コール君その2
「そんなこと急に言われても、私これから仕事が……」
「わかっています…ですが…僕も必死なんです…」
「じゃあ…20万出しましょう」
「いかがですか?」
「行きます〜〜〜〜!」
「有難うございます」「有難う…」
命が掛かっているコールは、お金を払ったとは言え、快く承諾してくれた
薫ちゃんに涙ぐみながら、礼を言った。
「今日の日没までにここから、車で三時間の宮殿に行かないといけないんです」
「急いで支度してください」
「分かりました、では少し店長に、急な用事ができたって伝えてきますね」
「はい、よろしく〜」
薫ちゃんは部屋を出て行った。
ふ〜…成功したよ。
後は彼女を、無事王宮近くまで運んだ後、演技指導しなきゃな……。
薫ちゃんが戻ってきた。
「ただいま〜」
「店長と話してきて、今日早退の届けしてきましたよ」
「ありがと、悪いね…」
「えーっと、服装どうしましょう?」
「さぁ、その格好でも…」
「う…さすがにだめかな……」
「お水の格好まるだしだね……」
「そうですね」
「よし、時間ないけど、近くの服屋へ行きましょうか?」
薫ちゃんが少し俯くと、何か言いたそうに口をモゴモゴさせている。
「どうしたの…?」
「あの〜、お名前聞いて良いですか?」
「コールだよ」
「コール君ですね、よろしく」
「え、ええ。よろしく…」
若いけど落ち着いた大人の女性の薫ちゃんは、優しくコールに微笑んだ。
コールはその屈託ない微笑みに、一瞬くらっときた。
やっぱり顔かわいいから、優しく笑顔投げかけられると、たまらないなぁ……。
コール君たちは商店街に入り、比較的高級そうな服が売っているお店に入った。
「いらっしゃいませ〜」
50くらいの店員のおばちゃんが出てきた。
「どんな服お探しですか〜?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
俺はそう言うと、店員より少し離れた位置で、薫ちゃんに買って欲しい服を
指示し始める。
「ここでさ〜、王宮に行っても、恥ずかしくない服買って行ってよ」
「明るい色のドレスがいいかも・・」
「わかった…」
「ここできめてね」
「時間ないから、適当で良いよ」
「はーい」
彼女は店員に希望の服を伝えると、何着か店員が持ってきたものを
試着室に抱え込むと、薫ちゃんは中で忙しそうに着替えていた。
おっと、俺の事考えてなかった。
俺も半そでのジーパンでいけるわけないよ。
彼女がドレスで俺がジーパンじゃばれちゃうよ。
タクシードにしようか……。
「す、すみません…」
「は〜い」
違う店員がコール君をみて、下から上まで嘗め回すように見た後
声を掛けてきた。
「え〜っと、どんな服にされますか?」
「高級なジーンズがありますが…」
「いやいや、タキシード用意してください」
「はいはい、ございますよ」
「こちらへ」
「これなどいかがでしょうか?」
コール君は値札をみた。
50万か…、まいいよ。
「試着してくださいな」
「はい」
試着室に入ったコール君。
これでいいけど、足があってないな。
しかし、すそ直し待っている時間はない……。
「あの〜、これ、足あってないんだけど」
「すそ直ししましょうか?2時間ほどでできます」
「そんなに待てない」
「裏にでも適当縫い付けてくれ、簡単でいいから……」
「ええ…?」
店員は少し目を丸くしながら、その言葉に動揺していたが
俺の血走った目をみると、臨機応変に言葉を返す。
「分かりました、10分ほどで仕立てます」
「ありがと…」
薫ちゃんが試着室から出てきたので、状況を聞いてみる。
「服きまった?」
「うん、ま、これならいいと思うよ」
「じゃ僕がそれカードで買っとくから」
「はーい」
俺は薫ちゃん服と俺の服の清算をすませ、もうすぐできるであろう
裾直しを少しイライラしながら待っていた。
10分がこんなに長く感じるなんて……。
店員が戻ってきた。
「大変長らくお待たせしました」
「こちらになります」
「ありがとうございましたーお気をつけて〜」
俺達は大きなお洒落な模様が入った、紙袋を渡されると
店の外にでた。
「でもすごいね〜、コール君」
「あれだけの買い物、全部払えるんだから」
「まぁ、うち金持ちだからね」
時間くっちまった……。
普段はママンに買って来てもらって、自分で買いに来る事はないから
ちょっと、心配だったけど、命がかかると、なんでもできるもんだな……。
コール君は時計をみると、11時30分を回っていた。
えっと、日没が今だと6時と設定すると、5時には付いておきたいな。
3時間かかるんだから、多めにみて、4時間、演技指導に1時間…。
やべぇ、12時には出ないとな……30分でどこかで飯食うか。
コンビニでジュースも買っていくかな。