不得手は人に聞くのが一番だと思う
僕が先にマンションのエレベーターに乗り、五階と六階のボタンを押す。
エレベーターはゆっくりと閉まり、先輩と僕、二人っきりの密室を作り出す。
「なあ、忘れてるかもしれないから言うが、明日は箸を忘れないでくれよ。」
「わかってますよ。忘れるわけがないじゃないですか。」
「まあ、キミなら大丈夫だとは思うが、念のためだ。」
「わかってますよ。先輩は心配性ですからね。」
「まだ出会って数日なのに何を言っているのか……」
先輩はそう言うが、その表情はどことなく嬉しそうに見える。
それが僕にはたまらなく嬉しい。
エレベーターが階に着いたことを表す音が鳴り、五階で扉が開く。
先輩はそこで降りると、くるりと180度回り、僕に小さく手を振る。
「また明日ね!」
その一言でも嬉しいと思ってしまうのは、やはり恋なのだろう。
「はい、また明日。」
閉まる扉を少しだけ恨めしく思いながら僕はそう返す。
その時に少しだけ見えた先輩の表情が名残惜しそうだったので、先輩も同じ気持ちなのかと思うと、少し胸が温かくなった。
先輩にとってもっと近しい存在になるためにはどうしたらいいのだろうか。全く経験のない僕にはその方法がわからない。
やはり、こういう時には誰かに相談するのが良いのかもしれない。
そんなことを考えているうちに六階に着いた。まあ、一階分しか上がらないので当然なのだが。
僕はエレベーターから降りると、誰もいない廊下を少し歩き、自分の部屋の鍵穴に鍵を差し込む。鍵はすんなりと回り、僕を部屋へ入れてくれる。
鍵を閉め、靴を脱ぐと、僕はすぐにリビングへと向かい、ソファーに座る。
そして僕はスマホを取り出すと、とある人物に電話をかける。
数度の着信音の後に、『もしもし』と声が聞こえてくる。
「もしもし。一輝?」
『ああ、そうだが。珍しいな、零が電話をかけてくるなんて。』
「まあ、色々あって。で、今時間ある?ないならかけなおすけど。」
『いや。時間はある。で、どうした?』
「相談と依頼どっちから聞きたい?」
『は?どっちもあるのか?忙しい奴だな。』
電話の向こうから聞こえてくるのは、驚愕と呆れの声。
まあ、急に電話をかけてきたらこんなことを言うのだから仕方ないのかもしれない。
僕が掛けられた側だったら、面倒になりそうだという理由で電話を切っているだろう。
『じゃあ、相談から。』
「そう言うと思った。で、相談っていうのが、恋愛相談なんだけど……」
――ガッシャーン!!
電話の向こうから凄い音がしてくるのは気のせいではないはずだ。
仮に気のせいだったとしても、特に問題もないのでそこについて尋ねるつもりもないのだが。
『は?恋愛相談!?本当か?お前が?嘘だろ!?』
「嘘はつかないよ。で、その好きな人っていうのが部活の先輩なんだけど、どうすればいいと思う?」
『……そうだな。まずは好みとかを聞いたりして、相手を知るとかだな。』
「なるほど……」
やっぱり一輝は良い奴だ。こんな相談でも真面目に乗ってくれる。
「そう言えば、古都先輩ってモテるの?その辺も知ってたら教えてほしいんだけど。」
『ああ、零が部活に入るって言ったときから調べておいたぞ。とてもモテるらしい。ま、頑張れ。』
「じゃあさ、同じ部活で、登下校一緒にして、昼は相手が作ってくれた弁当を二人っきりで食べるっていうのは他の人たちに対して有利かな?」
『……は?それ、どっちから言い出したんだ?』
「先輩。」
僕がそう答えると、一輝は黙り込んでしまう。
恐らく、色々考えているのだろう。
『……少なくとも、古都先輩は零に対して良い感情を持っていると言えるな。それがどの程度のものかはわからないが……』
「そっか!それは良かった。」
『……まあ、焦らなくていいと思うぞ?今のところ零は相当なアドバンテージを持っているからな。』
「そっか!そう言ってくれてありがとう。おかげで余裕ができたよ。」
『ああ、良いってことよ。で、もう一つの依頼っていうのは?』
急にスイッチを切り替えたように真面目なトーンになる一輝に、僕もスイッチを切り替える。
「ああ。実はちょっと本気で潰しにいこうかと思っててね。で、調べて欲しいのは……」
僕は調べてほしいものを一輝に全て伝える。
『了解だ。いつまでに調べればいい?』
「一応明日の放課後までに一度報告してくれ。追加でお願いするかはその時に伝えるよ。」
『わかった。まあ、そこまで深くは探れないかもしれないが、良いよな?』
「まあ、駄目なら駄目で面倒くさいけど遠回りして潰しに行くからいいよ。」
『ああ、相手に同情する。』
一輝はそう言うと電話を切る。恐らく既に情報収集を始めたのだろう。
趣味も極めればここまでいくのかと尊敬する。
さあ、零君が動き出しましたね。
このあとどうなるのでしょうか……
『天然先輩と(以下略)』に比べて一話あたり千字くらい多いからきつい……




