日常の崩壊
第二話 日常の崩壊
美南に告白して振られてから数日が経った、美南に言われたあの言葉が忘れられず、あの日からずっとモヤモヤしながら過ごしてきた。
「最近元気ないな、どうした?」
そんな事を考えていると隣から井上の声が聞こえてきた。あの日以来、井上と話をしづらく今の今まで少しだけ避けていた。井上や奈穂も僕の異常には気づいていた為か深くは聞いてこなかった。そんな優しさが僕には嬉しかった。
「うん、ちょっとね」
僕の生返事に井上はムッとした顔になり少し強めの口調で僕に言った。
「こっちは心配してんだから、何時までもそんな状態でいないでくれよ。もう一週間も俺たち遊んでないんだぜ?」
ただ、遊びたいだけなのか、本当に心配してるのか、そんなことも分からないくらい僕は精神的に参っていた。あの日に全て吹っ切れたと思っていたのに、いざ、井上や美南と話そうとすると前のように話すことが出来なくなっていた。僕自分に嫌気がさして休み時間も放課後もずっとイヤホンを耳に当てながら一人で過ごしていた。
「わかってるよ、だけど……」
僕のいつもとは違う空気に井上も嫌気がさしたのか「今日は絶対遊びに行くからな」と僕を指差しながら僕に言い放った。その目と行動に僕は潮時かなと思い半ば諦め半分に分かったよ、と返事をした。
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僕に気持ちとは裏腹にこの日も、あっという間に放課後になった。朝に言われた井上の言葉を守りたかったが、僕はまだ悩んでいた。このまま帰ってしまおうか、散々逃げてきたのにまだ僕は逃げようとしている。僕は僕自身が嫌いになりそうだった。帰ろうと足を教室の外へ伸ばそうとした瞬間、井上の声が聞こえた。
「また、逃げるのかよ……ただ振られたくらいで」
まるで井上は全てを知っているかのような口調で捲し上げてきた。
タダフラレタクライデ、僕はその言葉に今までに感じたことがないくらいの憤りを感じた。
「ふざけるなぁぁぁ!! どんだけ僕が美南ことを考えてたかわかっているのかぁぁぁ!!」
僕は今にも井上に殴りかかりそうな勢いで井上目掛けて突っ込んでいった。そんな僕に対し井上は、まるで子供をあしらうかのように突き飛ばし返した。
「俺にそんなこと言ってもしょうがないだろ、振られたのはお前の責任だ。たとえあいつが別のやつのこと好きだって言うなら潔く諦めろよ。ウジウジ悩みやがって、あいつ俺に相談してきたんだぜ? あの日から翔くんの様子がおかしいって私のせいかもって」
井上は早口で捲し上げた。僕は、そんな井上の言葉に正論だという事を頭でわかっていても心の中では認めることができなかった。僕はその言葉や行動に耐え切れず、井上が傷つくだろう思いながらも口から出る暴言を止めることができなかった。
「お前とはもう話さないし遊ばない。白河とも清水ともあいつらが何か言ってきたらさようならとでも言っといてくれ……僕にはそう簡単に割り切れなかったよ」
僕は話が終わったというように踵を返して、夕暮れに染まった教室から出て行った。歩いている途中で井上の声が聞こえてきたがその声から逃げるかのようにポケットに入っていた音楽プレイヤーを取り出し現実から逃げた――
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井上とのひと悶着があってから数日が経ったある日。僕は一人、近くの公園に来ていた。辺りは西日が眩しく目を開けてるのも大変なくらいだ。美南と一緒に来たところだ。僕は何も考えずに近くにあったブランコに腰をかけた。ここ最近は毎日のように通いつめていた。
「今日も終わりか……」
誰に言うわけではなく、強いていうなら自分が認識をするためか、呟いた。
「今日も終わりですか……」
僕が呟いたのとほぼ同時に横から声が聞こえてきた。横を見るとまだ幼さを残した顔の少女が隣のブランコに座っていた。
いつの間に隣にいたんだろう?人が近くにくれば人に敏感な僕が気付かないとは思えないんだけどな……そんなことを考えながら少女の方に視線を移した。
「君は?」
僕はパーソナルスペースが人よりも広いと思っていたのに、近くにいても何の不快感も無かった彼女に興味を抱き、まるで友達との会話のように彼女に話しかけていた。
いきなり僕に話し掛けられたのに驚いたのか困惑した表情をしている。
「すみません……少し気になったので、迷惑でしたよね」
知らない人に急に話し掛けられたら誰でも困惑するよなと思い、無意識の内に謝っていた。
「いえ、問題ないです、私も悪かったので」
彼女の容姿とは似つかないようなしっかりとした口調と言葉遣いに少し違和感を感じた。
「何処かであった事ありましたっけ?」
パーソナルスペースにすんなりと不快感もなく入ってきた事、そして言葉遣いの違和感、その二つからもしかしたら僕の知ってる人ではないかと結論を出した。
「翔くん、もしかして記憶が戻ったの?」
彼女は驚きながらもさっきとは打って変わって、容姿に相応な幼さを残した口調と言葉遣いになっていた。その言葉に脳を刺激されたのか、急に頭に割れるような痛みが襲ってきた。僕は立っているのも辛くなり、頭を押さえながら近くにあったポールに体重を掛けた。
「どうして僕の名前を……知っ」
僕は痛みのあまり最後まで言葉を紡ぐ事が出来なかった。だんだんと意識も無くなってきて遂には立っていることも困難になった。近くから少女の僕の名前のを呼ぶ声が聞こえる中、僕はゆっくりと闇に身を委ねた。