おバカは可愛いと言っても限界はある
魔物に襲われなかったとはいえ、その前までに大怪我を負っていたようで、床に寝かせた人間は熱を出してうなされるようになった。
タオルなんて代物はここにはないので、私が魔法で出した氷水に浸した動物の毛皮で代用した。
私自身は動物にも弱い魔物にも避けられるが、私と親しくしてくれる強い魔物には自分の魔力や気配を消すことに長けたものもいて、そういった魔物たちがときどき狩った動物を差し入れてくれる。弁当の中身の催促と言うわけだ。
そうして中身を使った後に残る毛皮はと言えば魔物たちは使わないので、私の寝床の素材として利用している。獣臭いが、要は慣れである。いや、鼻がバカになっただけかも知れないが。
「うぅ……」
人間が寝苦しそうにして寝返りを打てば額に乗せた毛皮を替えてやり、毛布としてかけた毛皮を蹴飛ばせば被せ直してやり、となにくれとなく面倒を見た。
そんな私を興味津々で観察するのは力ある魔物の中でも更に強い個体が3匹。魔物は仲間が病気や怪我をすれば置いていくだけなので、このような看病はしない。よって私の行動が珍しいのだろう。
3日もすれば人間は熱もひき始め、時折目を開けるがすぐに閉じるようになった。
「そろそろ場所移さなきゃな」
人間は虚ろな目で現状を把握しようとはしているようだが、まだ体力が追い付かずすぐに眠ってしまう。でも、巣で面倒を見るのにはそろそろ限界だ。
「ニンゲンヲイドウサセルノカ?」
「そう。私の巣でこれ以上面倒を見るのは無理だからね。人間が目が覚めてもこの場所が特定されなくて、周りにも迷惑が掛からない場所に移動させないと」
「デハ、ワレノトッテオキヲテイキョウシヨウ。マワリトハハナレテイテ、デモニンゲンノリョウイキにナニカアレバワカリヤスイバショダ」
豹型の魔物がいい場所を教えてくれるようだ。
得意げな豹型魔物に連れられて行ってみれば、確かに周囲とは離れていた。小高い岩の上だからだ。そして、後ろの崖の壁面にしぶとく生えた木の影のお陰でこちらを周りから見えにくくしてくれている。
しかし、こちらは周囲より高くなっているので見下ろす形となり、周りで何かあれば分かるようになっている。大きな岩の上で、地面との移動が多少大変だが、人間が元気になったら自分で降りて貰おう。
そして何より、私の巣や魔の森は後ろの崖の向こうなので、この後人間が目を覚ましても巣の場所を知られる心配はない。
しかし、逆に崖とは反対、正面には人間の領域が良く見える。要するに、この豹型魔物のとっておきとは、人間の領域のそばの狩り場だったのだ。
有り難いけど……あぁ、有り難いんだけどっ!おバカ!人間の領域のこんなにすぐそばで狩りをしていたとは。いくら力ある魔物とは言え、人間は群れる動物だ。人間が束になって攻撃してくれば、力ある魔物とてどうなるかわからない。
「ココニイルマモノハヨワイ。ニンゲンノリョウイキ二チカイカラ、ドウブツモモリノオクヨリオオイ。イイカリバダ」
理由も確かに解るんだけどっ!未だに得意げにしている豹型魔物は、後で絶っ対にシメる!