#02.或いは、過去
俺が振り返ると同時にドアが開き、見慣れた顔が小さく覗きこむ。
「あ…珍しく今日は早いんだね」
あぁ、と俺が言う。まだ寝ぼけているような声に、その顔は微笑した。
「今日ね、お父さん仕事だから、コウジの面倒見とけって言われたの」
…言っとくけど、コイツは俺の妹だ。
…名前?そんなんどうだっていいだろ。とにかく、面倒見られるのはコイツだ。俺は兄、コイツは妹。上と下だ。
ちなみに俺の名前は浩治。たまに名前書く時、浩浩って書いてしまう場合がある。ややこしいよ、全く。
「…で、その面倒見役が用事でも?」
「ううん、ただ、何してるかなーって…」
妹は下を向き、小さく呟いた。
実はこの妹、兄である俺に気があるらしい。冗談じゃないよ、俺はコイツのハッキリとしない性格はあまり好きじゃない。弱いというか…
「あ…でも何で今日は早かったの?」
俺が知る訳がない。最初から起きようとも思ってなかったんだし。
「んや…なんでだろうね…」
ううん、と俺が背伸びをしながら答えると、妹は、何やら気に食わなさそうな顔をした。
「彼女とデート…とか?」
彼女。俺には全く縁のない言葉だ。その理由は妹にある…詳しく言わなくてもいいだろ?
「ねーよ」
「そ。わかった」
安堵の息を漏らす妹。
飾り気のない、肩下まで伸びた黒い髪。母親似の綺麗な二重。そのパーツが組まれた小顔には、親父の面影はなかった。どこを取っても母親似。
「…?」
何か臭いがしたのか、妹はあたりを見回し始めた。クンクン、というような仕草だ。
「あぁーっ!!」
驚いた。長年の付き合いだが、これ程までに急なものは初めてだ。暗闇からクラッカーを鳴らされたような気分。
「どうした?」
俺の質問に答えることなく、妹は部屋を飛び出していった。
「火、点けっ放しだったぁぁっ!!!!」
「兄?」
妹が顔を覗きこんできた。
ハッとなり、俺は辺りを見る。よく掃除されたフローリングの部屋に、ガラス製のテーブル。このテーブルはもう古いが、奇跡的にヒビは一つも入っていない。昔から見慣れてきたテーブルだ。
その上には、よく磨かれた純白の皿。綺麗好きなのは妹で、そこも母親似だった。
いい匂いを放つ物が一つ。
「さっきから変だよ…?兄…」
心配そうな表情。
俺が黙ったまま居ると、頬を突っ突いてくる。
「早く食べないと、冷えちゃうよ」
うん。と呟くと、皿の上にある目玉焼きに箸を。
妹は小さく首を傾げると、キッチンへ戻った。湯気のたつ目玉焼きから目を離し、妹を見る。
鼻歌を口ずさみながら、沸いたお湯をカップに注ぐ姿。俺の視線に気付いたのか、一旦手を止め、こっちを向く。
「もうすぐで火事になってたかも。ありがとね、兄」
今日、キッチン燃えてたんだよな。本当なら。
朝食を済ませた後、暇になった俺は、再び部屋に戻った。勿論、自分の食器は自分で洗ったさ。
「間違いない…5日前だ」
5日後…つまり13日。その日までを、俺は確かに経過させている。経過させたし、その中に居た。
今日、妹がうっかり小火起こしてしまうことも分かっていた。これをどう説明しようか?
デジャヴってやつか?
或いは、予知?
違うな。
『巻き戻った』んだ。
はい、一人でテンション上がっちゃってます(笑 読んでくれてる人居るのかなぁ… 一話一話が短い;