ボロ切れのような男
そんなある日のこと、どうやってここまで来たやら、ボロボロの格好をして切り傷擦り傷を山とこしらえた男がフラフラと現れた。
「カヨ、人間が紛れ込んだようだぞ」
私はまだ名前はない。親がいないので当然だ。真名と呼ばれる名前は、あっても簡単に人に教えてはいけないのだ。よって、私は人間の頃の名前を名乗っている。
「へっ?人間?こんな所に?どうやって?」
「知るものかね。魔物たちが騒がしい。早く行かないと魔物たちに殺されてしまうぞ。助けたいなら早く行かないと……」
「お爺さん、教えてくれて有り難う!行ってくるね!」
みなまで聞かず、飛び出した。
この森の魔物たちは力が比較的強いものが多く、人間などしばし退屈を紛らわせてくれるオモチャ程度にしか考えていない。
そして、オモチャと言っても人間は感情もあれば、人形やぬいぐるみのように動かない訳ではないので攻撃してくる。最初は小突く程度(あくまで魔物の尺度でだが)だった魔物たちの攻撃も、必死に魔物を追い払い、または殺そうと攻撃してくる人間に、次第にエスカレートしてしまう。人間をオモチャ程度と考えるような力ある魔物たちが本気になれば、人間などあっという間にボロ切れになってしまう。
そして、人間に興味を持ち、肩入れする私を知っているお爺さんはわざわざそれを教えてくれたと言うわけだ。
「早く行かなきゃ!まだ生きてるといいけど……」
物理的にどうなっているのか気になるほど、巨体の割に小さな、けれどきちんと機能する羽で魔物たちの密集する地点へ急行する。そこに件の人間もいるはずだ。
「あぁ、もっとサーチを特訓しとくんだった!この森で私に攻撃してくる生き物がいないからってサボりすぎた……」
おかげで人間に気付くのが遅れ、お爺さんに教えて貰わなければわからなかった。もっと早くにわかって居れば生きている可能性も、怪我の可能性だって少なかったのに。
「私が向かうまで生きていますように……。私で治療できる範囲の怪我でありますように……!」
私は祈るしか出来なかった。
いくらドラゴンが魔力が強く魔法を自在に操る生き物だからと言っても、力には限界がある。死んだ者は生き返らないし、壊死した部分は治せない。そこは過去人間として生活していた世界と変わらない事実だったのだ。