ほんすじ
「ヒャッヒャッヒャッヒャッ!これは超傑作ですよ!ケントさん!大ヒット間違いなしですよ!」
カレンがまだプロットすら書けていない小説に自画自賛の妄想を始めてしまった・・・
「『泣きすぎてティッシュが2箱空になりました』とか『面白過ぎて一晩に三回読み返しました』とか『高校生の頃の自分にプレゼントしたい本です』なんて書評が書かれるのが目に見えるようです、ハッハッハッ!」
なんか電車の中で見る広告に書かれていそうな胡散臭い書評だな・・・
「こうなったら、片っ端からweb小説賞に応募するのもありですね」
応募するのは勝手だが、とりあえず本作の軌道修正をしなければ・・・
ということで・・・俺は妄想が暴走し始めたアホ魔女っ娘を放置して、ある人物に会いに来た・・・
サンタマエリア大聖堂。
ネーミングについて俺はもうこの異世界でツッコむ事はやめた・・・
とにかく、ここは王城の隣にある教会施設だ。
「お待ちしておりました、勇者ケント様」
俺を出迎えてくれた修道服を着た長身の美人はシスター・ジル。
若くして聖女という高い位の人物らしいのだが、実に気取りのない人物で皆彼女を『シスター』と呼ぶ。優しく聡明でほぼ完璧な理想の女性と言ってよい。
「何か、わたくしに相談がおありだと伺っておりますが・・・」
「ええ、実は・・・その、少しややこしい話なんですが・・・」
そう、俺は今回の件、物語が放置されてしまった問題について相談するためこのシスター・ジルに会いに来たのだ。
「・・・なるほど、web小説というのが何かは解りませんが、ケントさんたちのこれまでの冒険を文章にしてまとめたいという事ですね」
「はい」
さすがシスター、どこぞのアホ魔女っ娘とは違い話が早い。
「ただ、わたくしが力添えさせて頂いたのは、リリスさんの件だけですし、その前後の冒険譚を文字に起こすとなると・・・」
そう、シスターにはリリスちゃんの件でお世話になったのだ。そして、最近は何か相談事がある時や、癒されたい時に俺はシスター・ジルに会いに来るようになった。
ただ、この大聖堂には奴がいる・・・
「大変です!シスター・ジル!」
俺たちのいる部屋に一人の若い修道女が飛び込んで来た。言うまでもないが、この修道服を着た少女もとてもカワイイ。
「シスター・テレサ、来客中ですよ。一体、どうしたというのです?」
優しく穏やかな顔でシスター・ジルは慌てている女の子を諫めた。
「暴走です!また、あのお方が!暴走してます!」
その言葉を聞いて美しく穏やかな聖女のテンプルにプンプンマークが浮かび上がった。
「・・・け、ケントさん・・・少し失礼致します・・・」
にこやかな顔で静かにドアを閉めてシスターは部屋を出て行ったのだが・・・
「おんどりゃぁ!あのクソジジイ!」
部屋の外で彼女の怒号が聞こえ、走り去る音が激しく廊下に響いた。
きっと、おそらく、いや、間違いなく『クソジジイ』とは奴の事だ・・・
そう、あの齢二百を越えて今尚絶倫のエロボケ聖職者・・・
司祭のマルコだ。
修道女専用沐浴室。男子禁制の部屋の前に俺は立っていた。
「ひ、ひぃいい!シスター・ジル、いや、女王様!水攻めとは、また、新鮮ですな!」
部屋の中からエロ司祭の悲鳴にも似た歓喜の声が聞こえて来た。どうやら女風呂に乱入した『クソジジイ』をシスターが懲らしめているらしい・・・
「あ、熱湯を、そんなところに!ああ!女王様ぁぁぁ!」
「てめぇ!ジジイ!汚ぇもん見せんじゃねぇ!ちゃんと手で隠しやがれ!」
今の罵声はシスター・ジルの声だ・・・
先程、『ほぼ完璧な理想の女性』と彼女の事を称したが、この『ほぼ』が取れないのはこれが理由なのだ・・・
シスター・ジルは、エロ司祭の事に関して、特に奴が粗相をすると人格が変わってしまう・・・
この大聖堂の主を口汚く罵り、容赦の無い仕置きを鬼気迫る形相で遣って退けるのだ・・・
ほぼ伏字になってしまう聖女の罵倒と司祭の喜悦に満ちた絶叫が数分続いた後、部屋の中が静かになった。そして、程なくして鬼の形相のシスター・ジルが沐浴室から出て来た。手にしたロープの先には筋骨隆々のマッチョなオッサンが全裸で引きずられている。全身をロープで縛られたふさふさとした白髪のマッチョ、司祭のマルコだ。
「おう、これは勇者殿、久しぶりだな!」
どこかスッキリしたさわやかな笑顔でマルコ司祭は俺に挨拶をした。
「どうだね、このシスター・ジルの亀甲縛り、完璧であろう。うん、今度そなたもシスターに縛ってもらうと良い!ハッハッハッ!」
白い歯を輝かせた自慢そうな笑みだったが、俺は全く羨ましくなかった・・・
「ハッハッハッ!・・・あっ・・・」
笑いながら胸筋ヒクヒクさせていた脳筋オヤジの体がしぼみ出した。
「い、いかん・・・魔法薬が・・・サンバイアグラが切れた・・・」
魔法薬のネーミングについても俺は敢えてツッコまない・・・
見る見るうちに暑苦しい初老のマッチョが、しょぼくれたスルメのような老人に変身していった。筋肉モリモリだった体を縛っていたロープが首だけを残して解けた。
「あわ、あわ・・・あー・・・ジルしゃんや・・・薬を・・・ワシにくしゅりをくれんかのぉ・・・」
ひなびた老人を見下ろして聖女は吐き捨てるように言った。
「フン!誰か、この汚物を懺悔室にぶち込んでおやり!」
慌てて二人の若い修道女が駆け寄りマルコ司祭を両脇から抱え上げた。
「さぁ、司祭様行きましょう」
「どうぞ、おつかまりください・・・キャッ!」
マルコはこの期に及んでもシレっと修道女の尻を触っていた・・・
二人の修道女に抱えられたヨボヨボの老人の後ろ姿を仁王立ちで見送ったシスター・ジルは穏やかな顔で俺に振り返った。
「ああ、ケント様、お見苦しい所を・・・どうか神のご加護を・・・」
目を閉じ祈る姿は美しく、まさに聖女だった。
「・・・それで、先程のご相談の件ですが・・・」
そうそう、エロボケ司祭のせいですっかり忘れていたが、ここに来た本来の目的は小説の軌道修正だった・・・
「ご要望に添える人物をご紹介いたしますわ」
次話予告
結局、タイトルに反して本筋には戻れなかった今回・・・
粗筋、売れ筋、本筋と続いた「スジ」シリーズも遂にクライマックス?
次回「情報筋」
「じょうほうきん」ではありません、「じょうほうすじ」と読みます・・・




