第4話 謎の少女と異変
爆散してから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
「う、うーん……」
意識がゆっくりと戻ってくる。
僕は朧げな意識のまま、上半身を起こして目を開けると、目の前に見知らぬ二人の少女が立っていた。
そして、ぼんやりした頭の僕に、理解のできない言葉が聞こえてきた。
「あなたは怪獣王に認められ、怪獣王が持っていた二つの命のうち、一つを分け与えられました。あなたは怪獣王の力を手にしました」
……んん? な、なんだ?
少女が僕に向かって話しかけている。
命をもらった? 怪獣王の力を手にした?
いったい何を言っているのだろう。
理解ができない。
僕は少女たちの言葉が気になりつつも、自分の身体が普通に動くことに気がついた。無意識に上半身を起こしているし。
たしか先ほど怪獣の爆発に巻き込またとき、身体が散り散りになった気がしたのが、今の僕は元通り──どうやら五体満足のようだ。
全身どこにも怪我はないし、痛みもない。
不思議ではあるが、とにかく良かった。
さて、怪我もなくほっとしたところで、あらためて気になる目の前にいる二人の少女。
二人とも年齢は十六、七歳くらいだろうか。
一人はほんのり紫がかった銀髪でロングヘアの美少女。
もう一人は淡い金色のミディアムヘアで、こちらも同じく美少女だ。
どちらも透明感のある白い肌をしていて、どこか神秘的な雰囲気がある。
そして、顔立ちはそっくりだが、性格の印象はまるで違う。
銀髪の子はクールな美人といった感じで、金髪の子はニコニコとして愛嬌がある。
二人の少女は、僕が意識を失っていた間、ずっと見守っていてくれたのだろう。
どこか優しげな空気から、そう感じた。
美少女なうえに優しそうなのはありがたいのだが、肝心の「誰なのか」は分からない。知らない人だ。
僕は理解のできない状況に、思わずジロジロと眺めていたが、少しだけ落ち着きを取り戻し、質問を投げかける。
「え、えっと……どなたでしょうか?」
僕の質問を聞いて、二人は微笑み、息を揃えて答えてくれた。
「「私たちは、怪獣王の力を持つ者に仕える双子の姉妹です」」
透き通るように綺麗な声だなと思いつつ、それはそれとして、いったい何を言っているのだろうか。
怪獣王の力を持つ者に仕える双子の姉妹とは、どういうことだ?
「私は双子の姉で、エレナと言います」
「私はね、妹のリアナだよ」
なるほど。銀髪のクールな美人が姉のエレナさんで、金髪でニコニコしている方が妹のリアナさんか。
頭の中にクエスチョンが並んでいる僕をよそに、姉妹は丁寧に名乗ってくれた。
とりあえず二人が双子の姉妹で、しかも怪獣王の力を持つ者に仕えている──それは分かった。
けれど、そもそも怪獣王の力、それを持つ者とはなんなのか。
「エレナさん、リアナさん。えっと、名乗るのが遅くなったけど、僕の名前はレオンです。さっきから怪獣王の力とか、よく分からないんだけど、説明してもらえますか。それに僕って死んだんじゃなかったの?」
少し早口になりながら、一気に尋ねる。
「そうですね。まず、レオン様は死んでいません。爆散する直前に命をもらって、怪獣王の力を受け継いだ……といった感じでしょうか」
「そうそう、レオン様は死んでないよ。もう済んだことだし、元気にいこうよ。ねっ?」
二人はそれぞれ、落ち着いた声と明るい声で答えてくれた。
せっかく答えてもらったのだが、命をもらったとか言われても常識人の僕には全くピンとこない。
ただ、今こうして生きていることは事実だ。
であれば、いつか詳しくわかるときがくるかもしれないし、ここは二人の言う「死んでない」という言葉を信じよう。
それよりも気になるのは、僕が受け継いだという怪獣王の力とやらだ。
謎の変な力を勝手に受け継がされている。
これは大きな問題なのか、それとも素晴らしいものなのか。
ここは美少女の圧に負けず、もっと詳しく聞いておきたい。死んでないという理由に関係があるかもしれないし。
「えっと、それで怪獣王の力ってなんですか? どんなもの?」
僕の問いかけに、わずかな沈黙のあと、姉のエレナさんが口を開いた。
「そうですね。怪獣王の力については、言葉で説明するより、実際に試してみましょうか」
そう言って、エレナさんが軽く手招きをする。
僕は二人に促され、洞窟の奥にある神殿のような場所から外へと出た。
洞窟の外は、陽の光が地面まで届かないほどの深い森の中だった。
僕らはしばらく歩き、鬱蒼とした木々のあいだを抜けていく。
やがて、ふっと視界が開け、小さな広場に出た。
そこは木々の隙間から陽光が差し込み、爽やかな風が吹き抜ける、とても心地のいい場所だった。
広場に着くと、二人はなぜか僕から少し距離を取り、やや大きめの声で言った。
「レオン様! 身体の中心にガラ結晶があるとイメージして、胸に手を当てて集中してください!」
僕は言われた通りに胸に手を当てて集中する。
この行為にどんな意味があるのだろうか。
疑問を覚えつつも意識を集中していると、身体の奥で不思議な熱がじんわりと広がり始めた。
その瞬間、僕の身体はボフッと白い煙に包まれ、背中がモリモリと盛り上がってきた。
それはゴツゴツとした硬質な何かが内側から突き破っていくような感覚だ。
う、うわっ、な、なんだ──!?
いったいこの現象はどういうことだ。
僕の身体はどうなってしまうのか。
混乱しているさなかにも、身体がみるみると膨れ上がっていく。
グワッ! グググググッッウウウウゥゥゥッ!
どれほど時間が経ったのか、それとも一瞬だったのか……気づけば異変は止まっていた。
ズズーーーーーン…………。
僕の周囲を包んでいた白い煙が風に流れ、その全身が露わになる。
いったいこの状況を、どう表現すればいいのだろうか。
今の僕は太い二本足でどっしりと立ち、遥か頭上から二人の少女を見下ろしていた。
見える景色がまるで違う。恐ろしいほど高い目線だ。
しかも、ただ巨大化しただけではない。
僕の姿は完全に人間から離れ、異類異形のそれへと変わっていた。
濃淡のある白い岩のようなゴツゴツした皮膚に覆われた、巨大で怪しげな獣の姿にだ。
そしてその内側には、これまで感じたことのない圧倒的な力がみなぎっている。
こんなことがあっていいのだろうか。
どう受け止めればいいものか、理解の範疇を超えている。
頭の中で、色々な思いがぐるぐると駆け巡る。
しかし、状況を理解しようにも、脳が拒否して考えがまとまらない。
――だが、そのうちに僕は悟った。
にわかには信じられないが、この状況だ。
もう、こう考えるしかないのだろう。
どうやら僕は【怪獣】に変身したらしい。




