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俺は王様  作者: 網野雅也
26/31

小田原 昌彦の場合、その一

年越すまでには……書き終えたい……5話程度になる予定です(希望的観測。

 やー久し振り。

 そろそろ暇こいてきたんで

 また誰か苛めようかと思ってな。


 さ〜て誰にするか?

 

 小田原昌彦


 プロフィール


 19歳 二流大学生、熊のように体がでかい、多少小太りきみ、腹がでてる。

 眼が細い、たらこ唇、もてない、消極的、開き直れる、暴走機関車、中流家庭。

 普段口数少ない。合理的な考えができる。彼女いない暦=年。


 何させる?


 イブまでに女を調達してデートすること。現在12月10日


 しくじると、網走刑務所で3ヶ月拘留。


 これでOK!



 ある日、王宮から茶封筒が届いた。

 内容はこうだ。

『イブまでにデートできる女性を見つける事、イブにデートすること。その詳細は王宮監視員が当日、あなたを監視しているから直ぐ分かります、健闘を祈る。しくじったら刑務所で拘留、北の刑務所は極寒だよん 王様より』

 

 …… 何なんだ、このナチス政権下のような、日本の戦中の特攻隊への赤紙のような内容は……

 後、二週間でデートしてくれるような女見つけないと、刑務所へぶち込むとか書いてるぞ。

 この王国はどうなってるんだ? 専制君主体制なのか……? 

 いやぁ、今の国家体制に文句言っても始らない。頭を切り替えて現実的に考えないとな。

 取りあえず、ミッションを成功させるのが最重要課題だ……極寒の刑務所で3ヶ月とか絶対嫌だ!

 

 しかし、女と付き合った事の無い俺が、そんなに短期間に見つけられるとでも?

 まぁ、いいや……後ろ向きに悩んでる場合じゃない。

 俺は財布を開けて中を覗いてみる。

 だが、案の定……1万円しか入っていない。

 こんなんで、女は買えねぇ……

 という事は、自力でゲットするしかねぇよ。

 いっちゃなんだが、金がない上に、ルックスもいまいち、更にデブ!

 そして大学も二流ときてる上に、性格も明るい訳でもない。

 そんな俺がナンパを決行したところで、どうなるかは火を見るより明らかだ。

 だからと言って、大学で親しくしているような女はいないんだ。

 サークルにも入っていない。大学ではただ決められた講義を粛々と受けているだけだ。

 高校時代からの友人、アニオタの川田ってケチな野郎と休憩時間、二人で寂しく男同士のひっそりした会話を交わしたり、昼飯を食べたりする程度だ。

 女の『お』の字も俺達の周りに漂っていやしない。


 困ったな……こう考えると俺がデートするような女を、イブまでにゲットできる確率は、限りなく0に近い。むぅ〜……

 俺は勉強机に突っ伏して、何かいい方法が無いか頭を悩ます。

 足が自然と一定のリズムで、フローリングの床を叩いていた。

 顔を左に右にひねって唸りながら、煩悶として考えた末――

 

 ――やっぱ……バイトしかないな!? 女がいるバイトだ。 しかも、すぐに入れるところだ。

 今は年末だし、飲食店あたりはすぐにでも人が欲しいのではないだろうか?

 女もいそうだし。よし決めたぞ、さっそく履歴書書いて、飲食店のバイトを雑誌で探すか。

 近いところを探そう。


 その日の夕方、俺は雑誌でみつけたレストランのバイト先に電話した後、さっそく現地へと赴く事になった。


「じゃあ、明日から働いてもらおうかな……大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ!」

「それじゃあ、これにサインしてちょうだいね」

「分かりました!」

 ふ、ちょろいな。俺はバイトをしたことが無いんだけど、こういう事務的な応対はできる奴なんだ。だから、心象が悪くなるような素振りは決して見せない。

 ちょび髭のオーナーも、俺の丁寧な受け答えと快活な滑舌に一発OKをだした。

 普段こんなに話す奴じゃないんだが、いざとなれば開き直れるんだよな。

 性格偽証は何故か昔から得意だ。これでもうちょっと積極的で、明るい性格なら、デブとはいえ、彼女の一人二人はできるんだろうけどさ……

 俺はオーナーに深々とお辞儀すると、店を出て行く。

 その際、周りにいる未来の同僚に、愛想笑いと会釈をしながらも観察を怠らない。

 うーん、学生っぽい女の子2人、ここが長そうな茶髪のフリーターっぽい女一人。

 ほっそりとした茶髪の兄ちゃん一人、俺みたいなデブ男一人。

 ホールはこんなもんか、洗い場の方は見えねぇな。

 まぁ明日きた所で、自己紹介でもあるんだろうから、そのとき確かめるか。


 バイト先の偵察も終えて、既に暗くなった住宅街を突き進み我が家へと向かっていた。

 現在PM8時30分、普段ならもう飯食い終えて風呂入った後、ソファーにゆっくり腰掛けながらテレビを眺めている時間だ。

 腹減ったなぁ……母ちゃん、今日の晩飯何にしてるのかな。

 俺は空腹のためか、体に力が入らず、よたよたと暗い夜道を歩いていた。

 中空を目指し昇る月の光が、細い住宅街の道を後ろから照らしてくる。

 前に長く伸びる俺の影は、心なしかスマートに見える。

 そんな時、後ろから軽い足音ともに、長い影の先が俺の足元を掠め始めた。

 最近は物騒な事件も多いし、この辺はそれほど人気があるわけじゃない。

 俺は少し後ろを警戒しながら歩く。

 軽い足音はどんどん近くに迫ってくる。

 後ろから来る長い影も、俺の1m先のあたりまで……って!

 なんだ……? こいつ俺の真後ろ歩いてるじゃねぇか、怖ぇよ!

 俺は拳を固く握ると、肩をいからせながら後ろを振り向いた。

 だが、そこには俺が見知ったアイツが立っていた。

「お、やっぱりこの熊のような背中は昌ちゃんだったのか!」

「ん? お、お前かよ。びびらせんなよ! 香織!」

「あはは、そんなでかい図体してびびってんの?」

「バカ、用心深いと言え……」

「まぁ、良かった! とりあえず、私護衛してよね!」

「はぁ……まぁ帰る道一緒だしな」

「やった!」

 びびったけど、ほっとしたぜ。

 この女は近所に住む前川香織。小中高と同じ学校に通った幼馴染だ。

 ボーイッシュな短いサルみたいな髪型をしている。

 顔は母親が美人のせいもあって、それなりに美形に属しているとも思う。

「今バイトの帰りか?」

「うん」

 香織は高校を出た後、どこかの事務として就職したんだが、長く続かなくて今フリーターをしている。何のバイトしているのかしらないが。

「昌ちゃん、珍しいじゃん、こんな遅く外出歩いてるなんて?」

「いや、ちょっとバイトの面接行ってきたんだよ……」

「えぇ、昌ちゃんがバイト? すっごい進歩じゃない?」

「まぁな……」

 香織は俺の右手に、しなやかな細い腕を巻きつけてくる。

 馴れ馴れしい奴だ……まぁ今に始った訳じゃないんだけど。

 昔っから、軽いノリでこうやって手を絡めてくるんだ。

 

 こいつの家は近所って言っても、俺の家より少し奥にあるために、

「ありがとね〜、この辺暗いから助かったわ〜」

 結局俺は、自分の家を通り過ぎて、香織を家まで送る事になってしまう。

「おう、じゃまたな〜!」

「うん、バイト頑張ってね〜」

「お、おう」

 香織は俺に笑顔で手を振った後、家の中へと入っていった。

 俺が自宅に帰ろうと、踵を返して歩き始めた直後、ただいま〜っと香織の大きな声が、背中の後ろから微かに俺の耳にまで届いてくる。

 甲高いよく通る声だよな……しかし……変わってないよな、あいつも……

 俺はあの明るく朗らかな性格の香織が、昔から嫌いではなかった。

 未だにそれを維持している香織を見ると、なんだか微笑ましくさえ思う。

「ただいまー!」

 俺はいつになく大きな明るい声で、自宅の玄関の扉を開け広げた。

 だが――部屋の中は真っ暗だった……

 そういや、今日母ちゃん親父とデートしてくるとか言ってたっけな……

 せっかく、香織に感化されて明るさを演じてみたものの、暗闇に閉ざされた部屋に一人入ると、なんだか火照った気持ちが急速に萎み始めていた。

 


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