みじかい話
今夜、月があまりにも悲しかったようです。
その心中は計り知れないのです。
月は涙をこぼしました。
それは重力に従って地上へ落ちました。
キラキラと光のすじを残しながら落ちました。
サラサラと冷たく流れるせせらぎへ落ちました。
せせらぎのゆるくカーブした先が輝きました。
夜はあまりにも暗く、月の涙はあまりにも明るいのでした。
たくさんの小さな目玉が、それを見つけました。
光の好きな羽虫たちです。彼らの小さな目玉が、光を反射してきらきらしています。
水の中の光に誘われた哀れな彼らは、我先にと、流れるせせらぎへと身を突っ込みました。
そうして羽が水に濡れて、虫たちは飛ぶことが出来きなくなり、流されて行きます。
水の中で羽をきらきら、くるくるさせながら。
それはそれは、綺麗に流されて行くのでした。
次の夜も、次の次の夜も、ずっとずっとそれは続きました。
ある遠い未来のその日、旅人が偶然それを見つけました。
そして、せせらぎから月の涙を拾い上げると、自分のランプ籠に放り込みました。
旅人は永久に消える事の無い明かりを手に入れ、鼻歌まじりでその場を後にしました。
羽虫たちは平静を取り戻し、せせらぎは静かにさらさらと流れています。
とても望ましい状態ですが、もうなにも起きません。
なのでこの話は、ここが終わり処。
スランプで文章を書く感覚を落としたと愚痴ったところ、短い物を書いてリハビリはどうですか、と提案して頂いたので、やってみました。