治癒魔法も万能じゃない
「うぅ……アラン!にげ……」
アランの名前を呼ぶと言うことは、やはりこの人がユージーンだろう。
左足を切断したせいで熱が出ている。一応治療できることはしたし、あとはユージーンの体力の問題だ。怪我が大きすぎて完璧に治すことは出来なかった。
治癒魔法は、本来持っている治癒力を本人の生命力を使って一時的に底上げする魔法である。
だから普段元気な人が怪我や病気をしても、使う生命力は少なくて済むので完治する可能性は高い。
そして、普段から病気がちな人や慢性疾患を持っていたり余命の短い人は、使える生命力が少ないので一度にできる治癒魔法では大した治療は出来ない。治癒魔法と言っても万能ではないのだ。
ユージーンの場合は、死にかけてはいたものの、普段から魔物からの護衛ということで体が資本の仕事をしていたので、基本的な生命力が高かったのが幸いした。
それでも、怪我をしてから暫く放置していたせいで生命力を失っていたので完璧に治せる程の治癒魔法は掛けられなかったのだ。
そんなことをしたら、治癒魔法をかけるのに生命力を使い切ってしまい、体は治癒してもユージーンは死ぬという脳死とか植物状態に近い状態になってしまうので本末転倒である。
よって切断した足は、一旦小さな炎で焼いて出血を止めてから火傷を治療してある。火傷の痕は残るが、仕方がない。
ユージーンが男性で良かった。女性なら火傷を負わせるのに躊躇した。火傷は治せるが、火傷の傷跡を消すことは出来ないからだ。
切断してすぐに治癒魔法を掛ける方法もあったが、ユージーンの生命力を考えて諦めた。なるべく温存した方がいいと考えたからだ。
そして、10日程経って漸くユージーンの目が覚めた。
「ここは……どこだ?俺は……生きているのか?」
「目が覚めたみたいだね。ここは魔の森の端だよ。死に掛けていたあなたを、私が治癒魔法をかけて看病していたんだよ。あなたを見つけてからは10日程経ったかな。あなたが怪我を負ってからは17日だね」
「……ドラゴン?」
まだ意識がハッキリしていないようだ。
「食べるのか……?」
「食べないよ」
「食べないのか。これは……夢か?ドラゴンと会話している上、ドラゴンが俺を食べないと言ってるなんて」
「タベテホシイナラ、ワタシガタベテヤッテモイイガ」
犬型魔物が横から会話に加わった。
「こら!食べちゃだめ!」
「魔物も喋っている。俺は死んだんだな」
だめだこりゃ。完全に夢か死後の世界か何かと思っている。もっときちんと目覚めてから会話した方が良さそうだ。