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王妃の宝石  作者: 桐生初
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ボルケーノへ

アンソニーという竜国の魔導士は、ユニコーン国の小高い丘の上に立ち、深緑色のマントを風になびかせ目を閉じ、両手を広げ、何かを探すような手付きをしていた。


「うーん、やはりこの国には居られぬ様だ。イリイの気配はほんの少しするが、大分前の物だろう。」


その後ろでしゃがみ込んで地図を広げていたダリルが言った。


「そりゃそうだな。行き先がすぐ分かるようなヘマ、アレックス様がするはずが無い。ここで無いとすると、隣のユミル国では、農耕民族の小さな国過ぎて却って目立つ。様々な国の人間が入り乱れている麒麟国なら目立たないな。ペガサスからは離れてるから、王妃の顔も知られていないし。」


「しかし、ダリル。」


「ん?」


「本当にご命令通り、アレックス様からマリアンヌ王妃様をかすめ取るつもりか。」


ダリルは情けなさそうに目を閉じると、草煙草に火を点けた。


「言うなよ、それをー。」


「お主だってアレックス様のご気性は分かっておろう。賞金の為だけに、危険を侵して、お身体の弱い王妃様を連れ回したりする方かどうか…。」


「分かってるよ。恐らくきちんとした理由がおありだろう。だけど、今の王はアデル様で、俺達はアデル様の家来なんだ。アデル様のご命には従わないと…。」


「ああ…。」


アンソニーは会話の途中で、苦しそうに胸を押さえ、うずくまった。

ダリルが心配そうに背中をさする。


「大丈夫か。」


アンソニーは大きな息を吐き、土を握った。


「大地の穢れがまた強くなった…。神の力が弱まっている…。」


「ボルケーノに近付く毎にそう言うな。あそこに原因があるのか。」


「かもしれぬ。アレックス様に魔導士のお力は無いが、カンは昔からお強い。こういった不浄な気配はお分かりになり、普段ならお近付きにもならぬ筈…。何故、行方を追えば追う程、ボルケーノに近付いていらっしゃるのか…。」


「王妃様を攫った理由と関係しているのかもな…。ボルケーノ王が、賞金稼ぎに何か依頼したのかもしれん。そっちを調べさせてみよう。」




アレックスは、イリイの居る小屋に戻る為、滞在していた雑貨商から出た。

戻る途中、行きと同じ様にラグナに乗せられているマリアンヌが、心配そうに聞いた。


「もう戻って大丈夫なのですか。」


「卵を産むのは終わったから大丈夫。」


「何故お分かりになるの?」


「うーん、なんだろうな。なんとなく分かるとしか言いようが無い。」


「通じ合っているのですね。素敵。」


「ー獅子国にも、大フクロウが居るだろう。あれも同じ様な感じだと聞いたが。」


「そうですね。でも、フクロウは気位が高いので、人と共にという感じでは無いのです。気分が乗っていなければ乗せてくれませんし、繁殖の時期は、どこかに行ってしまいます。」


「それは厳しいな。」


「そうなのです。そんな訳で、純潔の大フクロウを飼っているのは、貴族だけですね。それでも、フクロウの方に気に入ってもらえないと、大枚はたいて購入しても、出て行かれてしまうようですが。」


「飼い主を選ぶのだけは同じなんだな。でも、売り買いされてるとは、少々不憫だが。」


「そうなのです。自由にさせてあげればいいと思うのですが、純潔の大フクロウを持つ事は、獅子国の貴族の誇りと申しますか、格好だけの騎士のシンボルの様な感じになっていますから。」


「アクセサリーという事か…。」


「そういう事です。戦無しで来ているのはいい事ですけれど、竜国同様にあったはずの騎士の魂まで無くしてしまいました。大フクロウに見限られるのも、当たり前ですね。」



小屋に入ると、イリイはアレックスが用意していったフカフカの大きな布団の上で卵を暖めていた。


「イリイはヒナが成長に育つまで、結界を張り、俺以外の人間からも、魔導士からも見えなくする。イリイの側に居れば安心だから、ここに居て。俺はもう少し情報を集めて来る。」


そう言って、ありったけ買って来た食料をテーブルの上に置き、不安そうなマリアンヌに、少し迷った後、ピンク色の石の付いた指輪を渡した。


「何か困った事があったら、この石に向かって、俺を念じるんだ。」


アレックスが紺碧の石の付いた指輪をはめると、マリアンヌは、アレックス…と呟きながら、指輪を見つめた。

すると、マリアンヌの指輪の石が光ると同時に、アレックスの指輪の石も光った。


「だから分かる。この石が光ったら、直ぐに戻って来るから。」


安心させるように笑いかけたアレックスを、尚も不安そうに見つめる。


「私のせいで大変な事になっているのではありませんか。」


「依頼を調べるのはいつもの事だ。ボルケーノ王が、貴女を本当に元気にしてくれるのか、少々引っかかる所があってね。」


「気をつけて…下さいね…?」


「ああ。」



アレックスは、イリイの様子を見て、少し話してからラグナに乗って、ボルケーノに向かった。

手綱を握る左手の薬指には、さっきの指輪が光っている。

この指輪は、竜国から出る時に、アンソニーが作ってくれたものだった。


「大切な女性が出来たならお使いなさい。その女性が、あなたに相応しい女性なら、この指輪はお互いに機能します。相手があなたを思えば、あなたの指輪が光り、あなたが相手を思えば、相手の指輪が光ります。左手の薬指は、心の臓と繋がっていますから、必ず左手の薬指にするようにして下さい。そして、お互いに光ったら、それは、あなたの妻となるべき人なのです。」


アンソニーはそう言っていた。

今まで、この指輪を渡そうと思う女性には会わずに来た。

でも、マリアンヌには、渡したくなった。

不安そうだったからだけでは無い。

そしてアレックスの指輪が光った時、本当はとても嬉しかった。

その反面、だからなんだと諦めてもいた。

マリアンヌを好きになったとしても、アンソニーが言う、運命の女性だったとしても、自分には幸せにしてやる事は出来ない。

城はおろか、屋敷さえ持たない賞金稼ぎ。

結局の所、兄を利用し、また利用されのどっちつかずの無責任な生き方しか出来ていない。


ー指輪は今便利に使うだけだ…。それに、マリアンヌの方の指輪が光るかどうか分からないじゃないか…。


自分にそう言い聞かせ、ボルケーノ王国の麒麟国との国境にある町に入った。

入った途端、空気が重く淀んでいるのを感じた。

以前来た時には無かった、その嫌な感じは、この間の生ける屍の森と似ている。

地中から生きているモノでは無いモノの気配がし、民の顔は皆暗く、時折、妙な異臭がした。

ここに居てはいけないと、直感的に思ったが、情報を集める為にも、彦三郎を捜すにも、この国には入らなければならない。


顔見知りの賞金稼ぎの仕事を取り次いでいる古書店に入ると、主が見る影もなくやつれた顔で出てきた。


「おや、大剣の旦那…。仕事なら山程ありますよ…。妙な仕事ばかりですがね…。」


「化け物退治か。」


「そんな所です。人間より化け物の方が多いんじゃねえかな。王様は出て来て下さらねえし、俺も体調が悪くてね。ここも畳んで麒麟国に移ろうかと思ってんですよ。」


「そうした方がいいかもな…。ここにいるだけで、障りになりそうだ…。2、3聞きたい事があるんだが、いいか。」


「なんでしょう。」


「彦三郎という麒麟人が来なかったか。」


「いやあ、来てねえと思うな。どんな人?」


「髷という、髪を頭の上の方で1つに結い、着物を着て、剣では無く、刀という物を2本差している。」


「ああ、見てねえ。取り敢えず、ここには来てねえな。」


「そうか。有難う。じゃあ、ここでボルケーノ王に石を持つ者を連れて行った人間は?戻って来たか?」


「それは分かんねえな。報告に来るような律儀な奴じゃなかったから。でも、上手く行ってりゃ、もう10日以上前に仕事は終わってるはずだから、稼いだ金で、酒場で飲んでるんじゃねえかな。バーニーって、顔にでっかい傷がある、30センチくれえのナイフ使いと、ブレッドって、小せえ弓使いの男だ。凸凹コンビでいっつもつるんでるから、居りゃあすぐ分かると思うよ。」


「有難う。行ってみる。」


アレックスは、小銭を主に渡し、店を出ると、酒場という酒場に入っては、休み無く、バーニーとブレッドを探した。


2人がボルケーノ王の所に行ったのと、彦三郎が行った時期が重なっている可能性は高い。もしかしたら、2人が彦三郎の行方を知っているかもしれないからだ。


あそこで見た、ここで見たという証言を頼りに、漸く場末の酒場に行き着くと、バーニーらしき顔に傷がある大男と、目つきの鋭い小男が、各々の武器である、刃渡30センチほどの皮の鞘に収められたナイフと弓を、傍らに置いて飲んでいるのを見つけた。


「バーニーとブレッドか。」


「ー誰だ、あんた。」


2人は武器を手に取り、警戒した目でアレックスを見た。


「同業者だ。」


アレックスはトレードマークの大剣を上着から覗かせるようにして見せた。


「ーああ…。大剣使いの騎士様か。こんな色男だったとわねえ。」


バーニーが少しホッとした様子で言うと、ブレッドがアレックスの為に席を詰めてくれた。


アレックスはブレッドの隣に座ると、葡萄酒を奢ってやりながら、2人に言った。


「タダでとは言わない。情報をくれ。」


「なんの情報だい。」


ブレッドは何も喋らず、口を開くのはバーニーだけだ。


「ボルケーノ王に心の臓に石を持つ人間を連れて行ってやったろう?その時に、麒麟人を見なかったか?侍なんだ。」


「ああ。居たな。俺たちの後に石を持つ奴を連れてきて、俺たちは、連れてった奴引き渡して帰ろうとしたんだが、その侍は、石を取り出したら、麒麟国に連れて帰ってやるから、終わるまで待ってるって言ってたな。」


「それで?」


「知らねえ。俺たち帰って来ちまったもん。」


確かに、そこまで面倒見のいい賞金稼ぎは、アレックスと彦三郎くらいのものだろう。

彦三郎が益々心配になりながら、石を持つ者達の名前と特徴を聞き、城に向かった。









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