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俺は王様  作者: 網野雅也
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グルフ・トライスキーの場合 その4

「まぁ……簡単に言うとだな……」


 ジスパーはベッドから立ち上がると、グルフが金貨を重ねた台に向って歩き始めた。

 前まで来ると、コインを一枚掴み取って、手の平におきグルフたちに向き直る。手の平のコインを二人に近付けて見せた後、右手の人差し指と親指で摘んで器用に弾いて宙高く飛ばした。そして、回転しながら落ちてくるコインを、目にも留まらぬ速さで両手を掠めてどちらかで掴み、両拳をグルフ達に突き出した。


「さぁ、どっちにコインが入ってる? これ当てたら、教えてやるぜ」


 グルフは眉間に皺を寄せると、深く息をついて、面倒くさそうにジスパーの右拳を指差した。ジスパーは薄笑いを浮かべると、小さく正解と呟いた。

 グルフはそれに右手指を弾いて小さく喜ぶが、ふと我に変えると、何やってるんだ? 俺っと自己嫌悪を軽く表情に現し、ジスパーを睨んだ。

 テンロンは左手だと思っていたので、目を眇めて悔しがっていた。


「じゃあ話そう、簡単に言うとだな、俺は一流の盗賊を目指すと親に言った、そしたら、勘当されてあの家を追い出された、それだけの事だ……」


 さっきからジスパーは得意な様子でいつになく軽い調子で喋っていたが、勿体つけた話がこの程度かとグルフは内心呆れると、踵を返して面倒くさそうに口を開く。


「じゃあな、小僧、馬鹿ばっかりやってないで、母ちゃんとこ帰りな」


「おい、待てよ! だからよ、俺連れて行けば、場所も宝石の保管場所も、それを守るトラップも分かるってよ」


「しるか!」


 グルフは怪訝な表情でテンロンの右手を引っ張りながら、扉へ歩み強く開け広げると、ジスパーを置き去りにして、早足で部屋の外の廊下に出て行った。その素早いグルフの行動に気後れしながらも、ベッドの横にある自分の上着を引っつかむと、グルフたちに走って追いつき、自分を連れて行く利点を熱く語る。しかしグルフは訝しげな顔で手の平をジスパーに乱雑に振って、すたすたと歩いていく。





 街中の大通りを出口へ向って歩く二人に、ジスパーは少し後ろからついて歩いていた。

 ジスパーは普段は無口でポーカーフェイスだが、その外見よりは中身はずっと子供っぽく、さっきのように、一旦箍が外れると調子に乗って口調が軽くなるところがあった。

 一旦相手に与えた印象は覆りにくく、今更、最初の印象に戻せる訳も無く、ジスパーは開き直って、後ろで軽口を永延と叩いていた。


「だからよ、俺を仲間に入れろよ、絶対役に立つからさ」


「ふん、どうだか」


 さっき、グルフはジスパーに辛辣に興味ないような口振りで言ったが、ジスパーの情報や元々彼の家である事を考慮に入れると、案内役としては絶好の相手なので連れて行っても良かった。しかし、何故かジスパーに素直に連れて行くことを告げる気にはならなかった。

 どこか世の中舐め腐っているようなジスパーの態度が気に入らなかった。


「頼むよ、連れて行ってくれよ」


 ジスパーがここまでグルフに、自分を連れて行くことを求めるには訳があった。

 それは単純な理由だが、彼にとっては重要な事だった。


「ジスパー、連れて行ってあげようよグルフ! ほらこんなに来たがってるんだし」


 テンロンがジスパーに振り向くと、顔を赤らめてジスパーは薄笑いを浮かべた。


「しゃーねーなーテンロンがそこまで言うのなら、連れて行ってもいいが……」


「が?」


「一つ条件がある、ジスパーのお守りはテンロンがやるんだ」


「いいよ、良かったね、ジスパー」


 グルフがテンロンの言葉に仕方なく折れると、テンロンは笑顔でジスパーに左手を差し出した。

 お守りとか言われて、ジスパーの表情が強張るも、テンロンから差し出された手を拒むつもりもないらしく、


「テンロン、俺頑張るから……」


 多少顔を赤くしながらも、ポーカーフェイスを保って、テンロンの顎の辺りを見つめて言った。目を直視するには照れ臭いものがあった。


「うん、頑張ってね!」


 テンロンはそう言って、ジスパーに無邪気に微笑んだ。





 街の出口まで来ると、グルフは地図を見ながら目的地を確かめていた。

 テンロンが集めてきた街の住人の話から、黄金の巨人はここから東のサルスタリア地方を今彷徨っているという情報を掴んでいた。


「サルスタリアか、ここから南南東へ300kmだな」


 岩地がどこまでも続き、サボテンが諸所に生えている。そんな殺風景な荒野にグルフが足を2歩3歩と足を踏み入れると、テンロン達も後を付いていくが、突然グルフは足を止めた。


「さてと、三人か、どうすっかな」


「どうするもなにも、乗り物がなくて、どこ行くんだよ」


 ジスパーは街を出口に向かう時、出口に馬車か何かがあるものだと信じていたが、それらしきものの姿がまるで目に映らない。それを不審に思い声に出して聞いてみた。

 そう言われてグルフは目を細めて、ジスパーに訝しげな目を向けたが、少し間を置いてから、にやっと口元を綻ばせてテンロンを見やる。


「テンロン、この馬鹿にお前の能力みせてやりな」


「いいけど、何にする?」


 テンロンはグルフに言われてきょとんとした目を向けて言った。


「そうだなぁ……」


 顎髭を右手で摩りながら、何かを考えている様子のグルフ。それまでの二人のやり取りを見て、ジスパーは会話の意味が理解できずに、呆けた顔で二人を観察していた。


「やはり旅と言えば、地上がいいな〜」


「じゃあ、三人いるし、いつものでどう?」


「うむ、あれならでかいし、三人乗れるな、それ頼むわ」


「OK!」


 しばらく良く分からないやり取りが続いていたが、二人の意見が一致した。

 テンロンはその場で四つん這いになると、急に体を小刻みに振るわせ始めた。


「なんだ?」


「ふふふ……」


 テンロンの様子に動揺を隠せずにジスパーは目を丸くして呟くと、その隣のグルフが不敵な笑みを浮かべていた。

 その間にもテンロンの体が白く発光して、その姿が大きく変化させていく。


「な……眩し……」


 最後により大きな白い閃光を方々に放つと、グルフが目に右手を翳して激しい光が目に直射するのを遮った。ジスパーは諸にその強烈な発光を目に受けて、両手の平を苦しげに瞼に押さえつけた。


「はい、どうぞ、乗っていいよ〜〜」


 テンロンの快活な声が荒野に響いた。


「じゃ、俺から、よいしょっと」


 グルフの声がジスパーの耳に届く。しかしまだ目が開けられないでいた。

 薄目をなんとか開けるも、視界に入るものがまだ黒ずんで見えて、目が慣れていない。

 しかし、だんだん正常な視力が戻り始めて、徐々にだが確実に視界がクリアになっていく。

 そして輪郭がしっかりしてきた中で目に捉えたものに、ジスパーは体をよろめかせ驚嘆の声を上げた。


「なんだ、このでけぇ白い角の生えた馬は?」


「ん? お前しらねーのか?」


「ユニコーンだよん」


 大きな純白の馬というには、あまりに神々しく、その大きな頭から立派な大きな三角錐の形をした角が斜め上に伸び、その周りから長い首にかけて、白い(たてがみ)が猛々しく靡いていた。

 そのユニコーンの姿にだけなら、ジスパーもそれほど驚く事は無かったかもしれない。だが、ユニコーンが人間の言葉を発した。それもテンロンと同じ声をしている。ジスパーは混乱していた。


「テンロンはな、俺が辺境の地イスパイアで見つけた、世にも稀な変体動物ラズンの生き残りだ」


「そうなのだよ、フフフ」


 テンロンはそう言うと鼻息を強く吹いて、大きな頭をもたげて嘶きの声を上げた。ジスパーは目を大きく見開きがに股で、その姿をしばらく放心状態で眺めていた。

  

 

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