ブラジャー事変(前編)
夏が終わった。
アルカンタ王国も今はもう秋・・・
お約束の水着イベントや濡れTコンテストへの期待は、秋風と共に消え
薄着だった女性たちは、少し厚手の布を身に纏う。
さようなら夏、さようなら夢のような透け乳パラダイス・・・
だが!
服の下はノーブラなはずだ!
ナチュラルな胸の揺れも、服に浮かぶ頂点も俺には解る。
わかるはずだ!
俺の勤めていた宿屋兼居酒屋が焼失して二週間が過ぎた。
にもかかわらず、俺はまだ王都にいる。
魔王討伐の旅に超ノリノリだった俺なのだが、出端を挫かれてしまった。
魔王城が消失したのだ。
城が建っていた土地ごと綺麗さっぱり消えたそうだ・・・
一体、何が起こったのか誰にも分らないらしい。
そんな訳で、行き先を失った俺は、日がな一日街でブラブラしながら王都の女子たちを愛でている。
「変態勇者のお兄ちゃんは、今日も町の女の人をいやらしい目で舐め回すように見ていた・・・と」
「リリスちゃん、お兄ちゃんは変態じゃないし、舐め回してもいないよぉ」
見た目幼女のリリスちゃんが俺の隣で『変態観察日記』を執筆している。
そう、俺は今、リリスちゃんと一緒だ。
その正体は超メジャー悪魔ではあるが、幼女の姿に封印されている。
見た目も言動も出会った頃のリリスちゃんそのものだ。
そんな幼気な女の子が大聖堂の地下牢に幽閉されているのを見るに見かねた俺は、伝説の勇者という名のもとに彼女を引き取る事にした。
何かあったら、全責任を俺が取ると司祭や王様相手に大見得を切ったのだ。
シスター・ジルが後見人となってくれて、俺とリリスちゃんは、晴れて町外れの小さな家で暮らしている。
だが、この暮らしには一つだけ条件が付けられた。
監視役を同居させるという条件が・・・
「えー、勇者殿は幼女リリスにデレまくっていた・・・幼女趣味疑惑あり・・・それとも、悪魔の姿のリリスを想像して欲情しているのだろうか?・・・」
おい!七三執事!変な事を報告書に書くな!
悲しいかな、監視役とは、あのガセネタ諜報員ジェームスの事だった・・・
髪の毛を白く染め、セバスチャンと名乗り、執事に変装しているつもりだそうだが、例の七三分けは健在だ。
監視役を付けるんだったら、美人女スパイにしてくれよ・・・
うん、いいなぁ、メイド服の美人諜報員。
王様かマルコ司祭に提案してみよう。きっと二人とも鼻の下を伸ばして大賛成してくれるはずだ。
え?あのアホの魔女っ娘は、一緒じゃないのかって?
一応、誘ってはみたんだが・・・
「天使の私が悪魔と同居なんてできる訳ないじゃないですか!
大体、ケントさんとひとつ屋根の下で暮らすのだって私の貞操が危険過ぎますよ!
飢えたライオンの檻の中にカワイイ仔ウサギを入れるようなものです!
毎日、お風呂とか着替え覗かれたり、洗濯前の下着をクンクンされたり、お風呂の残り湯飲まれたりするのは絶対嫌です!」
と、丁重に断られました・・・
で、魔王の居場所が分かるまでカレンは王城で暮らす事となった。
おかげで、身に覚えのない罵倒や蔑み顔とは縁の無い平穏な毎日を俺は送っている。
嗚呼、穏やかな日々。
美しきご婦人たちを眺めて過ごす時間。
秋風にそよぐ長い髪が、いい匂いを俺の元へと運ぶ。
上下に揺れるたわわな胸。その柔らかな揺れ具合は・・・
ん?なんだ?
この制御されたような揺れ方・・・
以前どこかで見た事があるような・・・
はっ!
これは、体操着の胸の揺れ方だ!
学校の体育の時間に見た女子の胸の揺れ加減と酷似している!
しかし、ここは異世界、ブラジャーの無い世界。
俺の見間違いか?それとも重ね着がたまたま乳房のホールド機能を・・・
「な、なにぃ!」
俺は自分の目を疑った。
大声で驚嘆の声を上げて立ち上がった事も忘れ、俺は目の前の光景を確認するのに必死だった。
「ブラジャーを着けている・・・」
道往く美女がブラを装着していた・・・
しかも、服の上から・・・
シャツ、いや、ブラウスというのか?その上に隠すことなく・・・
ブラウス・オン・ブラジャー。ブラ・オン・ブラだ!
なんだこれ・・・俺は悪い夢でも見ているのか?
いや、こっちにも!
なに!あっちにもいるぞ!
「どうしたの?変態のお兄ちゃん?」
「い、いや、その・・・街往くお姉さんたちが胸に変なもの着けているなぁって思って・・・」
俺は、リリスちゃんに変態じゃないと言う余裕も無かった。
「おお、あれは最近流行りの『ブラジャ』というものですな」
「さ、最近の流行りだとぉ?」
俺は、思わず七三ニセ執事の胸ぐらを掴んでいた。
「え、ええ、ご婦人たちの間で胸を美しく見せると評判でして、服屋や防具の店でも売り出したと聞いております」
な、なんだとぉ・・・防具屋でも売っている?だとぉ!
なんだ、これは?
この中世欧州風味の異世界にブラジャーなどという文化は存在しないはず・・・
なんだ?何が起こった?
一体これは誰の仕業だ・・・
この異世界で『ブラジャー』などという概念を持っている奴は・・・
くそ・・・またアイツが余計なことを・・・
俺は、鬼の形相で王城へと向かった。
この異世界にブラジャー文化を広めてしまった不届き者に文句を言う為だ。
城の入口で衛兵が俺に挨拶をした。
「おお、これは勇者殿、よくぞいらっしゃいました。本日はどのような御要件で?」
「く・・・」
「く?どうなされました?勇者殿。そんなにプルプルと震えて・・・」
「クソビッチのアホ魔女っ娘は何処だぁぁぁ!」
「変態のお兄ちゃんは、激オコプンプンで髪の毛が逆立っていた・・・っと」
「リリス様、素晴らしい描写でございます。執事の私も負けておられませんな・・・ふむ、この度の報告書は『変態主人ブラ見て大興奮』というタイトルにいたしましょう」
次話予告
「オワルオワル詐欺」の後は
「この後すぐ!」とか「まもなくスタート!」などとTVCMの間に流れる
「ヤルヨヤルヨ詐欺」に発展するかと思いきや・・・
以外にも、しれっと始まった第二章。
しかし、その第一話のタイトルが「ブラジャー事変」とは・・・
次回「ブラジャー事変(中編)」
中編?ってことは、最低でもあと二話やるってこと?
引っ張りすぎじゃない?
ブラジャー伸びちゃうよ!




