第6話 怪獣の力(特訓)
人間から怪獣や獣人に変身できる特異体質になって、三日が経った。
今の僕は、これから先のことを考えながら、森の奥にある神秘的な洞窟で過ごしている。
現在、なんだかんだと双子の姉妹に衣食住の世話をしてもらっているため、不自由はない。
今日も今から朝食の時間だ。
僕はもっちりとした謎のパンと、なんの肉だかわからないハムをいただく。
「今日もエレナの作った食事は美味いなあ。材料が分からないけど」
「ふふ、レオン様、栄養も満点ですよ」
三日間を過ごすうちに、僕は二人を「エレナ」「リアナ」と敬称を略して呼ぶようになった。
これは「怪獣王に仕える者なのでそう呼んで欲しい」という二人からの要望だ。
最初は会ったばかりで親しくもない女性を呼び捨てにすることに抵抗があったが、ようやく慣れてきた。
「レオっち、私の作ったデザートはどう?」
「このヨーグルトは、リアナが作ってくれたんだね。美味しいよ」
リアナは、僕のことを「レオっち」と呼ぶようになった。
僕が二人に「僕のことも気軽に呼んでね」と言った結果、そうなった。
一方で、エレナは相変わらず「レオン様」と呼んでくる。
それぞれ呼ばれ方は違うけれど、二人の性格が出ているし、どちらも妙にしっくりきている。
それから、怪獣形態になったとき不思議に思った【念話】について、二人から説明を受けた。
念話とは、音声を発することなく会話ができる能力であり、僕が使えるわけではなく、エレナとリアナが持っている能力らしい。
この念話は、少しぐらいなら距離が離れていても使えるらしく、スマホ代わりになりそうだ。
さらに二人が使う念話は、ガラ結晶を持つ全ての怪獣と可能だという。
怪獣には種類や個体差があるものの、少なくとも人間の十歳児ほどの知能はあるとのこと。
そうであるなら、そこそこの会話や意思疎通ができるのだろう。
そうして過ごした三日間、エレナとリアナとの会話を通じて、僕は果たしたいと思う二つの課題ができた。
一つ目は、他種族の脅威から怪獣を守ること。
これは二人からの願いであり、正確には元々の怪獣王からの願いでもあるらしい。
今の世界は、魔法や科学の進歩により神聖エヴァリス王国など強力な国家が誕生し、一部の怪獣たちの生活が脅かされている。
そんな一部の怪獣たちを守って欲しいということだ。
僕にどれほどの力があるのかは分からないが、僕を助けてくれた二人の頼みだし、できる範囲で頑張ってみようと思う。
二つ目は、両親の住む村と子どもたちの集落をエルフから解放すること。
二人は怪獣王の力を、僕の判断で自由に使って良いと言ってくれた。
それならば、僕と日々を一緒に過ごした人たちだけでも、エルフを恐れず平和な生活ができるようになって欲しい。
そして、どちらの目的を達成するにしても、強国である神聖エヴァリス王国と敵対することになるだろう。
全面対決をするつもりはないけれど、相当の武力が必要だ。
僕はエレナに尋ねてみた。
「怪獣王の力があれば、エルフと勝負できるのかな?」
「今のままだと少し厳しいかもしれませんが、覚醒すれば負けることはありませんよ」
「本当! それはすごいね」
「はい。ただ――それより問題なのは、力の制御ができない今の状態では、助けるはずの人間を殺してしまいそうですけど」
「……それは確かに。気を抜いて息を吐いただけで、火球が出てしまうしね」
エレナの言う通りだ。
まずは怪獣王の力を制御できるようにならないと、僕の息一つで人間を殲滅してしまうに違いない。
そうならないためにも、ここは怪獣形態と獣人形態に慣れ、怪獣王の力を使いこなさなければならない。
僕はそう考えて、さっそくエレナとリアナのアドバイスに従い、訓練を始めた。
二人に言われるまま、黙々と訓練に取り組む。
僕は黙々と特訓をすることで、なんだか気持ちが落ち着いてきた。
黙々と特訓をすることで気持ちが落ち着くあたり、僕は王様というより、やはり社畜体質なのだろう。
数日が経ち、僕は早くも成長した。
現在、獣人形態でいることに、すっかり違和感がなくなった。
人外度は上がった気がするけれど、運動能力が高くて便利だし、獣人形態で過ごす時間も増えてきた。
獣人形態には慣れた僕ではあったが、怪獣形態については一筋縄ではいかなかった。
怪獣形態でいると、すぐに疲れてしまい、長時間の活動が難しい。
そのときの体調にもよるが、元気に動ける時間は五〜十分ほどしかない。
さすがは巨大で最強の形態だ。
それからエレナによると「怪獣王の力に慣れていけば、いずれ様々な能力が発現するはず」だという。
まだまだ先は長そうだけれど、コツコツと訓練を続けていこう。
◇◇◇
怪獣形態に慣れようと励んでいた、ある日のこと。
獣人形態の僕は、エレナと一緒に広場へ向かって歩いていた。
最初に怪獣形態へと変身したとき、地面を割って、周辺を焼け野原にしたあの広場だ。
広場に到着した僕は、さっそく怪獣形態に変身し、深呼吸をする。
「グオオァァァァッ! ゴアアアァァァッ!」
最初は息を吐くだけで火球が漏れ出たりしていたが、今では普通に呼吸ができるようになった。
当たり前のことではあるけれど、それでも確かな成長を感じる。
ちょっと疲れたので獣人形態に戻って休憩していると、リアナから念話が届いた。
『レオっち、たいへんー。森の東にある荒地で、怪獣がエルフに追いかけられてるよー。お願い、助けてあげてー』
今日のリアナは、食材の収穫を兼ねて森の見回りをしている。
その途中で発見、遭遇したということか。
なるほど、いよいよ僕の出番のようだ。
どうなるのやら不安はあるが、行ってみるとしよう。




