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俺は王様  作者: 網野雅也
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グルフ・トライスキーの場合 その6

「さーてと、奴等が戦っている間に行こうぜ」


「それはいいが、一人お客さん来たぜ」


 テンロンの足もとには、黒装束の男が一人立っていた。

 頭まで覆ったその装束のためか、ジスパーはすぐにはその男が誰であるか分からなかったが、隙間から覗く銀髪を見て正体に気づいたようだ。

 テンロンの上から大きな声でその男に言った。


「早乙女、久し振りだな、なんか用か?」


「ジスパー様……、私の任務はあなた達三人の抹殺でございます」


「ほぉ、あれだけの盗賊どもを6人に任せてていいのか?」


「彼らは直ぐ殲滅されるでしょう、あなた一人の方がよっぽど危険です、悪いですがここで死んでもらいましょう」


 男はそう言うと、体が揺らぎ始める。そして――その姿が徐々に三つに分かれていく。

 ジスパーは目を細めて、その動きに目を凝らしていた。グルフはチョッキの裏に手を伸ばすと、分身一人一人にではなく、その辺り一帯を標的とする無数のナイフを滔滔と投げ込んだ。

 しかし、手ごたえは無かった。


「テンロン、お前の体は絶好の的だ、人間に戻れ!」


「はい」


 グルフの命令で瞬時に人間に戻る。戻る合間にジスパー、グルフは背中から飛び降り、テンロンを守るように前に立ち尽くす。

 早乙女は尚も三体に別れたままこちらへ、素早く駆けて来る。足音をたてずに岩場を、移動する無駄の無い動きに、グルフは只者じゃない事を瞬時に悟る。

 しかし、急に分身が上から襲ってきたかと思うと、ジスパーは刀を空に横薙ぎに振るった。

 それもまた実体がなく手ごたえがない。その分身たちは切りつけられると姿を空に溶かす。ジスパーは完全に相手を見失ってしまっていた。しかし、グルフの間合いに早乙女は入っていた。鋭利な刃物がグルフの腹部に突き立てられる。


 ガキーン!


 早乙女は戸惑う、確かに腹部にナイフは刺さったはずだった。その敵の動揺を意に介せず、グルフが上からナイフで背中を刺そうとすると、早乙女は後ろに、刹那の判断で飛び退いた。


「ほぉ、やるじゃねーか」


「貴様、一体腹に何を着込んでるんだ?」


 ジスパーも以前グルフと戦い、今の早乙女のように腹部に刃物を差し込んだ事があるが、同じように硬い何かに阻まれ、そしてその隙にグルフに刺され敗れた。

 早乙女の問いに対するグルフの答えに、こんな時ではあるが興味はあった。


「そりゃ〜企業秘密ってもんだ」


 グルフが腰から抜いた大きな銃を早乙女に向けた。

 

 ドン、ドン、ドン、ドン!


 狂ったようにグルフは際限なく、早乙女の動きを捉えながら銃を撃ち捲くる。

 間一髪でそれらを交わしていくが、反対側から飛んできたジスパーの鍵爪に足を捕らえられる。ジスパーはそれに繋がる鉄鋼線を振って、早乙女を地面に強く叩きつけた。

 早乙女は小さく呻くと、地に伏しなんとか立ち上がろうとした――がその頭上に、グルフの銃口が鈍く光っていた。


「終わりだな……」


「殺せ……」


 グルフは目を細めて、早乙女の顔をじーっ見てから、


「テンロン〜荷物にロープあっただろ」


 後ろの岩陰に隠れていたテンロンに大きな声で言った



「よっしゃ、こんなもんだな」


 グルフは早乙女をロープで岩にぐるぐる巻きにして、縛り付けた。


「なぜ、殺さん……?」


 視線を下に向け、解せない様子で呟く早乙女に対し、グルフは早乙女の頭を覆うフードをずらして、まじまじ見つめた後質問をした。


「お前、女いるか?」


「いるが……それがどうした」


「やっぱりな、お前ほどの男前ならいると思ったんだ、だから殺さない、ただそれだけだ」


 ジスパーは笑っていた。最強と呼ばれる忍者である早乙女の顔が、呆然として男前の顔が少し崩れて、間が抜けた顔になっていたからだ。


「まぁ、早乙女さんよ、グルフはこういう奴だ、じゃ俺たち先行かせて貰うぜ」


「く……」

 

 早乙女は、足を地面に叩きつけて、悔しがった。



「おお、おお、やっとるやっとる!」


 グルフ達は少し高台から盗賊たちと、6人の戦いを眺めていたが、ジスパーがグルフに突然顔を向けると、


「今がチャンスだ! 黄金の巨人の近くまで行くぞ!」


「ふむ、しかし、どうやったら、あれから天空城、いやおまえんちにいけるんだ?」


「簡単さ、黄金像の上には俺んちがあるんだ、あいつが天空に手を伸ばして触っているものが天空城に他ならない。あいつは言わば、エネルギータンク、地上を歩きながら、足から地熱エネルギーを得ているんだ。それを天空城の浮遊エネルギーに変えて、手の平を天空城に押し付けて。それを渡しているにすぎない。天空城は月に一度エネルギーを黄金の巨人から頂かないと、空に浮いてられないんだ。あいつを伝っていけば、すぐに俺んちにつくさ」


 その単純且、不便な天空城の実体を知って、グルフは目を細めて口端を大きく横に広げた。

 テンロンはあまりジスパーの言った事が理解できなかったが、やっとジスパーの家に行けるとあって、満面の笑顔を浮かべていた。





「お前ところで、どうやって黄金の巨人の上まで行くつもりだ?」


 グルフがジスパーがやけに落ち着いていたので、いい方法を知っているのだろうと思い聞いてみた。


「そりゃ、鍵爪を二つ手にさしてだな、交互に突き刺しながら、根性で上がっていくんだよ」


「カァ〜〜〜冗談は顔だけにしとけよ!」


 顔を抑えながらグルフが言った。ジスパーは本気でそのつもりだったので、それの何が悪いんだ――と納得いかない顔でグルフを睨んだ。


「そんなら、なんか方法あるのかよ?」


 グルフはそう言われてにやりと笑う。指先をテンロンに小刻みに何回も刺していた。


「はぁ? まさか……」


 ジスパーはテンロンに振り向くと、テンロンが照れ臭そうに笑っていたが、グルフを一瞥すると、


「ドラゴンでいいよね!」


「うむ」


「うは〜」


 ジスパーは驚嘆の声をあげて、テンロンの変わりゆく姿を見つめていた。


「ガオー! お待たせ♪」


 大きな体に緑色のぶつぶつした硬そうな肌、漆黒の翼が背中の少し上から二つ生えている。

 羽をバタつかせると、強烈な風がジスパの銀髪を揺らした。


「何でもありだな、テンロン……」


 ジスパーは童話に出てきそうなドラゴンそのままだなっと暗に思う。


「よっしゃ、行くぜ!」


 二人はテンロンの背中に跨ると、テンロンは一声絹を裂くような声をあげて、黄金の巨人に寄り添うように上空へと上がっていった。



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