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俺は王様  作者: 網野雅也
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コール君その4

 

  コール君達は店を飛び出すと、近くの大きな道路でタクシーを捕まえた。


 「おっちゃん!宮殿まで急いで!」


 「はい、宮殿だね」


タクシーは宮殿に向けて走り始めた。

道路は比較的空いていた。


 「結構車少ないね」


 「うん、これならすぐ着きそうだ」


ふ〜…、一時は焦ったけど、なんとかなりそうだ。

王宮着いたら、演技指導しないとな…。


 「ね〜…」


 「ん?」


 「コール君って彼女いるの?」


…ギクッ…

突然その質問かよ…。


 「いないよ」


 「いたら、君にお金払ってまで彼女になってなんか…」


 「あ、そっか!私馬鹿だね、だよね〜…」


…確かに、しかし敢て言わないよ…。


 「薫ちゃんは彼氏いるの?」


 「いないよ」


 「お水の女の子なんか、誰も、まともに相手してくれないしね!」


うぅ…。

なんか作り笑顔っていうのかな、無理やり明るい笑顔してるけど、それが、少し痛々しい…。

彼女も好きでこんな世界に飛び込んでるわけじゃないんだね……。


 「お客さん〜、後1時間半ほどでつくよ」


 「はや!」


 「車空いてるから、普段の半分くらいの時間でいけそうだよ」


コールは時計を見た。


今1時だから、2時半に着いちまうのか。

余裕だな、時間余ってしまうくらいだ。


 「♪〜♪〜」


 「あ、携帯鳴ってる」


薫ちゃんは携帯を取り出すと、電話にでた。


 「はい〜、薫です」


 「おねーちゃん?」


 「あ、成美?」


 「うん」


 「どうしたの?」


 「お母さんが……、容態急変したって、病院から電話が…」


 「そ…そんな」


 「すぐ、行くから」


 「先いってて成美!」


 パチ!


薫ちゃんは携帯を閉じると、少し青ざめた顔をしている。


 「どうしたの?薫ちゃん」


 「お母さんが……」


 「容態急変したって…」


 「ええ!?」


 「あの…」


思ってもいない自体に…。

く…、どうしよう……。

今更彼女下ろして出発しても、他の女見つけてる暇なんかないぞ…。

それにこんな所で下ろしたら、薫ちゃん、可哀相だ…。


 「病院なんて名前?」


 「え…?」


 「三ツ星病院」


 「おっちゃん〜〜〜!三ツ星病院って知ってる?」


 「あぁ、知ってるよ、ここから30分北にある病院だね」


30分か…。こうなりゃ、一か八か……。

どうせ、彼女を連れて行かなければ、俺はどっちみち……。


 「おっちゃん!!三ッ星病院先いってくれ〜!」


 「分かりました」


タクシーは交差点で右に曲がると、三ッ星病院へ直行した。


 「お母さん、大丈夫かな…」


心配そうに、手を祈るように合わせ、薫ちゃんは今にも泣きそうな顔をしている。


 「落ち着いて…もうすぐ着くから…」


 「ありがと…」


 「妹の話聞いた感じだと、手術室に運ばれて、もう2時間は経ってるらしいの…」


 「お母さん死んだら、どうしよう…」


いつも明るく振舞う気丈な薫ちゃんの目に、抑え切れない感情が当等涙として

彼女の目から外へ零れ落ちた。


こんな時…俺は何を言えば良いんだろ……。


 俺は意識はしていなかったが、自然と彼女の頭を右手で優しく撫でていた。

それに気がつくと彼女は、すすり泣くと、頭を俺の胸に押し付けるように

縋り付く。


痛いほど彼女の悲しい気持ちが、体の震えから俺に伝わってくる…。

俺にはこんなことしか、彼女を慰めることは出来ないけど……。


 「着いたよ〜」


 「薫ちゃん、行こう!」


 「おっちゃん、少し待っててくれるかい?」


 「すぐ戻ってくる」


 「取り合えず、お金、10万の小切手渡しとく」


 「おいおい、そんなに…」


 「ごめん、急いでるから」


俺達はタクシーを出ると、病院の中へ小走りに入っていく。


 「河野瞳が容態急変したって聞きまして」


 「今どうなっていますか?」


 「手術中ですね」


 「ご家族の方ですか?」


 「はい、娘の河野薫です」


 「3階の手術室の前でお待ちください」


俺達は3階にエレベータで行くと、患者達がたくさん見える。

その中に紛れて制服の女の子が目に入ると、その子はこちらを見て

手招きを始めた。


 「成美〜!」


 「おねーちゃん、今手術中なの」


 「知ってる…」


 「あれ、その人誰?」


 「友達だよ」


 「それより、容態聞かせて」


手術室の前の椅子に俺達は座った。

彼女の話だと、今が峠らしい。

この手術がうまく良くかに生死掛かっている。


 「お母さん……」


祈り続ける薫ちゃん。

妹の成美ちゃんも心配そうに俯きじっと黙っている。

1時間くらい待っただろうか・・


 ガチャズーー…


回転式の手術室のドアが開いたかと思うと、マスクをしたオペ担当の医者が

一人出てきた。メガネをかけ、消毒薬の匂いがプンプンしている。


 「娘さん?」

 

 「はい」


 「母は……」


 「手術は成功しました、もう安心ですよ」


 「良かった〜…」


 「先生有難うございます、本当に有難うございます…」


姉妹で抱き合いながら、喜びを体全体で表す二人。

俺はその姿をみて、思わず貰い泣きをしてしまった。


 「よかったね〜薫ちゃん」


 「うん、コール君ありがとね」


 「いやぁ、は…!」


俺はふと我に帰り、時計を見た。

…3時…。


 「やべぇ、どうしよう…」


 「どうしたの?」


 「もう行かないと、間に合わないよ…」


 「あ…」


 「行こっか?」


 「でも薫ちゃん、お母さんに付き添ってあげないと…」


 「そうだけど…」


 「俺いくよ…お母さん大事にね…」


俺はそう優しく薫ちゃんに声を掛けると、右手を振り

その場を早足で抜け出していった。


格好いいけど…俺どうしようか…。


 タクシーに帰ると、俺は絶望にくれていた。

今更女の子を新たに確保している時間も無さそうだ。

その時・・・・病院の入口から駆けてくる女性が一人いた。


 「薫ちゃん!」


俺はドアを開けると、外に出た。


 「どうしたの?」


 「私も行く…」


 「でもお母さんが…」


 「いいの、麻酔効いてるからまだ目を覚まさないし…」


 「成美がいるから…」


 「それに…、なんだか、コール君のことほっとけなくって」


 俺は迷ったが、彼女の真剣な眼差しを目のあたりにして

その言葉に甘えることにした。普通なら断るところだが、命に関わる事なので

その申し出を断る理由はなかった。


 「おっちゃんー、急いでまた、王宮に行ってくれ・」


 「出来れば飛ばしてくれ!」


 「わかった〜、任せとけ!」


俺達はタクシーに乗り込むと、また王宮目指して走り始めた。


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