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彼女はそれ以上でもそれ以下でもない

 私、白石つむぎにはいわゆる“モテ男”の幼馴染がいる。建売住宅地の隣同士になったのが縁で、私と幼馴染の青山成利あおやま・なるとしはそれこそ赤ちゃんの頃から一緒にいることが多かった。

 私の子供の頃の写真にはほとんど成利が隣にいて、それを当たり前だと思っていた。でも一緒の写真は小学校入学式以降ばたりとなくなる。

 私は知らなかった…成利が女の子に人気があるなんて。私から見れば背が高くて(注:他の男子と比べて)、おじさん似の顔(注:おばさんが相似形のようだと評していた)なだけなんだけど、周囲の女の子たちの評価は違っていた。

「白石さん、青山くんと幼馴染なんていいなあ。青山くん、かっこいいよね~」

「白石さん、これ青山くんにわたしてっ!!お願いっ!!」

「白石さん、幼馴染だからって青山くんに馴れ馴れしくない?」

 私はその全ての質問に「そうなの?ごめん、よく分からないや」「私なんかより本人に直接わたしたほうが絶対喜んで受け取ってくれるよ」「そんなつもりはなかったんだけど、気をつけるね」と小学校の頃からマニュアルのようにその返答を繰り返してきた。

 高校が別になって成利関連の質問が減り喜んだのも束の間、私は彼と入学式で顔をあわせて呆然とした。そんな私に対して“偶然だな”とにこやかに言った。

 そしてまた、私は成利目当ての女の子たちに同じ返答を繰り返す。


 今日も学内を成利は違う女の子と歩いている。1ヶ月前の可愛くはかなげな美少女系はどうした。

「青山くん、また違う子と歩いてるね。よくやるよ」

 中学からの親友で奇しくも大学まで同じになった冬香が呆れた口調で言う。彼女は中学から同じなせいか、私が成利の元彼女から幼馴染という立場を誤解され続けていたことを知っている。

「誰と歩いてもいいから、別れ際の後始末だけはちゃんとしてほしいよ。美人と美少女って絡んできた顔がいっそう怖いんだよ。冬香も絡まれてみれば分かる」

「いや分かりたくないから」

「俺もそれは分かりたくないなあ」

「「長谷部先輩!?」」

 後ろから突然会話に割り込んできたのは院生の長谷部先輩だ。ゼミの教授から手伝いを頼まれたときに一緒に仕事をしたのがきっかけで知り合った。成利みたいに目立つタイプではなく、穏やかで賢さを感じる話し方をする。そして先輩と話をする時間はとっても楽しい。

「あー、つむぎ、ごめん。私そろそろ講義の時間だわ」

「は?冬香、もう今日は講義ないって言ってたじゃん。だから買い物でもしようって」

「それが急に入っちゃって!!いやあそういうことってあるんだね!ということで先輩、よかったらつむぎにつきあってやってください!」

 そう言うと、冬香はすたすたと歩いて行ってしまった。

「つむぎちゃん、俺でよければつきあうよ。このあと別に用事もないし」

「え、でも申し訳ないですよ」

「全然そんなことないよ。むしろ、つむぎちゃんの買い物なら喜んでつきあう」

「……先輩、口がうまいって言われません?まるで私の幼馴染みたい」

「俺は青山くんほど流暢に女の子を口説けないよ。今もいっぱいいっぱいで、これでも必死なんだ」

「へー、そうなんですか…えっ」

 私より背の高い先輩を見上げると、そこには少しだけ顔を赤くした先輩がいた。



「あのとき立ち去った私はやっぱり偉かった。おめでとう」

 控え室で冬香がうんうんとうなずく。淡いブルーのワンピースとネイビーのボレロがとてもよく似合っている。

「今思えばあれはわざとらしかったよ。でも確かにあれがきっかけだもんね~」

「それにしても緊張感のない花嫁だな。もっとこう、ドキドキ~とかないの」

「自分の結婚披露宴でリラックスしまくりだった新婦にいわれたかないわ」

「それもそうか。だけど私の場合は中学からつきあいで、ようやく感があったからねえ。大学からとは年季が違うのよ」

 冬香は私より先に結婚していて、相手は中学からつきあっていた人で私たちより1歳上の人。その人のほうが早く結婚したくて、仕事に邁進している冬香を拝み倒して結婚したとか…新郎、そう話したあとに何を思い出したか泣いてたもんな。

「ところで青山くん見かけたよ。あんたが招待したんでしょ、よく先輩がOKしたもんだ」

「ずっとお隣さんで家族ぐるみのおつきあいだもん。成利はともかく、おじさんおばさんにはお世話になってたし、澄人さんも快諾してくれたよ」

 2人で話していると、ドアをノックする音がして返事をすると見慣れた顔が現れた。

「つむぎ、そろそろ大丈夫?あれ、佐久間さんいたんだね」

「長谷部先輩、いまの私の苗字は田崎ですってば」

「そうだった。つい佐久間さんって呼んじゃうんだよなあ」

「ま、どっちでもいいですよ。さて私はそろそろ席につかなくちゃ。先輩、つむぎのこと幸せにしないと呪いますからね」

 手をふって冬香がいなくなると、2人きりだ。

「呪われないように頑張るよ」

「…冬香がすいません。でも私が澄人さんを幸せにするから、大丈夫!!」

「じゃあ、俺がその倍つむぎを幸せにするよ」

「…やっぱり先輩、口がうまい」

「だから、これが俺のいっぱいいっぱいなんだって…なんだかあの日の会話みたいだね」

 私たちは互いに顔を見合わせて笑いあう。うん、大丈夫。私たちはちゃんと幸せになる。そんな確信がもてた。

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