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  作者: 白城縁
7/8

親友(とも)

最終話 親友(とも)


 辺りももうすっかりと暗くなり、月明かりの自然の光と、街灯の人口の灯りという相反するもので僕は照らされていた。


「はぁ はぁ はぁ……」


 遊園地を出てからほぼノンストップで走り続けていた僕にはとうに限界が来ているはずだった。ただ、二人を助けたいその一心で僕は歩みを止めることはなかった。


「ようやく、見えた」


遠目ではあるがようやく呼び出された体育館が見えてきた。近づくにつれ胸の痛みは増して行き更には意識まで朦朧としてきた。待ってるのに……栞に背中を押してもらったのに、もうダメだ……僕はゆっくりと胸を抑えながらその場に倒れ込んだ。倒れた僕を待っているのは、冷たくて硬いコンクリートの道のはずなのに、何故か温かくて柔らかい感触に包まれた。


 ――あぁ、もう感覚までおかしくなってんのか――


――もしかして、死ぬのかな?今はまだ死にたくないのに――


――もう、いいか、僕頑張ったよね――


「おーい、何時まで奈穂おねーさんの膝の上で寝てるんだよ。流石の私もちょっと恥ずかしいぞ」


 急に耳元からここにいるはずのない奈穂の声が聞こえてきた。


「な、ほ?」


 僕は、意識がまだ朦朧といていて奈穂に聞き取れるか不安だったが無意識に口にしていた。


「そーだって言ってんじゃん?もう、立てるよねっていうか立って。うん、マジで」


 この状況には合わない明るく少しふざけた口調で言ったあと、奈穂は僕を支えながら立たせてくれた。


「ごめん、ありがとう。でも、どーしてこんなところにいるの?結構遅い時間なのに」


 だいぶ調子を取り戻した僕は、さっきよりもスムーズに疑問を口にしていた。


「それは、ですねー。実はしおりんに頼まれたんすよー」


 僕の疑問に奈穂はさっきよりもふざけた口調で答えてきた。こんな状況でもいつもの奈穂であることに、落ち着きを取り戻すことができた。


「そっか、ごめん。色々話したいことあるけど今は僕達の親友(とも)を助けに行かないと。もちろん二人共ね」


 僕の親友(とも)という言葉と『二人共』という言葉が嬉しかったのか、奈穂は今まで見たことがないくらいの清々しい笑みを浮かべていた。


 今更ながら『仲間』がどれだけ大切なものなのかを嫌というほど身をもって分からされた気がする。


「さぁ、一緒に行こう?僕達の親友(とも)を助ける為に」


 僕はゆっくりと奈穂に向かい手を差し伸べた。奈穂は僕の想いに答えるように手を掴んでくれた。この友情(きずな)を二度と失わないように強く強く握り締め、二人の親友(とも)が待つ場所へ走り出した。


❚❚❚❚❚❚❚❚❚❚


「美南っ!!」


 僕はドアを開けると同時に美南の名を叫んだ。


「ようやく、お出ましか、翔、奈穂」


 僕が叫んだのと同時くらいにステージの影から暁彦が姿を現した。少し駆け足でステージの方へ近づくと手足が縛られ、口にガムテープを貼られ横たわっている美南の姿が目に入った。


「美南!!」


 僕はもう一度美南の名を叫び駆け寄ろうとした瞬間、暁彦の声が聞こえた。


「止まれ!!それ以上近づくとどうなるか知らないぞ」


 暁彦のその声に僕達は足を止めないわけにはいかなくなった。美南を助ける為には、暁彦と話を付けるしかないと思い。奈穂は質問を投げかけた。


「美南は無事なんでしょうね?無事じゃなかったら例えあんたでも許さないよ」


 普段は見ることのできない奈穂の真剣な眼差しと口調。その様子を見てからか、暁彦は素直に答えを返してくれた。


「美南には薬で眠ってもらっているだけだ。仮にも『トモダチ』だからな」


少し馬鹿にしたような口調で『トモダチ』の部分を強調して僕たちに向かって言ってきた。


「少しでも『トモダチ』だと思っているならなんでこんなことをするんだ?」


 僕は素直に思ったことを口にしていた。友達だと思っているなら争う必要なんてないはずなのに……


「さっきも言っただろう。これは復讐。栞が味わった苦しみをお前にも味あわせてやるんだ」


 ――そっか……そうだったんだ――


「俺は栞が好きだった。お前に近づいたのも栞と仲良くするためだった。でも、次第に気持ちは変わっていった。栞が幸せになれればそれでいいって。お前のことを好きだと知った俺は相談役を買って出たんだ。バカだよなぁ、好きな子の恋愛相談を受けるなんてさ。ある日を境にお前は学校に来なくなった。転校だって。栞に聞いても何も答えてくれない。俺じゃあいつを支えられないのにお前はいない。正直言って悔しかったよ。いなくなった奴に負けるなんて。栞を裏切ったお前を許せなかった」


 ――裏切られたって思ってたのは僕だけじゃないんだ――


「暁彦、言い訳にしか聞こえないと思うけど、話を聞いてくれ。あの日、栞が僕と一緒にいるのが罰ゲームの一つだったことを聞いてしまったんだ。無愛想で、いつも一人でいた僕はイジメの格好の的だったのだろう。そんな僕と一緒にいたいなんて誰も思わないだろう?この話を聞いて僕は、何も信じられなくなった、誰も信じられなくなった。その話を聞いて直ぐ僕は学校を飛び出して無我夢中で走った。そして住宅街の交差点に入ったとき事故を起こしたんだ。その後遺症で『記憶』を失った。『人を信じてはいけない』その思いだけを強く残して」


 この話を二人にするのは初めてだったので二人共驚いた顔をしている。


「そんな事を言っても栞を傷つけたことには変わりがないだろ?どれだけあいつが苦しんだのかわかるか?」


 話を聞いてなお暁彦は僕に言葉をぶつけてくる。そのことからどれだけ栞の事を大切にしてるか痛いほど伝わってきた。


「栞はなぁ……」


 暁彦が言い終わる前に体育館のドアが開く音が辺りに広がった。そこにいたのは栞だった。


「もう、大丈夫だから……貴方まで苦しまなくていいから」


 暁彦の心を解放するには十分すぎる人からの十分すぎる言葉だった。言葉が言い終わるのと同時に暁彦は泣き崩れた。


「俺はいつの間にか、栞の為ではなく自分の為に復讐しようとしていた。裏切っていたのは俺の方だったのかも知れない。ごめん、翔、奈穂、そして、栞」


 途切れ途切れになりながらも暁彦は僕達に謝罪の言葉を述べた。


 僕は暁彦からの謝罪の言葉を聞いてようやく解決したんだと認識した。その安堵感からか、疲労感からか僕はその場に倒れ込んだ。


「翔!?」 「天野君!?」 「翔くん!?」


三方向から聞こえてくる僕の名を呼ぶ声。その声を聞きながら僕はゆっくりと微睡みの中に身を委ねた。


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