第5話 怪獣の力(変化)
僕は巨大化して、人間の姿から異類異形の姿へと変化した。
どうやら【怪獣】に変身したらしい。
リアル十歳児ではない僕だけれど、この変化には動揺してしまう。
なにしろ、とんでもない巨体だ。
恐怖を感じるほどの目線の高さで、周囲の巨木よりも遥かに大きい。
体長はたぶん数十メートルはあり、もはや今まで通りの生活ができるサイズ感ではない。
僕はあまりの巨体に不安を覚えながら突っ立っていると、お尻のあたりにムズムズとした違和感を感じた。
何気なく力を込めると、背後でバキバキバキッと大きな音がする。
慌てて振り返ると、巨木が何本もなぎ倒されていた。
いったい何事が起きたのかと思ったが、その理由はすぐにわかった。
僕の視界に入ったものは、先っぽにコブのような球体が付いた長く立派な二本の尻尾だ。
試しにグッと力を入れてみると、二本の尻尾がブルンッと動いた。
なるほど。
今の僕には二本の尻尾が生えていて、それを意図せずに振り回してしまったようだ。人間との違いを大きく感じる。
そして、そんな外見の変化だけではなく、僕は身体の内側にも異変を感じていた。
それは全身に熱を感じる圧倒的にみなぎる力。
その内側から溢れ出る力は、今までに感じたことがないほど強烈で、僕の器を越えていた。
僕は息苦しさが限界に達し、思わず大きく息を吐き出すと。
ゴボォッ……。
次の瞬間、僕の口から真っ赤に燃え盛る火球が漏れ出した。
その漏れ出た火球は一瞬にして眼前の木々を焼き尽くした。
僕の吐息は火球なのか……。
予想外の出来事に言葉を失う。
呆然とする僕の視界に入るものは、焼け焦げた木々がプスプスと燃える残り火だ。
僕は今の状況に動揺しながらも、自分のせいで山火事にしてはいけないと思い、慌てて残り火を足で踏み消そうと試みる。
ズズーーーーンンンッッ!
しかし、残り火を消すどころではなかった。
僕の足踏みにより地面がボゴンッと陥没し、バリバリと周囲に地割れが走った。
なんということだ。
僕は動揺しつつも優しく足踏みをして、やっとのことで炎を鎮めることに成功する。しかし、周囲は惨憺たる有様だ。
この巨大な怪獣の姿のままでいては、非常にまずい。
そう思って双子の姉妹に確認しようとしたところで、僕は気がついた。
これだけ暴れまわってしまったのだ。
もしかすると、二人を巻き込んでしまったかもしれない。
僕は焦って変な汗が出る気がしたが、それは気のせいで、実際には出ていなかった。どうやら怪獣は汗をかくことはないらしい。
いや、そんなことはどうでもいい。
今、重要なのは二人の安否だ。
僕は注意深く、周囲を見渡す。
そこで気づいたのだが、近くも遠くも妙にくっきりとよく見える。
怪獣になったことで、視力まで強化されている。
強化された視力で周辺を隅々まで確認すると、二人が岩陰から顔を覗かせ、手を振っている姿を発見した。
姉のエレナさん、妹のリアナさん──二人揃って無事のようだ。
二人の無事を確認して、ひと安心した僕は「どうしたらいいの?」と声に出そうとした。
しかし。
「グルグウウゥゥ……?」
僕が発したものは、変な唸り声だけだった。
よくよく思えば、この姿で人間のような発声ができないのは当然だろう。
僕が喋れずに困っていると──。
『レオン様、聞こえますか?』
頭の中に直接、姉エレナさんの声が響いてきた。
『レオン様、念話だよ。あとで説明するからね』
今度は妹リアナさんの声が聞こえてきた。
僕は【念話】という不思議な現象に戸惑いつつも、二人の落ち着いた声にホッとする。さらに姉エレナさんの声が続く。
『レオン様、今度はガラ結晶を内側にしまうつもりで、集中してください』
ガラ結晶を内側にしまう?
それにどんな意味があるのかはわからないが、今の僕が頼れるのは二人だけなので、言われるままに集中する。
すると、身体の内側がひんやりとして、僕は煙に包まれて霧散した。
ボワンッ!
次の瞬間、僕は人間の姿に戻っていた。
見覚えのある自分の姿で、母さんが作ってくれた服も着ているし、完全に元通りだ。
原理はさっぱりわからないが、とにかく元に戻れるのなら一安心だ。
そして、喋れるようになった僕は、少し不満げに二人へ言う。
「いやいや、先に言ってよ。まさか怪獣になるなんて思わないから驚いたよ」
「レオン様、驚かせてしまい申し訳ありません。言葉で説明するより体験してもらう方が早いと思いまして」
「確かに手っ取り早いけども……」
僕は不満げにしていたが、妹リアナさんは特に気にする様子もなく、笑顔で僕に言ってきた。
「レオン様、今度はガラ結晶の一部だけ出すようにイメージしてみて」
ガラ結晶の一部だけ?
そうすると、いったい何が起こるというのだろうか。
「今度はなに? また変身?」
「そだよー」
妹リアナさんがニッコリと微笑む。
僕はとても不安だったが、彼女に悪意があるとは思えないので、言われた通りに「一部だけ」と念じてみた。
すると、またしても僕の身体は煙に包まれ、霧散した。
ボワンッ。
次の瞬間、僕は少し背が伸びていた。
今度は二人より頭二つ分ほど高い。
さて、いったい何になったのか。
「レオン様、上手く【獣人】に変身できましたね」
「えっ、獣人……?」
姉エレナさんが差し出した小さな鏡を受け取り、自分の姿を確認する。
鏡には、顔や腕の一部が繊維質の獣人が映っていた。
顔立ちは整っていて、さらりと揺れる青髪に、鍛えられたソフトマッチョの体型。
どことなく神秘的な雰囲気もあり、まるで映画の主人公のようだ。
かなりのイケメンだし、不満はない。
ただ、元の僕が成長しても、こうはならない気がするけれども。
「えっ、これが僕?」
「そだよー、レオン様の獣人形態、かっこいいー」
こうして僕は人間、獣人、怪獣──三つの姿を持つことになった。
僕はあまりの出来事に理解が追いつかず、しばらくの間、色々な思いが頭の中を錯綜した。
どのぐらいの時間が経ったのか、そのうちに僕は思い至った。
普通の人間でなくなったことはショックだが、夢も希望もないまま、エルフの奴隷として死ぬよりはましだろう。
新たに得たこの不思議な能力が、何らかの可能性につながっていると期待したい。
◇◇◇
⭐︎怪獣豆知識コーナー⭐︎
レオンが得た不思議な怪獣三変化。
【怪獣形態】
体長およそ四十五メートル。
どっしりとした足腰での二足歩行、先っぽにコブが付いた二本の長い尻尾、濃淡のある白っぽい石灰岩のような皮膚、頭部に生えた立派なツノなどが特徴的。
口から火球を吐くことができる。最強最大の形態だが、疲労度がとても大きい。
変身時、全裸だが不思議と恥ずかしくはない。
【獣人形態】
身長二メートル十センチ。
顔や腕の一部にあるグレーで繊維質の皮膚が特徴的な青髪のイケメン。
超人的なスピードとパワーを持ち、生命力は怪獣形態と同様に不死身レベル。
変身時、露出の多い服装だが、引き締まった肉体なので恥ずかしくはない。
【人間形態】
身長一メートル四十センチ。
見た目は完全に人間の子どもの姿。
運動能力は普通の人間と大差ないが、生命力は怪獣形態と同様に不死身レベル。
変身時、質素な服装だが、母さんが仕立ててくれた服なので恥ずかしくはない。




