材料収集から始めよう
「オクッテキタ。ベントークレ」
「ワレモ」
「クレ」
ユージーンを送ったその足ですぐに私の所に来たらしく、まだ弁当は出来ていない。
「ちょっと待って。今まだ材料集めているところだから」
「ナニガイルノダ。ワレガトッテキテモイイゾ」
「じゃあ、肉は生姜焼き弁当とハンバーグ弁当にしたいから、この前の丸っこい四つ足と角付きの四つ足が欲しいかな」
「ワカッタ。イッテクル」
頼むなり、魔物たちは早速捕まえに行ってくれた。余程早く食べたいようだ。腕がなるね。
実は、弁当を作るにあたって苦労したのが、地球や日本で使われている食材と味や食感が同じものか似たものを見つけること。ここは魔の森なので家畜なんていないし、植物でさえも魔力の元になる魔素を帯びている上、地球と形や味が同じとは限らない。
先程魔物たちに頼んだ動物も、実は名前も知らないので、“丸っこい四つ足”とか“角付きの四つ足”としか呼べないのだ。それでも、よく使う食材だからか魔物たちにはこれを言うだけで通じるのは有り難い。
そして、地球の感覚で言えば生姜焼きとハンバーグを作るときて、丸っこい四つ足なら豚、角付きの四つ足なら牛と思うだろうが、実は逆だ。そこが地球と違ってややこしいところだ。
そして、地球と全く同じ形をしていないのでここの豚は地球の牛と同じ形をしていないし、ここの牛も地球の豚と同じ形をしていない。あくまでも似ているだけだ。
野菜も動物同様、ほうれん草に似ていると思ったものが人参の味をしていたりと、食べてみてやっと違いに気付くといった具合。
なので、料理をする前に何よりまず始めに食材の把握をすることから始めなければならなかった。そして、これが大変だったのだ。
なまじ、日本での記憶があるからその知識が邪魔をして、新しい情報を受け入れるのに時間が掛かってしまった。慣れるまでに、私の頭と舌はちくはぐの情報で混乱に混乱を極めた。
そこを乗り越えて漸く、弁当作りのための料理を覚えるという過程に踏み込むことが叶ったのだ。いや、長い道のりだった。
さて、魔物たちが肉を取ってくる間に、私は魚を捕まえて来ようかな。
動物は魔物ほど魔力に敏感でないので、本当なら私でも捕まえられるはずなのだが、この巨体が目立って近付く前に逃げられてしまう。その点、魚なら逃げても水のある範囲なので動物を捕まえるより簡単なのだ。
よって、魚は私、動物は魔物たちと自然に狩りの分担が出来てしまった。
なるべく大きいのを捕まえて来よう。
因みに、前に作ったシャケ弁のシャケは、地球でいうならサメの形をしていた。ただ、サイズがシャケサイズ。
サメと言えば大抵某有名サメ映画を思い出す人が多いかと思うが、あんなサイズでなくて良かったと私は思っている。
シャケの癖に噛み付いて来て、ドラゴンである私を食べようとするからだ。シャケサイズの癖に生意気である。
そういうときはデコピンをかまして気絶させている。ドラゴンのデコピンを食らって気絶ですんでいるあたりが、サメ並みのしぶとさを思わせて嫌になる。
湖には兎も泳いでいるが、何を隠そう、これがここのサメである。兎の癖にデカく、飛びかかって噛みつこうとしてくる。
本当にこの世界はめちゃくちゃだ。そして危険生物ばかりだ。私がドラゴンでなければ、何度生命の危機に直面したか分からない。
それとも、ここが魔の森だから動物や魚も凶暴なのだろうか?不思議な場所である。