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王妃の宝石  作者: 桐生初
8/10

ボルケーノ王との死闘

竜国の大鷹に乗った軍勢と国境で合流したアレックスは言った。


「正面から目立って攻め入ったら、火山でやられる。一気に王宮に入ってカタをつけよう。全員大鷹で王宮から見て北方の山から近付き、地下水路からボルケーノ王の居る広間へ行く。いいな?」


アレックスと共にイリイに乗ったアンソニーは、軍勢がボルケーノ方に見えないように、魔法を張った。


「大気の精霊よ、我らを包み覆い隠せ。ネブラ。」


アレックス達は霧に包まれ、見えなくなった。


「アレックス様、ミリイは主にマリアンヌ様を選んだのですか。」


「その様だな。」


大鷹の主は、人間が決めるのではない。

大鷹自身が決める。

だから人間に飼われている大鷹は、ヒナがかえっても自分では育てない。

かと言って、成鳥になるまで育てた人間が選ばれるとも限らない。

従って、神聖な純潔の大鷹は、限られた者しか乗れない。

竜国でも、元国王とアレックス、そしてダリルの隊の20名しか持って居ないので、他の兵士が乗っているのは、繁殖の純血種でない大鷹で、スピードも純潔の5分の1しか無い。


魔導士は大鷹を持たない決まりになっているのだそうで、アンソニーは、いつも誰かの大鷹に乗せてもらっている。


「昔の記録を読んで、何か分かったか。」


「はい。10年前というと、私も9つでしたから、あまりはっきりとは覚えて居りませんでしたが、各地で戦が絶えませんでした。多くの血が流れ、多くの小国が無くなり、民も家畜も減り、その頃から洪水や干ばつが起き出し、お父上の竜王と獅子王が停戦条約を結び、血で血を洗う様な戦は終わりました。しかし、少々遅かった様です。怨みと憎しみのこもった人間の血が大地に流れ過ぎたのですな。」


「血の池まで出来たというのは聞いている。」


「はい。その血の池の血は、結局地中に還る。」


「ーつまり、聖石が穢されたという事か。」


「正確には、穢されるのを防ぐ為、聖石が自らの意志で外に出たと考えられます。聖石があったと思われる場所で、地中から苦しむ様な唸り声を聞いたという記録がいくつもございました。」


「そして、人間の中に隠れたのか…。」


「はい。しかし、聖石に相応しい方は、マリアンヌ様お一人だけだったようですが。」


「ーその聖石が地中から出てしまったが為に、大火砕流が起きたのか。」


「それもありますが、あまりにこの世の不浄が多く地中に流れ入ってしまったが為に、黄泉の国の力の方が、神の力より強くなってしまったのです。地中奥深くで、黄泉の国の力が膨大になってしまい、それを一気に抜く為に、神が仕向けられた大火砕流だったと思われます。事実、その大火砕流を伴う、大噴火が起きた後は、聖石が埋まっていないにも関わらず、各地での不可解な現象はピタリと止まり、神の力が弱まってしまう事も無く、今まで来ていました。」


「なるほどな。ボルケーノ王が制御出来なくて、当たり前の事だったんだな…。でも、それを説いて聞かせた所で、ボルケーノ王の心は安まらないだろう。ずっと神に仕え、真面目に仕事をしてきたのに、己の民や家族が犠牲となる事になってしまったのだから。」


「そうですね。でも、アレックス様、あなたなら…。」


「俺なら、なんだと言うんだ。」


アンソニーは、含みを持った笑顔で、アレックスを見つめている。

大体こういう顔の時、アンソニーは無理難題をふっかけてくると決まっている。


「俺に説得なんか無理だぞ!?」


「そうでしょうか。あのお心の美しい、聖石の様なマリアンヌ様に好かれた方ですよ?イリイにも選ばれた。大鷹と話が出来るのは、竜国でも、あなたとお父上と私だけ。鬼だか、悪魔だかと位、話せましょう。」


「関係無いだろう!」


「その汚れなき魂を持ってすれば、ボルケーノ王のお心も開かれるのではないかと。」


「いや、無理だと思うがな。」


話している内に、目的の山側に着いた。


アレックスが10日前に来た時よりも、もっと、まるで地獄の様になっていた。

大地はドス黒い赤となり、空は真っ黒な雲で覆われ、昼でも夜の様に暗く、山の木々は全て枯れ、白亜の神殿だった筈の王宮は、濃い灰色となり、真っ黒でウネウネと動く蛇の様な気味の悪い蔦に覆われていた。


兵士も民も、生きているのか、死んでいるのか分からないような虚ろな目をして、剣や鎌を持ち、誰彼構わず、人を見ると殺し合っている。


「酷いな。これを直す方法なんてあるのか。」


「元凶となっているボルケーノ王を倒し、聖石を浄化出来れば…、でしょうか。正直、私もここまで酷いと自信がありません。」


アレックスは、アンソニーを元気づけるかのように、快活に笑った。


「まあ、やってみなけりゃ分からない。やれるだけのことはやってみよう。」


アンソニーも、それに応えるかのように笑う。


「はい。」




アレックスの奇襲作戦が功を奏し、衛兵が殆ど居ない裏側の、彦三郎が落ちていた地下通路に入り、難なく、ボルケーノ王のいる広間に入れた。


そこに居た兵士達も、魂を持っていないかの様な虚ろな目をして、闇雲に襲いかかって来るだけなので、アレックス達精鋭部隊には埒もなかった。

その者達ももう不浄の者となっているせいか、アンソニーの聖魔法もいつもよりも強力に効いていた。


それにアレックスの大剣は1度に5人は斬れる。


一緒に戦っていた兵士が、ダリルに言った。


「戦術も腕前も、アデル様より勝っておいでなのではありませんか。」


「そうなのだ。だから前国王陛下はアレックス様に継がせると仰ったのだ。アデル様は器に非ずとな。」


「重臣共は馬鹿でしたね。」


「全くだ。アレックス様が国王になられていたら、こんな凶々しい事は起きなかったかもしれぬ。」


広間は広く、ボルケーノ王の前に山ほどいた兵士達が倒れて行き、やっとボルケーノ王が見えて来た。


「あれが…ボルケーノ王なのか…。」


アレックスが誰ともなく確認してしまう程、ボルケーノ王は変わり果てていた。

体は5倍にも膨れ上がり、悪魔の様な角が生え、目は白目は赤く、瞳は金色となり、牙まで生えている。


「まるで…悪魔だ…。」


騎士の何人かが思わず後ずさった。


「ボルケーノ王、企みを止めて頂きたい。」


アレックスが怯まずに言うと、返事もせずに立ち上がり、呪文を唱えだした。


「黄泉の国の不浄の者共よ、邪悪な神々よ、我らの邪魔をするものを止めよ、ペトラ!」


アンソニーが杖を立て、ほぼ同時に叫んだ。


「清浄なる守護者よ来たらん!エクスペスト・ハーフェズ!」


しかし、アンソニーの魔法が効いたのは、ダリルの隊の20名とアレックスだけで、他の者は皆、石になってしまった。


「アンソニー、話は通じぬらしい。」


「その様で。」


「ダリル、行くぞ。アンソニー、援護を頼む。」


「承知。」


アレックスは先陣を切り、ボルケーノ王に斬りかかって行った。

人なら5人いっぺんに真っ二つに出来るアレックスの大剣でも、やっと一太刀浴びせられても、かすり傷程度しかつかない。


振り払われた騎士達の方が深手を負っていた。


「アレックス様、引きましょう。」


「ダリル、お前達は引け。」


「何を仰います!」


「俺は…約束を2つ共違える訳にはいかない。無事に帰る事は出来なくても、ここを制圧して、彼女を自由にする…。」


「アレックス様!」


止める間もなく、アレックスが飛び出すと、ボルケーノ王が再び呪文を唱え出した。


「我らの邪魔をする悪しき者共よ!闇に堕ちよ!テネブライ!」


アンソニーも叫ぶ。


「これは防ぎきれん!ダリル!逃げろ!」


ダリル達が、アレックスを抱えて逃げようとした格好のまま、全身を真っ黒な霧の様な物に覆われ、そして消えてしまった。


「ダリル!」


残ったアレックスが叫ぶと、ボルケーノ王はアレックスを見た。


「何故お主には効かぬ…。」


「知らん!ダリル達を返せ!あの者達を元に戻せ!」


アレックスは満身の力を込めて斬りかかった。


何度振り払われても斬りかかりを繰り返し、そしてとうとう倒れた。


「アレックス様!撤退いたしましょう!」


「ダメだ…。このままにはしておけない…。」


「マリアンヌ様に無事にお返しすると、お約束致しました!」


「マリアンヌ…。」


アレックスは指輪を触った。


青い紺碧の石が揺れるように光ると、ふっと笑い、アンソニーを見た。


「カゴの鳥では無く、自由に羽ばたかせてやりたいんだ。連れ出した時、本当に嬉しそうに、少女の様にはしゃいでいた。ずっとあの笑顔でいさせてやりたい…。」


「あなたが居なければ、それも叶いますまい!」


「兄上は約束は約束という方だ。ここで俺が失敗すれば、マリアンヌを獅子王に渡し、ペガサスを取り、世界の混沌など気にも止めない。竜国さえ無事であればそれでいい人だ。混沌が竜国に及べば、マリアンヌの石を使おうとするかもしれない。」


「それはそうかもしれませぬが…。」


「アンソニー、一か八かだ。お前の不浄の霊を天界に送る呪文を唱えろ。それと同時に斬ってみる。」


「ーならば、刃にあなたの血を塗られよ。」


「俺の血?」


「あなたには黒魔法が効かない。即ち、邪悪な物を跳ね除けるお力があるという事です。」


「ー分かった。」


刃に血を塗ったアレックスが合図を送り、アンソニーが呪文を唱えだした。


「不浄なるこの世に迷い出でし全ての者よ!光に導かれ、己の行くべき所に行くが良い!ニルヴァーナ!」


それと同時にアレックスが斬りかかると、ボルケーノ王はのたうち回って苦しみ出し、角と牙が取れた。


しかし、それにより、手傷を負った猛獣の様に怒り狂った様子で、アレックスの首を片手で掴んで、宙吊りにした。


「アレックス様!」


アンソニーは魔法を使おうとしたが、度重なる消耗の激しい魔法の使用で、力の限界が来ていた。


アレックスも、さっきの攻撃が最後の力を振り絞ってのものだった。

ボルケーノ王の腕を斬ろうとしたが、首を絞められている事で、意識も遠のき、大剣も持っていられなくなり、落としてしまった。



その少し前の事だった。

マリアンヌは、指輪の石が見た事も無いような光り方をしている事に気付いた。

いつもは、優しくふんわりと光るのに、その時は、激しく、震えるように光っていた。


「アレックス…。アレックスの身に何か…。」


嫌な胸騒ぎと共に、マリアンヌの脳裏には、自分の石を使えば、全て浄化できるかもしれないと言ったアンソニーの言葉が浮かんだ。


「ミリイ、アレックスのところに連れて行って!」


ミリイは小さくクーと鳴くと、右脚を出してマリアンヌを乗せ、ボルケーノ向かって飛び立った。



アンソニーも魔法の杖でポカポカとボルケーノを殴ってはみるが、そう大した攻撃にはなっておらず、とうとうアンソニーも首を掴まれ、宙吊りにされた。


マリアンヌがミリイに乗って降り立ったのは、丁度その時だった。


ボルケーノ王は、マリアンヌを見ると、2人を投げ捨てるかのように、乱暴に落とした。


「マリアンヌ…、何故ここに…。」


苦しそうに言いながら、大剣を取り、マリアンヌの前によろめきながら立つアレックスを、マリアンヌは目に涙をいっぱいに溜めて見つめた。


「こんなになるまで…。もう戦わないで…。」


「貴女の石は渡してはいけない…。」


ボルケーノ王には、マリアンヌを見た時から、心臓にある石が見えている様だった。


マリアンヌに手を伸ばしながら言う。


「最後の石だな…。私によこせ…。」


「駄目だ!」


「差し上げます!」


「マリアンヌ!それはいけない!」


「いいえ!だからもうこんな事は止めて!アレックスを殺さないで!」


「良かろう。」


「駄目だ!」


アレックスが立ち塞がったが、ボルケーノ王は、離れた所から何かを掴むような仕草をし、マリアンヌは倒れた。


「マリアンヌ!」


アレックスが抱きかかえたが、顔色も悪く、脈も無い。


「ふふふ。全部揃ったぞ。」


ボルケーノ王の手には、水色の光り輝く石があった。

アレックスは、マリアンヌをそっと寝かせると、大剣を構えた。


「貴様…、許さん…。」


アレックスが向かおうとすると、力尽きて倒れていたアンソニーがアレックスの足を掴んだ。


「お待ち下さい…。」


ボルケーノ王は、石を飲み込んだ。


そして、先程の様に苦しみ出した。

いや、先程よりも、もっと苦しんでいる。

のたうち回り、咳込み始め、口から目も開けていられない程の眩しく神々しい浄化の光と共に、赤、青、黄色、紫、緑、黄緑、ピンク、水色の8色の宝石が一斉に飛び出し、空に広がり、八方に飛び去って行った。


宮殿から黒い蛇の様な蔦が地中に戻って行く様に消え、大地の色も元の土の色に変わり、空は青々と晴れ、白は白亜の神殿に戻った。


ボルケーノ王は、人間の姿に戻り、微動だにせず横たわっており、息をしているのかすら分からない。


石になってしまった騎士達も元に戻り、消えてしまっていたダリル達も、何が起きたのか分からない風で、元の場所に戻っていた。


アレックス達が殺した筈のボルケーノの衛士達も、おかしくなっていた時の記憶を失っている様子で、首を捻りながら、不思議そうに、無傷の状態で起き上がっていた。


だが、マリアンヌは、目を閉じたままで、脈も戻らない。


アレックスは、マリアンヌを抱きしめた。


「ごめん…。約束を違え、貴女を守る事すら出来なかった…。」


皆、沈痛な面持ちで黙り込み、2人を見守っていた。


暫くそうしていたアレックスは、上着のポケットから、あの薬を出した。

例の、死者を蘇らせる薬だ。


アンソニーが顔色を変えて止めた。


「アレックス様!なりませんぞ!」


「ー魂が汚れるとはなんだ、アンソニー。」


「アレックス様!」


「大鷹に好かれなくたって、乗れなくったって構わない!この世の全てを敵に回してもいい!俺はマリアンヌに生きていて欲しいんだ!」


「なりませぬ!それだけはなりませんぞ!かような薬で生き返ったとしても、もうあなたの知っているマリアンヌ様ではない!」


ダリルが何かに気付き、アレックスの薬を持つ手を握って言った。


「アレックス様!ミリイは生きております!」


アレックスは、ミリイを見た。

のんびりと毛繕いなんかしている。

それは、おかしな事だった。

聖なる大鷹は、主と決めた主人と生死を共にする。

主人が死んだら、大鷹も死ぬのだ。

それが、主人のマリアンヌが死んでいるというのに、ミリイは生きている。

つまり、マリアンヌは生きているという事になる。


マリアンヌが苦しそうに咳をし始めた。


「マリアンヌ!?」


アレックスは、マリアンヌを少し起こし、背中をさすりながら声をかけた。


「ゆっくり息をして…。」


何度か深呼吸をした後、マリアンヌは目を開けた。


「アレックス…、お怪我は大丈夫…?」


「ああ、そういえば良くなってる…。それより貴女は…。」


マリアンヌはとても幸せそうに微笑んだ。


「とても気分がいいの。心の臓がとても軽いわ。」


「……。」

マリアンヌは起き上がると、本殿を走り回った。


「大丈夫!もう具合が悪くなったりしないわ!」


そして、アレックスの胸に飛び込んで来た。


「貴方のお陰です。」


「俺は何も…。良かった。元気になれたんだな…。」


アレックスがホッとした様子でマリアンヌを抱きしめると、手を叩く音がし、アデルが出て来た。


「上出来だアレックス。とどめをさせ。」










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