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俺は王様  作者: 網野雅也
31/31

小田原 昌彦の場合終了。

 今晩はチーム全員の回復を図るため、田舎の民宿に泊まる事ことになった。

「香織……」

 俺は布団に横たわる香織を哀れに思いながら、何故か釈然としないものが胸裏にわだかまっていた。

 何で体を痛めてまで、こんなバイトを続けるのか理解できない。

 長く続けてきたバイトだからか……? 絆とか信頼とかに縛られているのか?

 分からねぇ……大尉みたいな命令だけして自らは何もしない男の下で、そんな気持ちが生まれるものだろうか……

 隣で全身筋肉痛で苦痛に顔を歪めてる早乙女だってそうだ。

 いや、この人は違うのかもな、血の気が多いからこの仕事に適性があるのかも……

 

 俺はすくっと立ち上がると、窓に近付き外の景色を眺めようとした。

 だが、あいにく、窓は水蒸気がびっしりついて曇っているため何も見えない。

 この部屋はエアコンの暖房が、行き届いていて暖かいせいだろう。

 何も見えない窓の傍で、ぼーっと佇んでいると、ミーシャさんが隣に不意に現れる。

 民宿の寝着に着替えて、上から青いドテラを羽織っている。

「どうしたの? デブコン」

「いや、別に……」

「疲れたのね……無理もないわ……」

 ミーシャさんは宿の温泉に入ってきたためか、ぼさぼさっとした長い髪を結うことをせずに、そのまま自然に流していた。

 傍にいると、石鹸の香と女性特有の柔らかい匂いが鼻孔に穏やかに届く。

 彼女は眼鏡が曇ったのか、不意にそれを顔から外し、布で拭いはじめた――が……

 その眼がねを外したミーシャさんの素顔をみて驚いた……

 とっても……美人、 いや美少女!? 

 俺は無意識のうちに彼女の顔を、食い入るように見つめていた。

 その暑苦しい視線に気づいたのか、彼女がこちらにきょとんとした眼を向けた。

「ん? なんかついてる?」

「いえいえいえ……ただちょっと驚いたもんで……」

 ミーシャさんの問いかけに我に変えると、手を振って取り繕いながらも本音を添える。

「へ? 何に?」

「いや、あの、なんていうか、その、ミーシャさんの素顔がその〜……」

「変だった……?」

 彼女は俺の言葉を聞いて、恥ずかしくなったのか眼鏡をそそくさと掛けなおす。

「変とかとんでもない……こんな美人だと思わなくてつい……」

 俺が本心から来る言葉を成行きで漏らすと、返事が返ってこない。

 照れ臭くって下げていた視界に、彼女のもじもじ丸めた手が映った。

「あはは……ちょっとびっくりしちゃった、そんな事言われたことなくて……」

 視線を彼女の顎下辺りに上げると、少しの間の後、照れ臭そうに微笑んだ。

 頬が心なしか赤みを増していた。





 大尉は部屋にいなかった。

 香織と早乙女もまだ眠ったままだ。

 俺は思い切ってミーシャさんに大尉の事を尋ねてみる。

「ミーシャさん……俺あんまりここ長くないから……わかんないですけど」

「ん?」

「俺達はチームですよね、仲間ですよね?」

「そうよ」

「なら……」

 俺は一呼吸おいた後、

「なら、なんで、仲間が苦痛で地面に触れ伏しているときでさえ、大尉は命令だけして加勢をしてくれないんでしょうか? あんなに強そうなのに……」

 俺は真剣な眼差しで窓をみつめながら、わだかまる思いを矢継ぎ早にミーシャさんに語った。少しの沈黙の間の後、穏やかな声色が耳に届く。

「デブコン……大尉はね、あんな風体だから、誤解されがちだけど……常に仲間の事を思っている方よ……」

「ならなぜ!」

 俺は少し語気を荒げた。

 だがその荒ぶった声を宥めるように、ミーシャさんは静かな口調で言葉を重ねる。

「大尉はね、あのルンの実力を計っている最中なんだと思うの……猫又は恐ろしい化け物よ……今まで何人かのハンターが殺されたって聞いているわ……」

「え……!?」

 俺は思わず驚嘆の声を漏らした。

 あの小さな黒猫ルンが……その見かけとミーシャさんの語る事実とのギャップに、戸惑いを隠せない。

「まだ、ルンは本気を出していない。言わば……私たちは遊ばれている状態よ。それは言葉を変えれば、まだルンが怒りを顕にしていないって事で、つまりまだ大尉は安心してみていられるの…………大尉は……」

 ミーシャさんが言葉を続けようとした時――

「ミーシャ……そこまでだ……」

 と、不意に近くで声がしたので、驚いて振り向くと大尉が後ろに立っていた。

 全く気配すら感じさせず、後ろを取られていた。

「大尉……」

 ミーシャさんが目を伏せ気味に、大尉に向き直る。

 罰が悪そうに鼻を擦る俺の肩を、大尉がごつい手で掴んだ。

「デブコン……時が来れば分かる……」

 それだけ言い残すと、背中を向けて部屋をゆっくり出て行った。


 




 

 それから又一日一日と過ぎていく間に、黒猫ルンと何度か出会い対峙した。

 猫又ルンは出会うたびにその実力の一部をさらけ出していく。

「強い……」

 ミーシャさんの言っていたことは本当だった。

 もう、早乙女の攻撃が全く通じない。眠ったまま、早乙女の豪腕を受けている。

 そして、欠伸をしながらの突然の猫キック……いや、後ろ蹴り。その蹴りを受けて、空彼方に吹き飛んでいく早乙女。

 これほどとは……

「もう少しだな……」

 大尉がルンを観察するかのように眺めている。


 そして、イブ当日、夕焼けが空を紫色に染める頃――

  黒猫ルンはついに本性を現した。

 というよりは……俺達の前で二足で立ったのだ。

 猫の分際で、後ろ手を組んで人間のように笑みをその顔に浮かべている。

「ま〜〜ったく、君達はひつこいね……」

 その人間の青年のような澄んだ声が、対峙する俺達の耳に届く。

 俺はその異様な状況に、黒猫の体からかんじる威圧感のようなものに、自然と体を強張らせる。周りのメンバーも何かを察知しているようだ。扇状に自然と陣形を取っている。

「僕はね、あそこに見える屋敷のタマ嬢と今夜デートの約束をしているんだよ」

 ルンが指差した方を一斉に見るチーム。

 そこには確かに大きな屋敷があった。

「まぁ、ということで、今日は楽しいデートなんだ、ちょっと僕はタマ嬢を迎えにいってくるよ」

 ルンは前足を地に下ろすと、足取り軽い感じで門の中へ潜り込んで行った。


「大尉……ふざけた奴ですね、アイツ」

「ふむ……まぁ、猫にもイブは特別なんだろうよ……」

 早乙女が疲れたような顔で言った。それにウィットに富んだ言葉を返す大尉。

 最初の血気盛んな勢いは、早乙女から当になくなっていた。

 ここへ来るまでに散々ルンに打ち負かされ、自信を打ち砕かれてきたからだ。

 香織は屋敷の外の平原にある岩に腰掛けて俯いていた。

 うーん、俺は何かが頭の端にひっかかっていた。

 今日はイブ……香織……あ!?

 だが、すぐに思い出すと、香織に素早く詰め寄る。

「おい、香織! 今日お前俺とデートの約束だろ!?」

「ん〜? 今それどころじゃないじゃない……仕事だって終わってないし」

「バカ! 約束は約束だ〜! 今からデート行くぞ〜!」

「無理よ〜、ここは郊外にある辺鄙な場所よ、しかも、大尉が許さないわ」

 この件で退くわけには行かなかった。

 網走の監獄のイメージが走馬灯のように頭を駆け巡っているからだ。

「お、お前それは……」

 俺が更に捲くし立てようとした瞬間――

 ルンが帰って来た……

 二足歩行で俺達と向き合って体を震わせている。

 な、何があったんだ……?

「フフフ……俺って何なんなのかな〜……ハハハ」

 魂が抜けたような空虚な笑い声が、静かな平原に響き渡る。

 俺はその様子を固唾を呑んで眺めていた。

「忘れてたってさ……そんな約束しらないってさ……」

 黒猫は俺達の頭上にある満月を仰いで、泣いている様にも見える。

「でも女なんて沢山いるから……うんうん……」

 黒猫は低い声で誰に話かけるわけでもなく一人呟いていた。

「もういいんだ……」

 そう呟いた後、俺達の方へ紫光を放つ瞳を向けてきた。

 怖気が走るような殺気と狂気が、入り混じった眼をしている。

「だから! お前たちの中の女一人浚って行く事に決めたんだ!……慰めてもらうんだ!!!」

 ルンが狂気を孕んだ表情で強く言い切った直後、体が大きく膨れ上がっていく。

 その膨張に呼応するかのように、大気が震えていた……

「お前たち、後ろに退くんだ!」

 大尉がその異様さに咄嗟に大声で叫んだ。

 その声に反応して、一斉にその場を離れようとしたメンバー。

 しかし――香織がルンの伸ばした大きな舌に、絡み取られ引きずられていく。

「香織!」

 香織は大きな影の手前で立った状態で、俯き加減で眼を閉じていた。

 ショックで意識を失ったらしい。

 よく見ると、その傍らには異形の姿と化したルンが二足で佇んでいる。

 3メートルはあろうかという巨体、大きく割れた口、鋭い牙……

 そして、鋭い爪が手から長く伸びて内に反っていた。

「ピンク〜〜!」

 早乙女が飛び込んでいった。俺も地面に落ちていた棒っきれを掴んで、その後に続いた。

 俺達が接近すると、ルンが手を一度横へ払う。

 すると、凄まじい突風が吹き付けてきて、俺達の体が瞬時に宙を舞った。

 俺は後ろに激しく吹き飛ばされた。

 だが、俺の大きな背中に何かがつっかえ、地面への激突を免れる。

「デブコン! 大丈夫!?」

 リーシャさんだった……片手で俺を支えているようだ。

 なんて怪力だ……まさか超能力!?

 俺はゆっくり地面に立たされた。

「あなたは無理よ、スーツきていないんだから……」

「でも、香織が……」

「大丈夫! 私がなんとかするから!」

 リーシャさんは俺に凛々しい顔でそう告げると、白いコートを脱ぎ捨てた。

 俺はその姿を見て言葉を失った。

 桃色のジャージ、その下に見え隠れする青いスーツ、白っぽい手袋、そして、手には日本刀!? この品々はまさか……

「これは、ピンクのジャージと、早乙女のブルースーツよ、そして、この白手袋はその二つのスーツのパワーを最大限にまで高める究極のアイテム……そして、この全ての悪を切りさく日本刀……」

 リーシャさんは刀を一振りすると、眼鏡をはずした。

「こんなもんは不要よ、眼も超能力で活性しているから、何でも見える!」

 端正な顔立ちが自信に溢れている。

 その横でまだ身動きせず、黙ったまま突っ立っている大尉。

 こら大尉、女に行かせるつもりか? 

 俺は大尉に蹴りが入れたかった。

 この後に及んでまだ見てるだけか!

 そう心で罵倒しながら、怪訝な眼を大尉に向けていると、

「デブコン、いいの。大尉には大尉の役割があるの……」

「馬鹿な……」

 ミーシャさんは大尉のことで不満たらたらの俺に、眼を瞑って首を横に振った。

「くっ……!」

 俺は顔を背けて、化け物となったルンを見据える。

 そうだ……大尉が動かないなら俺がやるしかない……

 ミーシャさんを先に行かせるなんてできない!

 近くに落ちていた大きな岩を引っつかむと、ミーシャさんを置いてルンをどつきにいった。

「てめーは俺が倒す!死ねや〜!」

 だが、威勢の良い決め台詞を吐いて、突っ込んでいったのもつかの間……

 俺の肩に鋭い痛みが走る。

 その痛みに思わず、苦悶の声を漏らす。

 何かが突き刺さっていた。

 よく見ると、ルンの爪の一つが長く伸びて、俺の肩を貫いていた。

「デブコン〜!」

 ミーシャさんの悲痛な声が届く。

「ぐふ……」

 ルンが爪を引き抜くと、俺の肩から湿ったものがどっと流れ出る。

 血か……

 俺は仰向けに背中から、糸が切れた人形のように倒れこんだ。

 その俺の姿を見てか、ミーシャさんが駆けつけてきて、俺の傍で蹲り心配そうな顔で見下ろしている。

「だから言ったのに……無茶しないでよ……」

 ミーシャさんの頬を大粒の涙が流れていく。

 柔らかい手が額に当てられ……頬をなでる手の温もりが俺の痛みを幾分癒してくれる。

 だが、ミーシャさんの表情が変わっていく。

 憤怒の表情で眉を吊りあがらせ、鼻にまで皺を寄せている。

 始めてみせる怒りに打ち震えたミーシャさんの素の顔。

 彼女の膝枕に頭を置いている俺は、その表情を直視しながら眼を白黒させていた。

 そのうち、ミーシャさんは不意に立ち上がって、大尉を見ると、

「大尉、後を頼みました……」

「……デブコンの治療は任せろ……」

「有難うございます!」

 俺の体が大尉のごつい腕に抱きかかえられる。

 堅い……ごつい手の中で男臭さに鼻が曲がりそうだ。


「こら、化け猫! よくも私のデブコンをやってくれたわね!」

 わ、私のデブコン……!?

 俺は大尉に肩に包帯を巻かれながら、ルンと向き合うミーシャさんの言葉を確かに聞いた。

 ミーシャさん、な、なにを……

 私の? そんな、ま、まさか……俺の事……ミーシャさんが!?

 平原で横たわりながら、俺は明らかに動揺していた。

「ん? そっちの姉ちゃんも美人だな……」

「ふ、そんなふざけた事いってられるのもこれまでよ!」

 ミーシャさんが自信たっぷりに言い放った後、ミーシャさんの体の周りに正体不明の突風が吹き荒れ始めた。

「いくぞー!」

 ミーシャさんが日本刀を振り上げ、前へ一歩踏み出した。

 その直後――

 羽が折れた鳥のように静かに膝を地につき、眼を閉じて前にふわっと倒れこんだ……

 一瞬の出来事だった……が、俺は驚かなかった。

 たぶん、こうなるだろうと予想をしていたから……

 そりゃ……ミーシャさんみたいな華奢な女性が、あんなに一気に超能力解放したら……ね……

 




 早乙女、ミーシャさん気絶しているし、香織はルンに拉致られている。

 そして、俺は地面に寝かされたまま動けない。

 最悪の状況だ……

 ルンは嫌がる香織を抱きかかえながら、ペロペロ香織の頬を舐めていた。

 そのルンの前にやっと……ようやく……今更〜〜 ――――大尉が立ちはだかった。

 おせーんだよ! と心で呟く俺。

「時は満ちたり……」

「なんだ、お前は?」

「俺がお前を倒す……」

「なんだと……!?」

 大尉が低い声で言うと、ルンの表情が変わった。

 明らかに今までとは違う。

 大尉に何か感じるものがあったのか、脇に抱える香織を横の草むらへ放り投げた。

 次の瞬間――大尉が猛然とルンに向かってダッシュした。

 それほど素早いわけじゃない。超能力を使った早乙女の方が断然早い。

 だが、その後が違った……ルンの前で立ち止まって、腕を組んで仁王立ちしている。

「おら、打ち込んで来い、お前の攻撃なんてきかねーんだよ!」

「ふざけるな〜!」

 ルンの強烈な猫パンチが、大尉の肉体を絶え間なく打ち付ける。

 その攻撃をだまって受ける大尉。

 何で避けもせず、受けているんだ……?

「お前の攻撃はそんなもんかー!」

 大尉が何事もなかったようにルンを煽る。

 その煽りに憤怒したのか、更に足まで使って大尉をけり始める

 大尉の背中が前からの衝撃を受けるたび揺らぐ。

 いわゆる、サンドバッグ状態だ……

 痛みを感じないのか……!?

「ハハハ、オラオラーもっとこい!」

 大尉は哄笑しながら、まだまだ煽っている。

 しかし、あれだけ物凄い攻撃を受けてまだ元気そうだ。

 絶対おかしい……どうなってるんだ、もしや、サイボーグとか言うオチか?

「こいつ……なんでこんなにタフなんだ!!」

 ルンは疲れてきたのか、明らかに大尉を攻撃するテンポが鈍ってきている。

 ついに、肩で息をしながら、大尉を殴る手を休めるルン。

 疲労のピークのようだ。

 そのルンの様子を見て取り、大尉が3歩ほど後ろに下がる。

「さて……次は俺の番だな……全て返してやるぜ、俺が受けた苦痛の全てをな!」

 そう大尉が言い放つと、前傾姿勢で肩を突き出し構える。

 次の瞬間、大尉の体が炎に包まれると、

「リベンジ・ファイヤー・タックル!」

 大声で横文字を並び立てた後、ルンに肩から体当たりに行った。

 その炎を纏った強烈な体当たりをその身に受けたルン。

 後ろに吹き飛ぶ様子もないが、反撃を繰り出す様子もない。


ズシン……


 だが、大尉が後ろにステップすると、支えを失ったように前に倒れた。

 終わったのか……?

 俺はよろめく足でなんとか立ち上がって、肩を抑えながら大尉に元へ歩み寄る。

「大尉……」

「デブコンか……これ見てみろ」

 大尉が蹲って何かを指差した。

 見ると、黒猫ルンが元の姿に戻って、地に伏せているのが分かる。

「死んでるんすか?」

「気絶してるだけだ……」

 俺は深い息を吐いた後、大尉の隣に尻を落とした。

「大尉、今の技どうやったんですか?」

「む、詳しく話すと長くなるが聞くか?」

「はい、ぜひ!」

 俺がそう告げると、少し間を空けた後、大尉が語り始めた。

「俺の着ている迷彩服はな、ミーシャが作ったもので、最後にルンに使った技が封印されているんだ。ただ――使いどころが難しくってな、相手の強烈な攻撃を服にある程度吸収させないと、あの技は使えない。だから、俺はアイツが本気で攻撃してくる状況を待っていたんだ」

「――そうだったんですか……」

 俺はずっと抱いていた疑問が、大尉の話を聞くことで払拭された。

 同時に、大尉に不信を抱いて、罵倒を心の中で浴びせていた事を悔いた。

「よく頑張ったな、デブコン。お前はよくやった……」

「大尉……」

 そんな俺に微笑んで褒めてくれる大尉に、感きわまって抱きついてしまった。

「ハハハ、大袈裟な奴だ」




 メンバーのみんなは心身ともにボロボロだったが、大尉がルンを倒したと教えると、一様に喜びを各々の仕草で現した。

 早乙女はガッツポーズをとった後、腰がぐきっと変な音を立ててその場に倒れこんだ。

 だが、その顔は痛みを堪えながらも笑っていた。

 ミーシャさんは……大尉のことを信じきっているのか、軽く微笑むだけ。

 香織もやっといつもの朗らかな笑み浮かべて飛び跳ねていた。


 それから暫く、俺達は平原の岩場で腰を下ろして、満天の星空を眺めていた。

 そうだ、今日はイブだった……不意にその事をまた思い出した。

 俺は香織の前を……素通りすると、ミーシャさんの横に座った。


「どうしたの? デブコン」

「いや〜、星空が綺麗なんで、ミーシャさんと一緒に見ようと思って」

「な、何いってんの……」

 ミーシャさんは恥ずかしそうに口ごもった。

 ふと香織を見ると、大尉と二人で楽しそうに話している。

 そういう事か……俺は二人の様子をみて悟った。

 香織があれだけ頑張れるのは……ふむ、何も言うまい……

 俺には……

「ミーシャさん!」

「はい?」

「ヒューヒュー!」

 俺が顔を赤くして重大な事を述べようとすると、早乙女が横から茶化してくる。

 この野郎……ふ……俺はそれを軽く受け流して微笑みを浮かべて、

「少しこの辺散歩しませんか……?」

 俺がそう言って差し出した手を、ミーシャさんは戸惑いながらもそっと掴みかえしたきた。

 お互い恥ずかしそうに微笑ながら、星空の下平原をそぞろ歩く。

 

 こうして俺のイブのデートは……始った……

 

 

 

                END

 

 

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