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俺は王様  作者: 網野雅也
13/31

五条瓦 正和の場合その2


 「お父さん、入って良い?」


恭子が部屋を2回ノックしたかと思うと、扉を開け入ってきた。

そしてワシの姿を見るや否や、甲高い声で言葉を浴びせかけてくる。


 「ちょっとお父さん!」


 「なによその格好」


 「あ?」


何って、ワシ普通の格好してるやん。

白と青の線が縦に交互に入ったいつもの短パンに、白いランニングシャツ。

ワシが家にいる時のいつもの格好だ。


 「そんな可愛い顔してるのに、何その親父くさいコスチュームは」


 「別にいいじゃないか、家にいるだけだし」


ワシは肩肘つきながら横になってTVを見ていたが、あんまり娘が

喧しいんで、体を起こし娘の方へ体を向けて胡坐を掻いた。


 「はー…」


恭子はその姿を見るなり、深く息を吐き、両目を右手のひらで押さえて

呆れたような仕草を見せ付けてくる。

やがて、顔から手を離し、再び面倒臭そうにワシを見て言葉をポツポツ

投げかけてきた。


 「あのね〜…」


 「お父さん今どんな姿してるか分かってる?」


 「可愛い女の子やろ、そんなん分かってるわ」


 「だったら、その容貌に似合う格好しようよ…」


大体何が言いたいのか分かってきたぞ。

要は家の中でも、女もんの服装みにつけて、女らしい格好しろと言いたいわけやな。

恭子は比較的家の中でも、そういうとこきっちりしてる方やし。

間違っても下着のままうろついたりする娘やなかった。

そういうとこは、ある意味ワシの教育が行き届いてる証拠や。


 「分かった、恭子」


 「ならどんな格好しようか」


娘の言葉に理解を示し、前向きな答えを返すワシ。

恭子がワシの言葉を聞いて、歪んだ顔を穏やかなものへと変えていった。

しばらく、鼻を手で覆い隠すようにして、考えるているような素振りを続けていたが、何か思い浮かんだのか、再びワシに視線を向けて一言呟いた。


 「私の部屋きてよ」


恭子は怪しい笑みを浮かべながら、ワシの右手を引っ張り自分の部屋へと

連れて行く。

時折、鼻歌のようなご機嫌な声を発しっていた。

何か嫌な予感するな…。


ワシは部屋に連れてこられると、恭子が縞々のカラフルな座布団を出してきて

その上に座らされた。忙しそうに押入れの衣装ケースの中をかき回す恭子。

それを横目にワシは一つ大きな欠伸をすると、暇そうに部屋の内部にゆっくり視線を流していった。

フローリングの木の床には、埃やちりがほぼ落ちていない。

白い明るい壁には、額縁が掛けられていて、その中に風景画が固定されていた。

暖色系の絨毯や家具、ベッド、テーブルで纏まっているこの部屋は、ワシから見ても

非常に落ち着いてて過ごしやすい気がした。

ワシは足を崩して、段々体を横へと傾けていくと、絨毯の上に完全に仰向けに寝そべった。

恭子は探し物が中々見つからないのか、探索作業は長期化していた。



 ………


 「うんしょ、うんしょ」


 ワシは胸の辺りが何かに締め付けられるような感覚に襲われ

曖昧に映るぼやけた物を澄んだものへと変えていく努力をし始める。

半分くらい開いた視界で確認できた者は、目線上で眉間に皺を寄せて

両手を使って、ワシの胸の辺りで何かを繋ぎとめる作業をしている恭子の姿だった。

ワシは曖昧な意識の中、枯れた声でその恭子に向けて言葉を発した。


 「おまえ、なにしとるん…」


その声を耳にすると一連の作業を止め、ワシの顔を驚いた表情を浮かべ一瞥したが

何かワシにあやす様な言葉をなげかけながら、さっきより激しく両手を動かし始める。

やがて、ワシの首の後ろから何かを通すと、それを胸のあたりで絡み合わせた。


 「はい、できあがり!」


恭子は作業を終えたらしく、額に汗が滴り落ちながらも

その表情には満足感のようなものが垣間見える。

ワシはまだ起きたばかりで、体は鉛のように重かったが

後ろ手をついて徐々に体を起こし始めた。

その動作の遅さに業を煮やしてか、完全に体を起こす前に右手を恭子が強く掴み、無理矢理立たせると、そのまま肩に担いで、引きずるようにワシをどこかへと運んでゆく。

 

 「こら〜」


 「はいみてみて〜!」


この部屋に備え付けられている大きな鏡台の前に連れてこられ

恭子が両手でワシの両肩を押し上げるようにに支えながら、かろうじて立たされていた。

ワシは前にある鏡を寝ぼけ眼で見てみると

白っぽい服を着た可愛い女の子が立っていた。

もちろんワシなわけだが…。

ん…?

これは、セーラー服!?


 「どう?かわいいでしょ?」


 「これ私が高校の時に着ていた制服なの!」


 「サイズ合うか心配だったけど、ぴったりよ」


やられた。これを着せるつもりで部屋に連れてきたのか……。

ワシが寝ている間に着せ替え人形みたいにして、遊んでいたようだ。

スカートの中を見ると、ワシのあのパンツは剥ぎ取られ

女もんのフリルのついたパンツ履いてるし…。

上着の隙間から純白のブラジャーも見える…。


 「こら、恭子なんのつもりだ!」


ワシは憤慨して、恭子に怒鳴りつけた。


 「うるさいな〜、せっかく可愛くしてあげたのに」


 「あ、そうそう、これから外出るときその格好で出てね」


 「何でこの格好やねん」


 「いいじゃない、お父さんに合うサイズの服が家にないから」


 「それでいいの!」


 「それなら、替えもあるしね」


く〜、ワシこの格好で外出るのかい。

いい年扱いてこんな格好させられるとは思いもせんかったわ。


 「後、家着はそこに重ねてある、棉パンと半袖きてね!」


 「もちろん下着の替えもあるからね!」


床の上には、既に準備万端に積み上げられたワシの着替え一式が

置かれていた。何が何でもこの可愛らしいのを着せるつもりらしい・・


 「さーってとお昼ご飯用意してあるから、下いこっか」

 

 「面倒だから、その制服の姿で降りてきてね」


恭子は笑みを浮かべそう言葉を残すと、先に一階へ降りて行った。


 「……」


はぁ、どうせ台所で貴史と笑いものにすべく、待ち受けてるんだろうな…。

しかし、そうはいかんぞ、このままあいつ等に良い様に笑われるくらいなら

外で飯食って来るわい…。

ワシは自室に戻り財布を握ると、踵を浮かせ静かに階段を降りていき

台所にいるあいつ等に気づかれないように音もなく玄関に歩み、王宮から頂いた革靴を履いて

外へと静かに出て行った。


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