いくぜ!俺の必殺技!
「なぁ、俺と戦ってくんねぇかな?」
金髪モヒカン棘々アーマーは、その長い舌をぺろりとさせて笑った。
ピンチだ。
どう見ても悪役だ。そうとしか見えない。
この男が、暴漢に襲われているヒロインを救ったり
モンスターから村を守ったりする絵面は想像できない。
ピンチだ。
連載始まって以来、いや前作含めて、この異世界に来てから最大のピンチだ。
だって、コイツは俺を『伝説の勇者』と知って絡んできている。
あんな恐そうな美人局のオッサンでさえ
俺の素性を知ってビビりまくったというのに
俺のTUEEEE!伝説が独り歩きして
チー散歩どころかグレートジャーニーしちゃってるのに・・・
コイツは、敢えて戦いを挑んできている。
見た目以上にブチ切れているか、自分の名前も書けないアホだ。
もしくは
TUEEEE!奴にボコボコにされたい願望のどーしよーもないドMか?
「おい、ヒロシ。どうしたんだ?お前らしくもない」
ん?コイツの仲間か?
なんか、ずんぐりむっくりの鎧男がヤツを止めてる・・・
って、ヒロシはねえだろ!そのナリでヒロシは。
「そうだ、ヒロシ。大体、勇者の方に失礼だろ」
あ、なんかもう一人も止めに入った。
うん、そうだ、そうだ。『伝説の勇者』に失礼だ。
いいぞ!この流れ!
「ああ、暴れるドラゴンから村を救い、領主の娘を助けても
お礼の金貨一枚受け取らなかったお前がどうした?ヒロシ」
「普段、品行方正なヒロシさんらしくないな」
「捨てられた野良ドラゴンを拾って育てた優しいヒロシさんが何故?」
おいおい、お前らコント集団か?
セリフが説明臭くて、わざとらし過ぎだろ!
てか、野良ドラゴンってなんだよ!
「オラ、強いヤツ見っとワックワクすんだ!」
あれ?
おい、ヒロシ、一人称チェンジしてますけど・・・
「俺はこの世界に大盗賊時代をもたらした、あの人みたいになりてぇんだ」
はい?何時代なの?今・・・
「盗賊王に、おれはなる!」
コラーっ!
パクリがベタ過ぎて、ジャンプしちゃうぞ!
「なら、仕方ないな」
「ああ、そういう事なら・・・」
「うん、しょうがない」
おいおい、そんなんで納得すんなよ!
「うむ、同じファイターとして、気持ちはわかるぞ、ヒロシ!」
あれ、美人勇者さんまで・・・
ちょっと待てよ!
「そういう訳だ、レジェンドさんよ、表に出な。
まぁ、棺桶を準備する時間ぐらいは待ってやってもいいぜ!」
おい、セリフが悪役に戻ってるぞ!ヒロシ !
くそ、ここは俺の必殺技で切り抜けるか・・・
【俺の必殺技 その①】
たらららったら~!
――人懐っこい笑顔。――
「いやぁ、参ったなぁ、ボク、もう『伝説の勇者』引退しちゃってるんだよねぇ~」
「はぁあ!ビビってんのか?コラぁ!格闘家に『引退』の二文字はねぇんだよ!」
いや、俺、格闘家じゃないし・・・
あれ?必殺技、効いてない?
【俺の必殺技 その➁】
たらららったら~!
――褒め殺し――
「いやぁ、ヒロシさん強そうだなぁ、いや、強いでしょ!
それに、カッコイイ!超イケメン!もう、女子にモテモテでしょ!
ああ、敵わない!勝てないなぁ~
どこを比べても、全部ボクの負けです!はい、参りました!」
「こ、こいつ!俺をバカにしてやがんのか?」
いえいえ、そんな事は・・・
あれ?余計にキレちゃった?
「おい、あれはないよな・・・」
「ああ、いくら『伝説の勇者』だからって、言っちゃイケないよな・・・」
ん?
なんだ?周りの反応が・・・おかしい・・・
「ひどいわ!ヒロシさんは良い人だけど、『ルックスが女子には生理的にダメ』だなんて、みんな思ってても口に出さないのに!」
おい、そこの女子、思いっきり口に出してますけど!
「ああ、そうさ、俺は彼女いない歴と年齢がイコールなブサメン童貞さ」
あれ、ヒロシ泣いてる?
「助けた娘にもキモがられ、ショックで礼金もらい損ねたブサイクさ!」
それが、真相?
「育ててやったドラゴンも、俺の顔に嫌気がさして村を襲ったほどのイケテナイ顔だよ!」
マッチポンプかよ!
てか、そこまで酷い顔ってアリ?
「だから、街では大人しく『いい人』してたのに・・・
もう!頭に来た!念仏唱える暇もやらねえ!今すぐここで、ブッ殺す!」
ひぃ~!!!
も、もう、アレしかない!
【俺の究極奥義】
――土下座!――
俺は、【奥義】発動のため両膝を地につけた。
「す、すんま・・・」
「ひ、ひいぃぃぃ!」
ん?
モヒカンが尻もちついて悲鳴を上げたぞ・・・
あれ?俺は「すんません」と両手を付こうとしたのだが・・・
「スンマセン!ま、参りました!ひいぃぃぃ!」
すんませんと言ったのはヒロシの方だった。
「た、助けてください・・・命だけは・・・ホント、シュンマシェンでした!」
あれ?ヒロシがビビって、チビッちゃってる・・・
「どうした?」
「なんだ?何があった?」
と、周りの人々の反応。
俺もキョトン・・・
「貴様等には見えんのか?あの、おぞましいオーラが!」
え?美人セクシーアーマーのお姉さんがなんか言ってる・・・
「幾度となく死線を越えて来た私でさえ、即座に死を覚悟したぞ!あの勇者殿のオーラには!」
ん?
俺、なんか出てる?
見上げても振り返っても、何も見えん・・・
「そうか、強いヤツにしか見えないのか!」
「道を究めた者だけに怖れられる究極の強さってヤツか!」
「さすが、勇者さま!」
「すごいぞ!『伝説の勇者』!」
あれ?
やっぱ、俺SUGEEE?
立ち上がって、俺は壁の鏡を見た。
リアルに、以前より鼻の下が長くなっているような気もするが、
うん、イケメンだ。
オーラは見えないが、眼光でも鋭くなったか?
うん、イケメンレベル=アップだな。
だが・・・
その鏡がマジックミラーで、裏側からこちらを覗いている者がいたなどとは
当時の俺は知る由もなかった・・・
次話予告
熱帯夜、真夏の夜の夢、エロい夢。
現実と間違えそうな触感
味や匂いまでも感じる事ができる究極のVR
だが、しかし、
必ず良い所で目が覚めるのは、何故なのだろう・・・
次回「エッチな夢は、何故こんなにリアルなんだろう?」
あれ、グルメ路線便乗はあきらめて、また、そっち?