脳筋(のうきん)
「わたくしは『聖女』と呼ばれるには相応しくない人間です」
俺はシスター・ジルの悲し気な後ろ姿を思い出していた。
「神に仕える修道女として・・・決して拭う事の出来ない過ちを犯してしまった汚れた存在なのです・・・」
シスター・ジルの生まれ故郷は、彼女がまだ幼い頃魔物に襲われたそうだ。
そして、村の危機を救ったのが王立騎士団。
その騎士団に同行していたのがマルコ司祭。
マルコは少女ジルのヒーローであり、憧れだった。
二十年ほど前の話らしいが・・・その当時でもエロ司祭は百八十歳を行ったり来たりの超ジジイだよな・・・
「わたくしは十五の時に修道女となり、尊敬する司祭様にお仕えすべくこの大聖堂へと参りました。そして、司祭様と同じ時を過ごす喜びを神に感謝する日々を重ねてゆくうちに、わたくしの心に邪な感情が・・・」
ぶっちゃけ、恋しちゃったらしい・・・まぁ、多感な思春期の女の子だから仕方ないのかもしれんが・・・なぜその相手が二百歳の爺さんなの?
「わたくしが懺悔をしていると、そこへ司祭様がやってきて・・・『それは人として当たり前の感情であり、罪ではない』と仰りました・・・そして、その日の夜、わたくしたちは男女の関係に・・・」
いやいやいや、何も知らない少女とはいえ、ちょっとチョロ過ぎないかな?
「わたくしは自分の犯した罪、色欲に屈した自らの愚かさを恥じ、修道女を辞めようと思い神に懺悔していると、そこへまた司祭様がいらっしゃり、わたくしを抱きしめて仰ってくださいました『そなた一人の罪ではない、愛し合う事が罪だというのなら私も共に罰を受けよう』と・・・」
クソー、歯が浮くセリフを抜け抜けと・・・ジジイは入れ歯か?
「そして、また、わたくしたちは罪を重ねてしまいました・・・」
なんでそうなる!
「その後も、『二度も三度も一緒であろう』とか『減る物でもあるまい』とか『そなたも欲しいのであろう』などと囁かれ・・・何度も罪を・・・」
うわぁ・・・典型的ダメ男とそれに引っかかってしまうダメンズウォーカーだ・・・
てか、もう聞きたくな~い!もう思い出したくな~い!!
で、このよぼよぼのジジイが司祭のマルコなのだが・・・
「シスター・ジルはどこかのぉ?頼まれておったアレを持ってきたのじゃが・・・」
「シスターなら司祭様をお探しに行かれましたが・・・『アレ』とは何の事でしょうか?」
「おお、これはブラザー・ジェームス、相変わらず見事な分け目じゃのぉ」
マルコは七三エセ修道士の髪の分け目に十字を切って祈った・・・
どんな挨拶だ!
「うん、頼まれておったのはこれなんじゃが・・・」
マルコは、なんか胡散臭い水晶玉を持っていた。
「ほう、これは?」
「たらららったら~!記憶を映し出す水晶!・・・じゃ」
おいっ!そのノリはパート1で封印したはずだ!
って、記憶を映し出す?
「これは、徳の高い魔導具でな、人の記憶を映し出すことができるのじゃ」
そうか、シスター・ジルは俺のために・・・
「ほう、映し出すとは、一体どのように?」
「うむ、まぁ、たとえばじゃ・・・」
マルコはそう言って水晶玉に手を当て、瞑想するように目を閉じた。
すると水晶の上の方にホログラムのような映像が現れた。
『この!クソジジイ!』
『ひ、ひぃいい!シスター・ジル、いや、女王様!水攻めとは、また、新鮮ですな!』
この映像は、あの時の・・・沐浴室での出来事だ・・・
ああ、めくり上げた修道服から覗き見えるシスター・ジルの足が・・・
はっ!俺は何を欲情しているんだ!
「ほう、こんな『ご褒美』を頂くとは・・・一体どんな事をなさったのですか?司祭様」
こらこら、アホ七三ブラザー!『ご褒美』じゃねーだろ!
「いやいや、修道女たちの成長ぶりを確認しに沐浴室へ行って、いつもの通り窓から見ておったのじゃが・・・」
それ、ただのノゾキ常習犯!
「見事な成長ぶりに、我慢できなくなってのぉ、思わず一緒に沐浴してしまったのじゃ、てへぺろ」
てへぺろじゃねー!この変態司祭!
「ほう、その様子・・・その記憶を映し出す事は出来ますか?司祭様」
こらこら、エセエロ修道士!・・・いや、むしろナイスだ!七三!
「うむ、造作もない・・・ほれっ!」
マルコがまた水晶玉に念を込めると、映像は修道女たちの沐浴シーンに・・・
おおっ!ナイス!ジジイ!
美女たちの生まれたまんまの姿が!
「ほう・・・」
俺の隣では七三エセ修道士が眼鏡を押さえ映像に釘付けになりながらも、ブラインドタッチでメモを取っていた。
その俺たちの背後で声がした。
「一体、何をやってらっしゃるのかしら・・・」
そこには、顔は笑っているが両目に怒りの炎が燃えるシスター・ジルがいた。
「こんな徳の高い魔導具を、そんな下劣な事に使うなんて!」
そう言ってシスターは水晶玉を取り上げた。
すると玉からはチョイ悪ジジイ風白髪オールバックなマルコの顔が映し出された。
『愛し合う事が罪だというのなら私も共に罰を受けよう』
うつむき赤面して体を震わせるシスター・ジル・・・
彼女が片手で水晶玉を握りしめると、その徳の高い魔導具は粉々に砕け散った。
水晶ですよね?
りんごじゃないよね?
いや、りんごでも凄いよね・・・
次話予告
クリスマスもしれっと終わり、間もなく今年も終了・・・
ほぼ月イチとなっている更新ペースもスルーして
さて、大掃除でも・・・
いかん!換気扇の汚れを落とすタワシが無い!
おお!神よ!この年の瀬にこんな試練を・・・
次回「カミノコダワシ」
ちょっと百均行ってこよー




