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「来年は」

作者: ミオ
掲載日:2026/07/21

夏になると、毎年決まって友人家族とキャンプに行った。


子どもたちのために食べ物を用意する私。

友人夫婦と、くだらない話をしながら、夜中まで楽しんだ。


「また来年ね。」


誰かがそう言うと、みんな笑って頷いた。


それが、ずっと続くものだと思っていた。


お正月もそうだった。


大晦日と元日は、お互いの実家へ挨拶に行く。


夫の実家では、義母が作った料理を食べ、子どもたちがお年玉をもらう。

私の実家では、父がいつものように「今年もよろしく」と言い、夫が少し照れながら頭を下げる。


毎年、除夜の鐘を聞きながら列に並び、家族みんなで初詣に行った。


寒いね、と言いながら歩いて、

眠そうな子どもを夫が抱き上げて、

帰りに温かいものを買って食べる。


そして、家族で福袋を買いに行く。


毎年、同じことをしていた。


同じ場所。

同じ季節。

同じ顔ぶれ。


それが、私にとっての「家族行事」だった。


だから、離婚が決まったときも、最初はそれほど実感がなかった。


離婚届に判を押して、

荷物をまとめて、

旧姓に戻って。


そういう手続きが終われば、あとは時間が過ぎていくだけだと思っていた。


でも、夏になって気づいた。


今年は、キャンプに行かない。


友人から届いたメッセージには、


『今年もいつもの場所だよ。元気?』


と書かれていた。


その一文を見て、スマホを伏せた。


「今年も」


その言葉が、胸に刺さった。


去年までは、私もそこにいた。


夫もいた。

子どもたちもいた。


けれど、今年は、私だけがいない。


いや。


私だけではない。


私の家族が、もう存在しないのだ。


年末になった。


以前なら、年末年始の予定を家族のグループLINEで相談していた。


何日にどちらの実家へ行くか。

初詣はどこへ行くか。

福袋は何を買うか。


そんな話をしていた。


今年、そのグループLINEは消えた。


大晦日。


私は一人で自分の実家へ行った。


母は何も聞かなかった。


「お父さん、待ってるよ」


そう言って、いつもと同じように笑った。


私は違った。


夫がいない。


子どもたちもいない。


誰かのために料理を取り分けることも、夫の実家へ向かう時間を気にすることもない。


夜中になっても、初詣に行く予定はなかった。


布団に入ったまま、窓の外を見た。


去年の今頃は、家族で歩いていた。


夫が少し前を歩き、子どもたちがその後ろを走り、私は「走らないの」と言いながら追いかけていた。


あの光景は、もう二度と戻ってこない。


翌朝、駅前のお店では、福袋を買う人たちが並んでいた。


私はその列を、ひとりで通り過ぎた。


欲しいものがないわけではなかった。


ただ、福袋を買う理由がなかった。


以前は、家族で買い物をして、

「これ、誰の?」

「それ、私の!」

と笑いながら袋を開けた。


あの時間が楽しかったのだ。


福袋そのものではなかった。


花火そのものでもなかった。


初詣も、

お互いの実家への挨拶も、

毎年の小さな行事も。


全部、家族でやっていた。


離婚して、夫を失った。


そう思っていた。


けれどそれだけじゃなかった。


私は、毎年少しずつ積み重ねてきた未来も失った。


「来年も、また一緒に」


そう言える相手がいなくなった。


そして、ある日ふと思った。


離婚とは、

一枚の紙に名前を書くことではない。


来年の予定から、

その人が消えていくことだと。


来年のキャンプ。


来年のお正月。


来年の初詣。


来年の福袋。


当たり前に続くと思っていた「来年」が、

もう、あの人とは来ない。


私は窓の外を見ながら、ひとりで呟いた。


「……来年は、どうしようかな」


答えてくれる人はいなかった。

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