魔石の使い道
「いーち、にーい、さーん。今日は3個か」
魔物に弁当が売れるようになったからといっても、あくまで嗜好品。1日に売れる数はそれほど多くない。全く売れない日もある。そんな時はこの巨体に全て消費される。売り物の弁当を一人ならぬ一匹で平らげることほど悲しいことはない。
かと言っても周囲の魔素を取り込んで食料(と言っていいのか)としているお爺さんは食べられないし、私はドラゴンで体が大きいので魔物用に作った小さいサイズの弁当程度ならペロリと食べてしまえる。こういう事も考慮して自分用に用意する弁当はいつも体格の割りに小さめ。
お爺さんのように魔素を取り込んでエネルギーに変えることもできる私は、足りない分は魔素で補えるのでそれでも事足りる。私にとっても、弁当は半分嗜好品のような物なのだ。
私が魔物たちから弁当の対価として徴収している魔石を何に使うのかと言えば、いつか人間の街に行くことができるようになった時のための蓄えだ。
お爺さんは言っていた。人間たちは魔石をエネルギー源として日常的に使っていると。と言うことはだ。売り物になると言うことではないか?
ドラゴンの身であり、人間たちの世界で流通する貨幣など持ち得ない私にとって、魔石は人間たちとやり取りするための代替貨幣なのである。
「結構貯まってきたかなー」
うふふ、と溜め込んだ魔石を入れた箱を見ながら、一人怪しくニヤけているとお爺さんに呆れられた。
「お前さん、端からみてるとかなり怪しいぞぃ。その笑い方は何とかならんのか。一応おなごじゃろうが」
「一応は余計よ!でも確かに……。でもでも!やっと500個を超えたの!これだけあれば、人間の街へ行っても大抵のことはできると思わない?美味しい屋台のご飯が食べたい……」
「浮かれるのもいいが、人間に化身出来なければ人間の街に行くことは許さんぞ。お前さんがドラゴンだということを忘れるでない。人間にとってお前さんは恐れの対象だが、それと同時に希少な素材の持ち主ということもな。そして、この森を出るならば余程のことがない限りここに戻ってきてはいかん。お前さんが弁当を売っている魔物たちとて、人間にとっては便利な生活を支える素材となり得るのだからな」
そう。これだけ魔石を溜め込んでも、人間の街に行くことを躊躇しているのには訳があった。まだ完璧に人間になれないということもあるが、一度は人間をしていたのだ。人間については分かっているつもりだし、外見としてもあとちょっとの所まで来ている。気を抜くと目がドラゴン特有の縦型瞳孔と金の虹彩が出てしまう。遠目には分かりづらい部分だが、人間にはない特徴なので致命的だ。
だが、それもそれ程かからず完璧に変身できると感じている。一番大きな理由は、お爺さんの言うように、一度森を出てしまえば余程のことがない限り森には戻ってくるな、と言われてしまったことだ。
人間に未練はあるが、50年過ごしたのだ。今生の、生まれてから今までの時間を共にしてきた仲間たちを捨てろと言われたも同然だ。私はここにきて迷っていた。