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俺は王様  作者: 網野雅也
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鞘神楽 武君の場合その2

長文難しい・・・

 あらかじめ用意しておいた到着予定表を俺は開いた。

着くまで一時間半ってとこか…。

何するかな、あれ?もう30分経ったというのに…。

まだあの子ガラガラの電車で立っているよ。

 

 あの女の子は片手に程よい大きさの手提げカバン、そのカバンに重ねるように

テニスラケットを持っている。とても軽そうには思えない荷物を持ちながら

長い時間なぜ座らないのか、ずっと気になっていた。

たぶん、ダイエットとか?もしくは鍛えているとか…。

それとも、電車に座らないという、彼女独自のポリシーみたいなものがあるのかも。

俺はそんなどうでもいいような事を真面目に考えていた。

しかし、そんな推測に費やす時も長く続く事はなく、だんだん、眠気が徐々にではあるが

確実に瞼を閉ざそうと作用する。

完全に眠りに入ってはいないが、意識の半分は確実に現実の世界から遠のき

ほぼ閉じかけた目に、少しだけ周りの様子が映し出されている。

朧気な意識の中、俺の目はあの彼女が電車を降りていく姿を捉えていた。

やっと降りるのか、どこ行くんだろう……。



◆◇◇◆



 しばらくすると、俺は体を揺さぶられるような感覚に襲われる。


 「お客さん、終着駅ですよ」


 「起きて下さい」


 「う、うう」


 体を横に揺さぶる感覚と大きな声に俺は意識を闇から取り戻すと

俺の左に立つ車掌さんの存在に気づく。

次の瞬間、自分が寝過ごした事をようやく理解すると、突然立ち上がり

車掌さんに枯れた声で言葉を発した。


 「あ、あぁ…すみません。す、すぐ降りますので」


 起きたばかりの鉛のように重い体にムチを打ち、頭上のバッグを引きずり落とし

右肩に担ぎ上げると、罰が悪そうに、何度も小さく車掌さんに頭をさげながら電車を降りた。

あぁ、参ったなぁ…。

一駅乗り越しちまったよ。

虚ろな意識の中、ふらふら歩きながら清算機に近付き切符を入れると

追加料金を払い、出てきた切符を手に持つ。

取り合えず、この駅を出るか。

重い足取りで改札口にやってくると、駅員さんに切符を渡し、太陽の日差しがきつい駅外へ

足を踏み出していった。


…さてどうしようかな…。


駅の前には木造立ての古い建物が並んでいて、その建物の間から田んぼが

目に入ってくる。

田舎だなぁ…。

取り合えず一つ乗り越しただけだし、線路に沿って歩くか…。

そう決心すると、土と砂利の道を武智山駅へ向けて只管歩き始める。

炎天下の日差しは容赦なく降り注ぎ、乾いた喉を更に乾かす。


…喉空からだ、カバンの中にあったな。


俺は用意してきた飲み物の事を思い出すと、カバンを弄り魔法瓶を取り出した。

それを手で横に何回か振ると、水のざわめく音が外に漏れる。

昨日、魔法瓶に入れ冷蔵庫の中で冷やしたスポーツドリンクは

朝は凍っていたが、猛暑の中、歩いたり電車待ちをしている間に、熱が中に浸透して程よく解けていた。歩く足を止め、蓋を開け中身をその中にいれると、喉の音を立てながら、一気に飲み干す。


…つめた‥生き返る…。

 

 俺はその清涼感で体に一瞬の生気を取り戻すと、蓋をかぶせカバンに魔法瓶を仕舞い込み

また歩みを進める。さっきとは違い、その足取りは力強いものとなっていて

どんどん、線路に沿うように続く土の道を突き進んでいく。

やがて、木造の家々が視界から消えると、連なるように並ぶ畑が目に飛び込んできた。

俺の家は比較的都会にあり、畑を目にする機会があまりないため、その風景は

新鮮なイメージで俺の目に映る。

それを見ているうちに、少し遊び心が出てくると、畑のあぜ道に近寄り、その上を田んぼを覗き込みながらゆっくり歩く。アメンボが田んぼに張られた水の上を忍者のように

すいすい移動していて、水中には蛙が気持ち良さそうに泳いでいる姿が見える。

俺はその田んぼを眺めながら、トンボが飛び交う畑のあぜ道を、

悦に浸りながらゆっくり歩いていた。

…気持ちいいな〜新鮮な空気、自然に囲まれた田舎のゆったりとした雰囲気。

都会では決して味わえないな…。

しばらくすると、俺はあぜ道から線路沿いの側道に戻り、また只管目的の駅を目指して

歩き始めると、横に沿う線路の前方に、武智山駅と書かれた白い看板が見えてきた。

…やっと、着いたか。



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