力技
「えっと・・・エントロピーの増大と・・・ローレンツ変換が・・・」
鼻歌を歌いながら紙に計算式を猛烈なスピードで書くカレン。
四つん這いになって、嬉々として計算をする魔女っ娘の周りには何十枚もの数式が書かれた紙が散らばっている。
一体、何を計算しているのやら・・・
俺は、この魔女っ娘が『この世界が崩壊します』と言ったので、俺はどうなる?と聞いただけなのだが・・・
全身タイツ風トナカイコスで、俺には読解不可能な数式を書きなぐるカレン。
ミニスカサンタのサキュバス三姉妹がそれを覗き込むように屈んだりしゃがんだり・・・
う~ん、もうちょっとでサンタさんのスカートの中が見えそうなのだが・・・
何色なんだろう?白か?黒か?赤なのか?それとも緑色?
ええい、いっそのことこの状況で【裸エプロン】に戻れ!
「あの、ケントさん、無駄ですよ。この認識世界の崩壊はもう始まってますから・・・」
相変わらず超ハイスピードで数式を書きながら、カレンは言った。
「時空の収縮と共に、認識の具現化も負の方向へと転換されてますから・・・」
相変わらずこの魔女っ娘の言っている意味が俺には解らない・・・
「ハフニールがリモコンを破壊した時点でアウトなんですよ」
何がアウトなのか解らんが・・・この夢世界崩壊の元凶であるあの金ぴかドラゴンは、事の重大さに気付いたようで・・・
『あ、僕、祠の鍵かけ忘れたかもしれない』などと言って、どこかへ飛んで逃げていきやがった。
願いを叶えるどころか、夢のような世界を壊しやがって・・・
やっぱり竜は、欧風じゃなくって中華風だな。
「ふぅ・・・」
計算する手を止めカレンが大きく息を吐いた。
「わかりましたよ、ケントさん」
一枚の紙を持って立ち上がったカレンは、デフォルトの魔女っ娘コスだった。
「この世界が崩壊した後、ケントさんの意識は、今、投影されている過去編の世界と融合されます」
はい?
「今見ている過去の再現に時間軸が加わる事によって・・・えっと、ケントさんのミドリムシ並みの知能でも分かるように言うとですね、もう一回、魔王城での冒険の件を経験する事になります」
え?・・・ということは・・・
また、あのグダグダをもう一度?
いや、待てよ、今の記憶を持ったままなら・・・
「なるほど・・・ボクたちも復活したこの体は、次元の整合性で、しかるべき時空に転移するわけか・・・」
バニーガール姿のアルプさんが、カレンの計算式を覗き込んで頷いている。
数式でそこまで解るんですか?
「でも、この理論だとハフニールも現世に復活するってことだよね・・・」
「そうねぇ、AMPSパラドクスに近い矛盾だけれど、特に問題はないはずよ」
あの・・・スクプちゃんに、エムプさん・・・あなた方までその数式の解で納得してしまうんですか?
どんな答えがその紙に書いてあると言うんだ?
「カレン、ちょっとその紙見せてみろ」
「これですか?いいですけど、ケントさんには解らないと思いますが・・・」
うるせー!いいから見せろ!
俺はカレンから紙を取り上げた。
「うむ、なになに・・・」
難しそうな、見た事もない記号や方程式が書かれた紙の下の方に、丸で囲んだ大きな文字が目に入った。
【π π = h ∞】
これが答え?だと・・・
バカな中学生が数学の教科書に書く落書きじゃねーか!
「わかりましたか?ケントさん」
「わかるかー!」
俺は紙をくしゃくしゃに丸め地面に叩きつけた。
それと同時に、大地を揺さぶるような衝撃波に見舞われた。
【過去の俺】が空から堕ちてきて、リリスちゃんと衝突したのだ。
次の瞬間、俺の視界は、真っ暗になった。
夢の認識世界が崩壊した。
次話予告
三か月の空白。
それを取り戻すために更に三か月。
こんな事なら、しれっと何事も無かったように連載を再開していればよかったのでは・・・
次回「むしろマーイ・・・」
いよいよ第一章完結か?




