膨らむ期待と伴う危険
ただでさえ怪我をしているのに、暴れられたら酷くなると、気絶したのをいいことに私の巣まで運ぶことにした。私のニッコリで気絶されたことなんて気にしていない。気にしてないったら、気にしてないの!
「連れてきたのか。ん?人間は死んだのか?……いや、違うな。気絶しているだけか」
お爺さんは男を見るなりそう言った。
「そうなの。私が安心させようと思って、助けるからね!ってニッコリしたら気絶しちゃったの!本当、失礼しちゃう!」
「お前さんのニッコリはドラゴンの大きな口をガバッと開けるからのぅ。大方、食べられるとでも思ったのだろうて」
「それにしたって!」
「ドラゴンノニッコリハワタシデモマダコワイ。ナレナイニンゲンハナオサラダロウ」
いつの間にか着いてきていた、魔物たちの中でも更に強い個体がお爺さんに同調する。酷い!二人揃って。
「それより、その人間を巣まで持ち帰ってどうするつもりじゃ。助けたとしても、この場所を知られるのはマズいじゃろう」
「置いておけなかったんだもの。意識が戻るまでとは言わない。死なないと分かるまででいいから、面倒を見させて。今はほら、意識も朦朧としているし。死なないと分かれば場所も移すし!」
「仕方のないやつじゃ。ちゃんと言ったことは守るのじゃぞ。この人間を助けることで身を危険に晒すのはお前さんだけじゃないのじゃからな」
「分かってる」
比較的大人しい魔物たちが多いと分かれば、人間は領土を拡大しようとやって来るかも知れないし、意志疎通できることや知能の高いことが有利に働かないこともある。
人間は人間のテリトリーで暮らすべきだし、魔物には魔物のテリトリーがある。既に棲み分けが出来ているものを、私という異分子が入り込んだせいで両方の領域が侵されかけている。これ以上拗らせないためにも、私は慎重に慎重を重ねた行動を心掛けなければいけないのだ。
それがわかった上でなお、私は人間と言葉を交わせるかも知れない可能性に期待を抑えられなかった。