第二章
私は蝋燭に魅せられていた。最近は様々な色と形の蝋燭が売られているらしい。しかし専ら私が好んでいたのは、真っ白い、所謂“普通の”蝋燭である。五年前、私の部屋に専用に設置した棚には、月に数百本ずつ蝋燭が増えていった。今年の三月のアタマの時点でその数は二万本を越えていたと思う。
確かに、蝋燭は火を点す。しかしそれ自体が発火し、火を点している訳ではない。蝋燭の芯になっている撚糸が徐々に燃えているだけである。恐らく。
通常放火と言えばマッチやライターで燃料に着火させるものであろう。蝋燭で着火など想像するのも難しいのではないだろうか。明らかに効率が悪いだろう。
私が蝋燭を道具に使ったのは、単純な動機からである。自分の点けた火が建物に燃え移る瞬間は見たくなかったのである。見れば確実に後悔する。罪悪感も膨れ上がるであろう。そう云った点で蝋燭は時間的なズレを持たせてくれた。
燃え上がる炎を見ることに抵抗はないが、それに因って引き起こされる人々の苦しみは見たくなかったのである。狡いものだ。
何処かで聞いた話だが、放火と云う犯罪には女性が多いらしい。心理的な理由なのか、それとも身体的な理由なのかは解らないが…。
どちらにせよ、彼等の根城は今や廃墟と化してしまったのである。
誰でもない、私の所為で。