小田原 昌彦の場合、その一
年越すまでには……書き終えたい……5話程度になる予定です(希望的観測。
やー久し振り。
そろそろ暇こいてきたんで
また誰か苛めようかと思ってな。
さ〜て誰にするか?
小田原昌彦
プロフィール
19歳 二流大学生、熊のように体がでかい、多少小太りきみ、腹がでてる。
眼が細い、たらこ唇、もてない、消極的、開き直れる、暴走機関車、中流家庭。
普段口数少ない。合理的な考えができる。彼女いない暦=年。
何させる?
イブまでに女を調達してデートすること。現在12月10日
しくじると、網走刑務所で3ヶ月拘留。
これでOK!
ある日、王宮から茶封筒が届いた。
内容はこうだ。
『イブまでにデートできる女性を見つける事、イブにデートすること。その詳細は王宮監視員が当日、あなたを監視しているから直ぐ分かります、健闘を祈る。しくじったら刑務所で拘留、北の刑務所は極寒だよん 王様より』
…… 何なんだ、このナチス政権下のような、日本の戦中の特攻隊への赤紙のような内容は……
後、二週間でデートしてくれるような女見つけないと、刑務所へぶち込むとか書いてるぞ。
この王国はどうなってるんだ? 専制君主体制なのか……?
いやぁ、今の国家体制に文句言っても始らない。頭を切り替えて現実的に考えないとな。
取りあえず、ミッションを成功させるのが最重要課題だ……極寒の刑務所で3ヶ月とか絶対嫌だ!
しかし、女と付き合った事の無い俺が、そんなに短期間に見つけられるとでも?
まぁ、いいや……後ろ向きに悩んでる場合じゃない。
俺は財布を開けて中を覗いてみる。
だが、案の定……1万円しか入っていない。
こんなんで、女は買えねぇ……
という事は、自力でゲットするしかねぇよ。
いっちゃなんだが、金がない上に、ルックスもいまいち、更にデブ!
そして大学も二流ときてる上に、性格も明るい訳でもない。
そんな俺がナンパを決行したところで、どうなるかは火を見るより明らかだ。
だからと言って、大学で親しくしているような女はいないんだ。
サークルにも入っていない。大学ではただ決められた講義を粛々と受けているだけだ。
高校時代からの友人、アニオタの川田ってケチな野郎と休憩時間、二人で寂しく男同士のひっそりした会話を交わしたり、昼飯を食べたりする程度だ。
女の『お』の字も俺達の周りに漂っていやしない。
困ったな……こう考えると俺がデートするような女を、イブまでにゲットできる確率は、限りなく0に近い。むぅ〜……
俺は勉強机に突っ伏して、何かいい方法が無いか頭を悩ます。
足が自然と一定のリズムで、フローリングの床を叩いていた。
顔を左に右にひねって唸りながら、煩悶として考えた末――
――やっぱ……バイトしかないな!? 女がいるバイトだ。 しかも、すぐに入れるところだ。
今は年末だし、飲食店あたりはすぐにでも人が欲しいのではないだろうか?
女もいそうだし。よし決めたぞ、さっそく履歴書書いて、飲食店のバイトを雑誌で探すか。
近いところを探そう。
その日の夕方、俺は雑誌でみつけたレストランのバイト先に電話した後、さっそく現地へと赴く事になった。
「じゃあ、明日から働いてもらおうかな……大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよ!」
「それじゃあ、これにサインしてちょうだいね」
「分かりました!」
ふ、ちょろいな。俺はバイトをしたことが無いんだけど、こういう事務的な応対はできる奴なんだ。だから、心象が悪くなるような素振りは決して見せない。
ちょび髭のオーナーも、俺の丁寧な受け答えと快活な滑舌に一発OKをだした。
普段こんなに話す奴じゃないんだが、いざとなれば開き直れるんだよな。
性格偽証は何故か昔から得意だ。これでもうちょっと積極的で、明るい性格なら、デブとはいえ、彼女の一人二人はできるんだろうけどさ……
俺はオーナーに深々とお辞儀すると、店を出て行く。
その際、周りにいる未来の同僚に、愛想笑いと会釈をしながらも観察を怠らない。
うーん、学生っぽい女の子2人、ここが長そうな茶髪のフリーターっぽい女一人。
ほっそりとした茶髪の兄ちゃん一人、俺みたいなデブ男一人。
ホールはこんなもんか、洗い場の方は見えねぇな。
まぁ明日きた所で、自己紹介でもあるんだろうから、そのとき確かめるか。
バイト先の偵察も終えて、既に暗くなった住宅街を突き進み我が家へと向かっていた。
現在PM8時30分、普段ならもう飯食い終えて風呂入った後、ソファーにゆっくり腰掛けながらテレビを眺めている時間だ。
腹減ったなぁ……母ちゃん、今日の晩飯何にしてるのかな。
俺は空腹のためか、体に力が入らず、よたよたと暗い夜道を歩いていた。
中空を目指し昇る月の光が、細い住宅街の道を後ろから照らしてくる。
前に長く伸びる俺の影は、心なしかスマートに見える。
そんな時、後ろから軽い足音ともに、長い影の先が俺の足元を掠め始めた。
最近は物騒な事件も多いし、この辺はそれほど人気があるわけじゃない。
俺は少し後ろを警戒しながら歩く。
軽い足音はどんどん近くに迫ってくる。
後ろから来る長い影も、俺の1m先のあたりまで……って!
なんだ……? こいつ俺の真後ろ歩いてるじゃねぇか、怖ぇよ!
俺は拳を固く握ると、肩をいからせながら後ろを振り向いた。
だが、そこには俺が見知ったアイツが立っていた。
「お、やっぱりこの熊のような背中は昌ちゃんだったのか!」
「ん? お、お前かよ。びびらせんなよ! 香織!」
「あはは、そんなでかい図体してびびってんの?」
「バカ、用心深いと言え……」
「まぁ、良かった! とりあえず、私護衛してよね!」
「はぁ……まぁ帰る道一緒だしな」
「やった!」
びびったけど、ほっとしたぜ。
この女は近所に住む前川香織。小中高と同じ学校に通った幼馴染だ。
ボーイッシュな短いサルみたいな髪型をしている。
顔は母親が美人のせいもあって、それなりに美形に属しているとも思う。
「今バイトの帰りか?」
「うん」
香織は高校を出た後、どこかの事務として就職したんだが、長く続かなくて今フリーターをしている。何のバイトしているのかしらないが。
「昌ちゃん、珍しいじゃん、こんな遅く外出歩いてるなんて?」
「いや、ちょっとバイトの面接行ってきたんだよ……」
「えぇ、昌ちゃんがバイト? すっごい進歩じゃない?」
「まぁな……」
香織は俺の右手に、しなやかな細い腕を巻きつけてくる。
馴れ馴れしい奴だ……まぁ今に始った訳じゃないんだけど。
昔っから、軽いノリでこうやって手を絡めてくるんだ。
こいつの家は近所って言っても、俺の家より少し奥にあるために、
「ありがとね〜、この辺暗いから助かったわ〜」
結局俺は、自分の家を通り過ぎて、香織を家まで送る事になってしまう。
「おう、じゃまたな〜!」
「うん、バイト頑張ってね〜」
「お、おう」
香織は俺に笑顔で手を振った後、家の中へと入っていった。
俺が自宅に帰ろうと、踵を返して歩き始めた直後、ただいま〜っと香織の大きな声が、背中の後ろから微かに俺の耳にまで届いてくる。
甲高いよく通る声だよな……しかし……変わってないよな、あいつも……
俺はあの明るく朗らかな性格の香織が、昔から嫌いではなかった。
未だにそれを維持している香織を見ると、なんだか微笑ましくさえ思う。
「ただいまー!」
俺はいつになく大きな明るい声で、自宅の玄関の扉を開け広げた。
だが――部屋の中は真っ暗だった……
そういや、今日母ちゃん親父とデートしてくるとか言ってたっけな……
せっかく、香織に感化されて明るさを演じてみたものの、暗闇に閉ざされた部屋に一人入ると、なんだか火照った気持ちが急速に萎み始めていた。