竜国と獅子国の思惑
その頃、噂のボンクラ王カールは、まさしく血相を変えて、マリアンヌ王妃を探し回り、大鷹で、ユニコーン国という、小さな農業国の方向へ飛び去ったと聞くと、軍勢を率い、ユニコーン国に向けて出立しようとしていた。
ユニコーン国は、アレックス達の居る麒麟国の隣の隣の国であり、方角もほぼ逆で、もうここで既にアレックスに一泡吹かせられている。
「殿下、獅子国の軍勢でございます。」
側近が告げた方向を見ると、獅子国王リチャード自ら軍勢を率いて、城に向かって来ていた。
「義父上…。」
「マリーが連れ去られたと聞いたぞ!」
かなりの剣幕で怒っている。
この段階でこの事実を知っているのだから、獅子国からマリーと共に入って来た兵士の誰かが報告をしているのだろう。
カールが同じ寝室で寝ていて、気付かなかった事も知っているのかもしれない。
「申し訳ありません…。」
「昨夜に限って別室で休んでいたのか。マリーが厭う程、毎夜マリーの寝室で休んでいると聞いているが。」
「い、いえ…。」
「一緒に休んでいて、賊の侵入に気付かなんだか!」
「すみません…。」
「なんたる暗愚。もう貴様などに用は無い。マリーは我々で探す。」
「いいえ!それは私が!」
「ではこの国は何とする!」
「そ、それはあの…。」
「代わりに国を治めてやっても良いぞ…。まあ、マリーを目前でやすやすと攫われたこの失態、タダで済むと思って貰っても困るがな。マリーは、そなたが是非にと。必ず幸せにすると言うから嫁がせたのだからな…。」
やはり獅子王は知っていて、愛娘の安否を気遣ってもあるだろうが、この機にペガサス国乗っ取るつもりで来た様だ。
マリアンヌは探しに行きたいが、留守にしたら、このままリチャードがペガサス国の王になってしまうのは、自明の理だ。
元国王の父は、元々獅子国に受け渡してしまった方が面倒が無いと言っていた。
父に任せても同じ事だった。
しかし、カールにもプライドがあった。
マリアンヌのお陰で、漸く政というものも分かって来た。
自分の力で、自分の政をやってみたいという欲も出て来た所だった。
答えあぐねていると、リチャードに家臣が告げた。
「ペガサス山岳付近に、竜国の軍勢。およそ4000。」
「ーやけに早いな。話をつけに行こうか。さっきの話は竜国との話の後だ。考えておけ、カール。」
「はい…。」
竜国の軍勢と向かい合うと、お互いに兵達に手を出すなと合図を送り、馬で歩み寄った。
「我が国の斥候がマリアンヌ王妃の誘拐を知らせて参りましてね。この機に乗じて一気にペガサスを乗っ取られるお積りかと思い、ペガサスを助けに参りました。」
ペガサスは大国に挟まれた立地条件故に、両国と友好関係を結んでいる。
「ほう。竜国の斥候と申すは、他国の情報を流すだけなのかな。」
「ーと、仰いますと?」
「マリーを連れ去った賊は大鷹に乗っていたと聞いておる。大鷹は竜国が産地ではないかね。」
「これは異な事を。マリアンヌ王妃を竜国が攫ったと仰せか。最近は繁殖繁殖で、どこでも手に入りますよ。」
「あの速さで飛べるのは、純潔に他ならんと思うがね。」
「解せませんね。我々がマリアンヌ王妃を攫って何になるというのです。欲しいものは正々堂々と奪い取る。これが竜国です。誘拐などと、そんな卑怯な真似はしない。」
じっとりと腹を探る様にアデル王を見つめるリチャードに、更に言った。
「そこまで仰るのなら、我が国からも捜索隊を出させて頂く。」
「そしてここは休戦と願いたいが。子を思う親の気持ち、ご理解頂けぬかな?」
やはり、リチャード王の方が一枚上手な様だ。
しかし、混乱に乗じてペガサスを一気に攻めるアデルの計画は頓挫したが、リチャードの方も、休戦を申し入れた以上、あからさまな侵略行為はできない。
引き分けという事で納得し、兵を引かせながら、アデルは側近に指示を出した。
「アレックスを探せ。こうなったら、マリアンヌ王妃を獅子王に渡して、代わりにペガサスを寄越せというしかない。アレックスが関わっている事が獅子王の耳に入らぬ内にな。」