武侠小説:一剣不返
その一撃は、かつて師が教えた通りの無駄のない円を描いた。
春の嵐が吹き荒れる竹林。
激しく揺れる青竹の群れの中で、二人の剣客が向かい合っている。
一人は「剣宗」と謳われた男、厳峻。
もう一人はその唯一の継承者であり、今は反逆の汚名を着せられた青年、燕青。
燕青が知った真実はあまりに重かった。
育ての親である厳峻こそが、かつて自分の一族を根絶やしにした朝廷の密使であったこと。
慈しみ育てられた日々は血塗られた罪の上で踊らされていた幻想に過ぎなかった。
「なぜ私を拾った。殺すべき敵を、なぜあなたの手で磨き上げたのだ!」
燕青の絶叫は轟く雷鳴にかき消される。
厳峻は答えず、ただ静かに剣を構えた。
その構えは燕青が幼い頃、竹光を手にがむしゃらに追いかけ続けた、あの厳しくも気高い背中そのものだった。
「語るべき言葉は、すべて剣の中に置いたはずだ。来い、燕青。お前の『義』を私に示せ」
雨が二人の視界を遮る。燕青は地を蹴った。
師から教わった最速の突き。
師が愛した剣の理。
皮肉にも、師を殺すための力はすべて、師から与えられたものだった。
落雷が空を白く染めた瞬間、二人の影が重なる。
凄まじい衝撃と共に、肉を貫く鈍い音が一度だけ響いた。
冷たい雨の中、一本の剣が深く、相手の胴を貫いた。




