゃあ、報告待ってるよ。」
僕はそう言うと電話を切って、トイレを出る。
あまり長電話していると、始業に間に合わない。
今回の件に関しては、僕も結構苛立っている。
それは、昨日家に帰って生徒会則を見なおしたところ、かなり興味深い内容が見つかったからだ。
『部活動に加入していない一、二年生のうち、特別な事情がない生徒を働かせることができる』というものだ。
これは恐らく、体育祭や文化祭などで忙しい時に手を増やす為のものだが、これを使えばいろいろできる。
例えば、誰かが待ち伏せしているところに生徒を行かせたりだとか。
現段階では会長が深星先輩だから大丈夫だが、この生徒会則を邪な想いで使う者も出てくるかもしれない。
そして、生徒会の宝井とかいうやつは、それをしようという思いがある。
だって、三年生である会長は、あと半年足らずで任期を終えるから。
だったら、一番安全なのは宝井とかいうやつを生徒会から引きずり下ろすこと。
「絶対にそうはさせない。」
まずは、古都先輩を説得しなくてはいけないな。
でも、昨日『心配はいらない』と言っておいたから、大丈夫だと思うけれど……
急ぎ足だったことをお詫びさせてください。
でも、仕方ないんですよ……
自分の文章力的に、このような展開が上手く書けないことに書き始めてから気が付いたんですから……




