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【Cruel】クロスロード

2025年3月14日・雨宮りく誕生日に書いたスピンオフ短編です。

まだデビューしたばかりのCruelメンバーとの、ぎこちない交流に戸惑うりく。

 深くかぶったキャップのロングブリムに、ぱらぱらと何かが当たった。視線を上げると、弱い陽射しがあるのに細かな雪が降っている。真っ白でさらさらした清潔な雪。立ち止まって手のひらを上に向け、りくはそこに小さな粒を受けてみた。冷たい肌に落ちた雪はすぐに解けてしまうことなく、りくの手の感触を楽しむように転がっていった。


 明治通りを青山方面に入った小路には、こじんまりしたショップが並んでいる。りくの目当ては広いテラス席を持つカフェの隣、黒く縁取られた扉のアクセサリーショップだ。

 春の新作が発表された昨年末、一目で気に入ったシルバーのリングは、黒を強調した猫の目のようなデザインだった。左手の中指に着けたいと考えたが、りくの繊い指にはちょうどいいサイズがない。でもどうしても着けたかったので、思い切ってオーダーしたのだ。

 ショウウインドウには「非売品」と記されたネックレスやブレスレットが飾られ、どれも古い職人の手仕事によるものらしい。それらをしばらく眺めてから、大きなガラスの嵌まった木の扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


 右側の棚の前で接客をしていたスタッフが声を出す。りくは俯き加減のまま小さく会釈して奥へと進み、レジ前で品出し中のスタッフに控えの伝票を見せた。


「お願いします」

「お待ちしておりました。ただいまお持ちいたします」


 伝票を受け取ったスタッフは、一旦ビロードの幕の裏に入っていった。

 彼を待つ間、りくは顔を上げないように注意しながら店内の様子を控えめに見る。棚の前にいる客に、自分が雨宮りくだと気づかれたくはなかった。


「雨宮様、お待たせいたしました」


 名前を口にしないでほしいという意味で、片目をつむりながら人差し指を唇の前に立てるが、鈍いスタッフは気づいてくれない。早く受け取って外に出たいと思っていると、後ろで声がした。


「お誕生日おめでとうございます!」


 首をすくめてゆっくり振り返ると、それは棚の前にいた別の客に対しての言葉だった。俺と同じ日なんだ、となんとなく嬉しい気持ちになり、りくは唇を小さく動かして「おめでとう」と声を出さずに言った。


「着けてみますか」


 と問われ、サイズを確認するために左手の中指に嵌めてみる。


「うん、ぴったりです」


 店に入ってから初めて顔を上げて微笑んだ。スタッフは笑顔を返してくれたが、りくの顔を正面から見ても特に何の反応もしなかった。

 そうか、まだ俺の顔を知らない人だってたくさんいるんだ。そう思うと、なんだか新鮮な気持ちになって勇気づけられたような気がする。


「お箱にお入れしますか」


 と訊かれたが、そのまま中指に嵌めていくことにした。

 黒いドアを開けると、太陽はすっかりなりを潜めて、雪がさっきよりも強く降っている。白く小さな粒に視界を遮られながらどちらに行こうか迷っていると、十字路の正面から素っ頓狂な声が聴こえた。


「りっくんじゃん!」

「ほんとだ」


 鉄朗と水斗がひとつのビニール傘に入って歩いてくる。そして右からもりくを呼ぶ声があがった。


「りっくんだぁ~」

「雨宮くん? ほんとに?」


 桃丸と圭介だ。こちらのふたりはまだ傘を持っていないようで、桃丸が広げたジャケットに圭介が小動物のように収まっている。

 こんなところでメンバーに出くわすと思っていなかったりくは、気まずそうにたった今手に入れたばかりの指輪を嵌めた左手をポケットに入れた。


「わぁ、すげえ偶然! りっくん、なにやってんの?」


 鉄朗は寒そうに肩をすぼめているが、水斗の剥き出しの首筋はジャケットから綺麗に伸びている。


「いや、ちょっと買い物」


 こんなところで五人が固まっていたら目立つだろうと、りくはヒヤヒヤしながら答えるが、今度は圭介が話しかけてきた。


「雨宮くん、今日お誕生日だよね? 俺たち、プレゼント探しに来たんだけど、えっ、みなちゃんとヒビテツもなの?」


 のけ反りながら言う圭介に、鉄朗がうんうんと頷く。


「なにこれ、Cruel総出みたいなすごい偶然だね~」

「せっかくだからさ、これからりっくんのお誕生日みんなでお祝いしようよ。パーティーやろうぜ」


 鉄朗が提案するが、水斗は気が乗らない顔をしている。


「みなちゃん、なんでそんなブータレ顔してんのさ」

「いや、俺ら五人入って大丈夫な店って思いつかねえんだけど」

「そりゃそうだね~」

「でも俺たちまだ、自分で思ってるほど知名度高くないみたいだよ」


 ついさっきのことを思い出し、りくが嬉しそうに言う。そんなりくをやさしい顔で眺めた水斗は、ポン、と手を打ってみんなを車道の方にぐいぐい押しはじめた。


「みなちゃん、俺たちを殺す気ですか」

「全員で本田んち行こうぜ。鍋でもやるべ」


 圭介はグッドアイディアだと言ってとても喜んだが、当のりくは顔をしかめている。


「いや、俺は遠慮しとく。本田に迷惑じゃん。タクシーに五人乗れないし」

「二台に分かれりゃいいだろ。それとも雨宮、これから予定あんの?」


 りくの答えを聞くより早く、水斗は悠弥に電話をかけた。


「……あのさ、これからみんなで行くわ。うん、雨宮の誕生日。鍋の道具とか材料とか買ってくから。頼むな」


 いきなりそう言われた悠弥の様子を想像して、圭介も鉄朗も顔を引きつらせている。だが、桃丸だけはやさしく微笑んでいた。


「へぇ、みなちゃんとゆうくんはそういう関係なんだ。いつの間に~」


 圭介も鉄朗も驚いた顔をしているが、全員そろって誕生日を祝ってもらうくすぐったさに、りくは思わず俯いた。


「じゃあ雨宮、いいよな?」


 水斗を見上げてこくりと頷き、りくはポケットから左手を出した。自分へのプレゼントだと言って自慢げな表情のりくは、メンバーの笑顔を順番に見ようとしたが、降り続ける雪に強く吹きつける風がさぁっと音を立ててこの光景をさらうように過ぎていった。

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