第五章
翌朝、窓から見た景色は蝋燭のそれで綺麗に彩られてはいなかった。大地を照り輝かせる太陽の所為ではない。丘の上には最早黒いモノが乗っているだけだったのである。意外にも、大木は燃えなかったらしい。小屋は誰にも気づかれないまま、一晩のうちに静かに燃え尽きてしまったようである。ここで漸く私は悪いことをしたんだと云う当たり前の罪悪感を自覚した。
取り分け彼らに怨みがあった訳ではない。彼等を焼き殺したかったのでもない。だからこそ、だからこそ彼等が白昼根城にしている小屋を狙ったのだ。深夜なら彼等はいまい。そのため、建物は全焼であったが付近に住宅もないので死傷者は零であった。「ついカッとなってやった」「むしゃくしゃしてやった」という訳でもない。私は至極落ち着いていたし、そうかといって“火遊びがしたくて”やった訳でもない。
結局の所、蝋燭に囚われていたのだと思う。
蝋燭を無意識に愛し、いくつもの蝋燭に囲まれた生活をしていた。
それを使って罪を犯すことは、その呪縛から逃れたかったのかもしれない。
しかしそれも叶わなかった。寧ろ綺麗だとさえ見えてしまっていた。新たな魅力を感じていたのだろうか。そんな自分に少しゾッとする。
こんなことをして何になったのだろう。私は放火犯になってしまった。
自首…?逃亡…?それともこのまま連続して…?兎に角、褒められる類のことではないし、どれも違うような気がした。
私はこれからどうするべきなのだろうか。