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あれから

 犬型の動物がこちらへやって来る。


「ドラゴンヨ。ベントークレ」


 そう言ったかと思うと、犬型動物はんべっと口からコロッとしたものを吐き出した。

 犬型動物の口から吐き出されたものは赤く透明な石ころだ。


「はーい。今日はシャケ弁だよー」

「サカナカ。ニクハナイノカ?」

「ごめんねぇ。今日はこれしかないよ。やめとく?」

「イヤ。ソレデイイ」

「毎度ありー。器はまた今度返してね。またため込んだら、今度から魔石2コにするからね」

「ウム。スマナイ。タベタラスグモッテクルヨウニスル」


 犬型の動物は少しシュンとしたかと思うと、弁当の容器を口に加えて尻尾をふりふり戻っていく。犬型とは言うが、犬とは違う。形が似ているだけで、似て非なるものだ。一般に魔物と呼ばれる類の生き物である。私はドラゴンだから、魔物とはカテゴリーが違うが、体に魔力を宿し魔石を生成することができるという点では魔物と少し似ている。

 魔石は石とは言っても魔力の塊を具現化したものなので体内にあったところで痛くもなんともない。人間は魔物を倒して手に入れた魔石を日常の便利な道具を動かすエネルギー源として利用しているらしい。電池扱いかよ!

 これらのことは、木の精霊のお爺さんに教えて貰った。誰もいないと思っていたあの空間には、実は私以外にも会話ができる生物というか、人格が一応いたらしい。私が一人慌てている様子にビックリしていただけで。というか、お爺さん以外にはいなかったとも言う。

 それは私の魔力が関係していて、ドラゴンの魔力は抑えようとしても抑えられない程強く、特に生まれたてのドラゴンの魔力は無意識に溢れ出して来るようで、そのせいで私の魔力にあてられた魔物は体内の魔力が暴れ出し狂ってしまうらしい。それを本能的に知っている魔物たちは私に近付こうとしない。

 しかし、ここは魔物がばっこする魔の森で、それを知っている人間たちは近付こうとしない。人間たちが近付かない魔の森の中でも、さらに魔物に避けられる私が会話できるのは木の精霊のお爺さんだけだったのだ。

 しかし、あれから50年経った今では魔力を抑える術も手に入れ、力の強い魔物なら私に近付くこともできるようになった。人間の時なら50年と言えば長い年月だが、ドラゴンにとって50年なんて人間の1年程度にしかならないのであっという間だった。生まれて1年で魔力を制御する術を習得したと考えれば、なかなか幸先のいいスタートではないだろうか。

 お爺さん以外との会話に飢えていた私は人間の知り合いを手に入れる為に試行錯誤していた。

 力ある魔物とは近付くことができるようになったとはいえ、基本的に魔物は人間とは相容れず、人間の時の感覚を忘れていない私としては許容できない部分もあったのだ。その最たるものが食料である。

 人間の頃日本に住んでいた私は、多くの現代人と同じく家畜が精肉されることは知っていても、その工程が身近に見られる環境になかったので、生物を捌くことも出来なければ生肉を食することにも抵抗があった。昔はどうでも今はドラゴンなのだから問題ないと言えばないのだが、どうしても人間の時の感覚が生物を捌けるようになった今でも生肉を食べることを良しとしない。

 そこで私はドラゴンでありながら、料理を覚えることにした。『覚える』とは、家では有り難く母の料理を頂き、大学に入って一人暮らしを始めると共に追々料理を覚えて行こうと思っていたダラでのんびり屋の私は、料理というものにほとんど触れて来なかったから。

 いや!手伝いはしたし、調理実習もちゃんと受けたことは受けた!でもそれを料理の経験として換算していいかと言えば微妙でしょ……。

 というわけで、時折ビクビクしながら野営をする人間の様子を観察する物好きな魔物や、世界中に散らばる仲間の妖精たちから情報を手に入れるお爺さんからの教えを受けて料理に取り掛かった私。今では、なかなかのものではないかと自画自賛している。

 そこで、私のしていることに興味を持った物好きな魔物たちに弁当を販売し始めた。弁当1つにつき、魔石1つである。

 力ある魔物たちの中には、嗜好品としての弁当が広まりつつある。あくまで嗜好品だ。 そんなこんなで、私はなんとかこの世界に馴染んでいた。

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