総集変
「ああ、なんか懐かしいなぁ・・・そうそう、ここでリリスちゃんが途方に暮れていた俺に声を掛けてくれたんだよなぁ」
俺は、自分の記憶を振り返っていた。
と言っても、リアルな3D映像を見ている。たぶん・・・
一人異世界に取り残され、行く当ての無い俺を宿屋の娘リリスちゃんが拾ってくれた。
宿屋の雑用係として雇ってくれたのだ。
「おお、エムプさん、久々に見てもお美しい。ああ、アルプさんも・・・スクプちゃん!うん、超絶カワイイ!」
その宿屋兼居酒屋は、リリスちゃんの美人姉三人と美人母のスドさんが、か弱い女の細腕で繁盛させていた。
「ふん、何が女の細腕ですか・・・スドは八百歳の魔導士だし、エムプたちはサキュバスじゃないですか」
「サキュバスだろうが魔導士だろうが・・・ああ、幸せだったな・・・あの頃の俺・・・」
「てか、ナニ泣いてるんですか、ケントさん。奴らは、居酒屋や宿屋の男客を餌食にしていた極悪人ですよ」
そう、後に分かった事だが、しばしば宿屋の周辺で行方不明者が出るのは、彼女たちの仕業だったらしい。リリスちゃんは、それを黙認していたものの、あまり快く思っていなかったんだ。
「そうですかね、リリスは伝説の勇者であるケントさんの精気を狙って近づいてきたんですよ、だって☓☓ですからね、アイツは」
解説しよう、カレンは『悪魔』という単語が天界の事情でNGワードになったため、『悪魔』と発言すると伏字に変換されてしまうのである。
「いや、リリスちゃんは、ただ、家族が欲しかったんだ。十歳の少女の姿に封印されて、淋しくって心細く思っていた超メジャー悪魔にスドさんが話を持ち掛けたんだ」
「まぁ、確かに一番悪いのはあの魔導士ですかね。本来、サキュバスは命を奪うほど精気を吸いませんから」
齢八百を超える魔導士のスドさんは、その肉体の維持のために男たちの生命力を魔法で奪っていたそうだ。
エムプさんたちサキュバスに精気を吸わせ、淫夢を見ている無抵抗の男たちを襲っていた。ああ、あんな優しそうなママだったのに、女って恐い・・・
「結局、カイコさんとアベオさんの二人の騎士に退治されたんですから、悪の栄えたためし無しですよね」
うむ、黒の騎士ことカイコさん。美人でボン・キュッ・ボンのお姉さま。
あ、リモコン使ってカイコさんの全裸シーンをスロー再生しよう。
待てよ、立体映像ってことは、いろんな角度で、しかも、どアップで愛でる事が出来るじゃないか!
「まったく、相変わらずサイテーなクズ男ですね、ケントさんは・・・
カイコさんは、体は女でも中身は男ですからね」
そう、悲しいかな、カイコさんは、ああ見えても男だそうだ。
白騎士ことアベオ、金髪イケメンの聖騎士とカイコさんは双子で
アベオ曰く『生まれてくる時に【転校生ネタ】やらかしちゃったのよ』だそうだ・・・
【転校生ネタ】って・・・
とにかく、出産の時に双子の体と心が入れ替わってしまったらしい。
それで、アベオは超イケメンなのに中身は乙女、カイコさんはスーパー美人なのに中身は漢なのだという・・・
この双子の騎士は魔王討伐隊に加わるため南の都から王都へ来たのだが、連続行方不明事件の捜査を教会から依頼された。
白と黒の騎士二人は、リリスちゃんの宿屋を怪しいとマークしていたところ、俺がサキュバスのエムプさんたちに襲われる場面に遭遇し、俺たちを助けてくれたんだ。
そんな事は、どうでもいい!
カイコさんの裸体だ!中身はどうでもいい!あの肢体があればいい!
「やっぱり、サイテーなゲス男ですね、ケントさんって・・・」
カレンの蔑み顔もなんのその、俺は血走る目でリモコンを操作した。
宿屋が火に包まれ、リリスちゃんが巨大悪魔に変身した場面が早送りされ・・・
悪魔の波動で俺たち皆の服や鎧が吹き飛ばされた・・・ここだ!
『見ろ!遂にリリスが覚醒するぞ!』
茂みから全裸で立ち上がるカイコさん!
よし、スロー再生だ!
って、あれ?画像が乱れて・・・なんか粗くなってる・・・
「ああ、これは悪魔の波動の影響ですね」
何それ・・・
「波動は空間座標と時間に影響を及ぼしますから・・・」
いや、だからってなんで肝心な所がAVみたいにモザイクかかってんだよ!
どうにかなんないのか?これ!
「そうですね、確率振幅を修正すれば波動の打ち消しを行えますけど・・・」
確率振幅って何?
「あれ、小学校の理科で習いませんでしたか?波動関数とかディラック方程式とか」
知らねーよ!
「あと、DVDのモザイク消す機械の99%は偽物ですから買わないように」
知ってるよ!100パー嘘だって!
ちくしょう!こうなったら・・・
「ケントさん・・・薄目でガン見しても、見えないものは見えないんですよ・・・」
ああ、悲しき漢の性・・・
次話予告
駄作者一月九日の予定・・・
平日の昼間っからゴロゴロ~ゴロゴロ~
あ~あ、コーラ飲んでゲップするたびに百円入らないかなぁ~
ゴロゴロ~ゴロゴロ~
ミカンの白い筋一本取るたびに十円くれないかなぁ~
ああ、何故、人は中々受け入れる事ができないのだろうか?
正月休みも、三連休もとっくに終わっているという現実を。
次回「カウポテ」
『完結編』と謳っていながら、相変わらず話が進みませんが・・・




