#01.変わらない流れ
わずかに開いたカーテンから差し込む光。どこか柔らかく、いつまでも見ていたくなるようなもの。その光は、都合よく俺の顔を覆っている。
朝だ。
うーん、と小さく唸ると、右手をベッドの下へ伸ばし、何かの手触りを感じる。
まだ鳴っていない目覚まし時計。デジタル表示で、6:32を表している。いや、5:32…?
デジタルの短所はこれだ。電池が無くなってくれば、すっかり力が無くなって時間をハッキリと教えてくれない。
5か6か。
ダイスの目は6と出た。6マス先にあるイベントマス。
『一回休み』
やがて俺は、今日が日曜日、即ち休日の午前6:32であることに気付いた。
正確にはコレ、4分遅れてるんだけどさ。
機械ってそんなモンだろう?もう何年もこの時計を睨み続けてきた。
8年…いや、9年?
ダイスの目は8と出た。俺の短所はこれだ、すぐに何でも忘れちまう。まだ17歳の学生だってのに、ボケてきたかな?
俺は欠伸をしながら目を擦り、上体を起こしてやった。
「あぁ…眠い…」
休日に限って早く目が覚めるのは皆そうだろ?
欠伸混じりの俺の声は、授業中に聞こえてくるヒソヒソとした声のようだった。 あいつら、周りに聞こえてないとでも思ってんのか?逆に聞こえてしまう上に、聞きたくなるんだよ。その上、大抵が他人の悪口だ。聞いてるとイライラする。
『さ』行が特に聞こえる、嫌な具合に。
それから一言も口にせず、ベッドから降りた。
黄緑色のカーペットは硬く、踏み慣れた環境。
そのままゆっくりと窓際へ向かう。差し込む光に照らされた宙を舞う塵は、窓の外へ出たそうにウズウズしてる様子だった。半開きのカーテンを開け、そのまま窓を開ける。1m幅の小さめの窓。マメに掃除してたから、汚れは目立たない。その代わりに、左下。縁の方からヒビが入ってて、かなり目立ってる。
カーテン、窓を開けて朝の日差しを浴びる。
誰しも一度は憧れた朝の迎え方だろうな。俺の部屋からだと毎朝味わえるぜ。羨ましいか?
外から入り込む風を浴びながら、前寄りになってる体を支えている両腕を見る。日差しのせいで金色に輝いて見えた。まるで金箔ベタ張り。
小さく息をついた後、部屋に飛び込んだノックに気付く。
俺が振り返ると同時にドアが開き、見慣れた顔が小さく覗きこむ。
「あ…珍しく今日は早いんだね」
あぁ、と俺が言う。
おかしいな、この流れは…
「今日ね、お父さん仕事だから、コウジの面倒見とけって言われたの」
…言っとくけど、コイツは俺の妹だ。
…名前?そんなんどうだっていいだろ。とにかく、面倒見られるのはコイツだ。俺は兄、コイツは妹。上と下だ。
ちなみに俺の名前は浩治。たまに名前書く時、浩浩って書いてしまう場合がある。ややこしいよ、全く。
「…で、その面倒見役が用事でも?」
「ううん、ただ、何してるかなーって…」
妹は下を向き、小さめの声でそう言った。
やっぱりこの流れは。
「なぁ」
唐突に口を開いた俺に、少しビクっとした感じで、妹は顔をあげた。
「なに?」
「お湯、沸騰してるんじゃないか?」
キョトンとした表情だったが、急にハッとなり、ドアを閉じ駆けてゆく。
沸騰。
しばらくすると妹が戻ってきた。
「すごいね、兄。なんで沸騰してるって分かったの?」
…やはり。
腕を組み、横を向く。
「今日何日?」
妹の問い掛けに答えず、質問を質問で返し、カレンダーを睨みつける俺。
「8日。5月のね」
…このカレンダーを見るのは、毎日。毎朝。毎晩。日課だ。
その日の日付だって覚えてる。カレンダーが好きって訳じゃないけどな。
で、俺の記憶が正しければ。最後に日付を確認したのは。
5月13日。
そう。
5日後だ。13日に何があったかさえも覚えて……
日付を確認して、学校に行って。13日の金曜日ってことで盛り上がって。学校帰りに寄り道して。
ねぇ、どうかしたの?
それから…
ねぇってば、兄。
それから…
おーい?
「ん…何?」
人が考え事してる時に話かけるなよ…
「さっきから何か悩んでるみたいだよ?なにかあった?」
俺はなるべく気にさせないような口調で言った。
「あぁ、別に何もないよ。それより、腹減ったな」
2話目になりますね。 なんか文章が自分の性格丸出しなんですが…(笑 完結できるまで、仲良く(?)してもらえると幸いです.