コール君その3
取り合えず、ここの喫茶店で昼飯にするか…。
「薫ちゃん、ここ入ろうか?お腹すいたでしょ?」
「うん!実はお腹ペコペコだったの〜・」
薫ちゃんは。少し前に屈み少し腰を低くすると、目を見開き
店の前に置かれている、看板のメニューの文字を見つめる。
「サンドイッチとパンのセットにしよ」
「コール君はいろ!」
そう言うと、突然、彼女は俺の左腕を右腕と胸の間にひっぱりこむように持つと
店の中へ誘う。
うわ!胸、ちょ…。
不意を付かれ、どきっとする俺。
中に入ると、薫ちゃんは、窓際の席に指差すと手を離し
椅子を静かに引くと席に着いた。俺は向こう側に回りこみ、彼女と顔が向かい合う席に
浅く腰をかけると、隣に持っていたカバンを置いた。
外の看板のメニューを見る暇がなかった俺は、メニュー表を開くと
物色し始める。
「何にすっかな、ん…?」
俺の顔をなぜか見つめてくる薫ちゃん。
顔をじーっと見られると、たとえ相手が男でも
意識するのに、こんな可愛い子に見つめられちゃ、ドキドキもんだ……。
取り合えず、何か言うんだ!コール。
「え…っと俺はスパゲティにするかな」
「ねぇ〜」
突然、俺に言葉をかけてくる薫ちゃん。
一瞬心臓食み出しそうになった……。
「は、はい!」
「なんでせうか?」
「コール君っていくつ?」
「お・俺?」
「21だよ」
「大学生?」
「そだよ」
店の店員がやってくると、水を俺達の前に置き
注文を聞き始める。俺達はさっき選んだものを
伝える。それを聞き機械に打ちこみ、復唱し終えると店員は去っていった。
会話を寸断されたため、また一時の静寂が、俺達を包むが
やがて、また薫ちゃんは話し始めた。
「学生さんか〜」
「いいな〜」
「私も2年前までは高校生やってたんだよね〜」
とういうことは、彼女は二十歳か、若いなぁ……。
しかし、高校も出てるし、顔も美人なのに、なんでお水なんかに……?
理由が聞きたい。しかし、直聞くのは、気が惹けるなぁ…。
俺がテーブルに置かれた水を、空で止め、そんなことを考えていると
薫ちゃんがまた俺をみて、話しかけてくる。
「私さ、なんでお水やってると思う?」
お!聞く手間が省けた。
「さ、さぁ…金に困ったとか…?」
あ、直言っちまった……。
「うん、その通り!」
ビンゴですか…。
「うち、母子家庭でね」
「妹と母親、私で暮らしてるのね」
「高校卒業して、母が大きな病気しちゃってね」
「今入院してるの」
「へ〜…」
なんか、暗い話へ…。
「就職はしてたんだ、とある、中小企業の一般事務」
「でもさ、病院ってお金かかるし、それに、事務じゃ時間縛られるでしょ」
「お母さんの世話や、お見舞い行く時間、家事、妹もまだ中学生だしね、」
「だから、お金の入りが良くて、時間の都合のきく、お水にとびこんじゃったのさ、アハハ」
泣ける話だ…。俺とは全く違う過酷な人生を、ほぼ年の変わらない彼女は
送ってきている、こんなに可愛いのに……。
しかも、何がすごいって…、その話を今日あったばかりの俺に、包み隠さず
あっけらかんと話すところが、人間の大きさ感じるよな……。
「……」
俺は何を言葉にして返して良いか思い浮かばなくて、つい黙ってしまった。
駄目だ、ここで何か言わないと…。駄目だ駄目駄目だ、何か会話を挟めコール!
「あ、あのさ…」
俺が背水の陣で薫ちゃんに、何か言葉を投げかけようとしたその時
絶妙のタイミングの悪さ?で、店員が食べ物を持ってきた。
「以上になります〜、ごゆっくり〜」
「おいしそう〜!」
「いただきま〜す!」
食べ物を見た薫ちゃんは、お腹をすかしてたのか、満面の笑みを浮かべ
サンドイッチを手にもつと、すぐに食べ始めた。
……。
ま、まぁ、助かったといえば助かったかな…。
俺達はしばらくして、飯を食べ終えると、ひと時の落ち着いた時間を過ごしていた。
薫ちゃんは、相変わらず明るい感じで、色んな話を俺に投げかけてくる。
そんな彼女に、乗せられるように、俺もだんだん自然に口から言葉が流れ出てくる。
楽しいなぁ、俺が今まで生きてきた人生で、これだけ異性と愉しく話した事が
あっただろうか…?ママンと話すのとはまるで違うよな……。
時を忘れ、幸せな時間を満喫する俺。
しかし、その時間は長くは続かなかった。
かわいいなぁ、でも俺なんでこうして、薫ちゃんと話してるんだろ……。
なんか重要なことがあったきが、あぁ!!
俺は我に帰ると、腕時計に視線をなげかける。
12時20分…ゲゲ…あんまり愉しいので時間を忘れていた……。
急いで横に置いてある自分のカバンを手に握ると、薫ちゃんとの会話を
寸断するように、底から吹き出てくるような、焦る気持ちを言葉に出した。
「時間がない…!」
「もう、行かなきゃ…!」
「か、薫ちゃん、外でよう!」
「ん〜?もう行くの?」
「ごめんよ、だけど、急がないといけないんだ」
「そっか、じゃ店でますか」
「うん」
薫ちゃんは一変して、表情が強張った俺をみて
始めはキョトンとしていたが、その雰囲気から空気を読んでくれたのか
にっこり笑い、静かに立ち上がる。
清算を済ませると、俺達は店を出た。