第3話 爆散、そして
自然の摂理を超越した怪しい獣、【怪獣】。
この世界に住む全ての者は、強大な力を持つ怪獣に畏怖、侮蔑、拒絶、畏敬など様々な感情を持っていた。
ただし、強大な力を持つと言っても、怪獣の性格は基本的に穏やかだ。
強者として周囲に構うことなく、マイペースに活動する怪獣は、基本的に群れることもなく、それぞれ単独で行動している。
それに対して、エルフたちは国家という集団として機能的に行動しており、国家機関による魔法研究の成果もあって、魔法の効力は年々と高まっている。
最近では、怪獣の体内にのみ存在する【ガラ結晶】──キラキラと七色に輝く特異な部位を目的に、小型の怪獣であればごく稀に捕縛することもあるそうだ。
捕縛した怪獣の肉は食材として、骨や皮、ツノなどは部位ごとに加工され、高品質な武具やアクセサリーに利用される場合もあるらしい。
なかでも最大の目的であるガラ結晶は、魔法の効力を倍増させる触媒として、ほんの数センチメートルの物でも驚くほどの価値を持つという。
もっとも、こうした話は僕が実際に見たわけではなく、噂として耳にしたに過ぎないのだけれど。
そして今、目の前にいる怪獣だと推測した謎の生き物。
体長はおよそ五メートル。
小さくはないが、特別に巨大な獣というサイズでもない。
しかし、目の前の生き物をよく見ると、甲羅のようなゴツゴツした何かが、キラキラと七色に輝いている。
この異形の姿、普通の生き物とは思えない。
怪しい獣と呼ぶにふさわしい風貌だ。
そして、背中にある七色に輝く特別な物体──噂に聞くガラ結晶とは、きっとこれのことだろう。
怪獣には小型のサイズも存在すると聞くし、この生き物を怪獣と見て間違いはなさそうだ。
とすると。
僕が貴重なガラ結晶を持つ、小さな怪獣がいることをエルフリーダーに知らせれば、もの凄いお手柄になるかもしれない。
……いや待て、あのエルフリーダーのことだ、僕のお手柄にはならないか。
嫌なヤツだし。
そもそも僕が知らせたら、この小さな怪獣が捕縛されてしまうことは明らかだ。
それなのに、エルフリーダーに知らせることなど、僕にはできない。
僕と同じで魔力を持たず親近感を感じる、この小さな怪獣をエルフリーダーへ媚びるために、差し出したくはない。
僕は転生した今も世渡りが下手なのかと苦笑いをしながら、この小さな怪獣を隠すことにした。
周囲から葉っぱと木の枝を集めて、小さな怪獣に被せてみる。
小さいと言っても五メートルほどの大きさなので、とても大変だ。
僕は頑張って、せっせと葉っぱと木の枝を寝転がっている怪獣の上に被せていく。
徐々に怪獣の姿が隠れていき、あと少し、そう思ったとき。
ガッサーーーーッッッッ!!!
怪獣は葉っぱと木の枝を跳ね除けて、寝返りをうった。
なんということだ。
僕の苦労は、怪獣にとって余計なお世話だったのか。
すまない。
さらに、寝返りをうった怪獣が、今度はガサガサと大きな音をたてて起き上がり、変な唸り声を上げた。
「ピヤァァァッッンン!!!」
ヤバい!
親切のつもりだったが、怪獣を怒らせてしまったのか。
これは怖い。
瞬時に僕は、死を覚悟した。
それと同時に。
「なんだ、今の鳴き声は? 大きな物音もしたぞ!!!」
僕ら奴隷の子どもを監視しているエルフたちが異変に気づいたようだ。
少し離れたところで声が聞こえ、複数人のエルフがこちらへ向かってくる。
そんな状況だが、僕は慌てるだけで何もできず、程なくしてエルフリーダーと警備役である二人のエルフに、怪獣ともども見つかってしまう。
エルフリーダーたちは、僕と一緒にいる異形の生き物を見て、興奮気味に捲し立てる。
「な、なんだ、そのデカい生き物は!?」
「レオン、お前はここでなにをやっている?」
「そいつは魔物か?」
「いや、なにか変だな?」
僕はまごまごするのみで、ろくに返事もできない。
「え、えっと……」
興奮したかもしれない怪獣と、興奮しているエルフリーダーたちに挟まれて、どうしたら良いのかわからない。
というか、どうしようもない。
そして、動揺している僕をさらに動揺させるかのように、怪獣に変化が現れる。
キラキラと七色に輝いていた背中が、より一層に輝き出す。
その輝きっぷりは、眩し過ぎて直視ができないほどの輝きだ。
なぜこんな時に!
キラキラと輝きだすという怪しい姿を見たエルフリーダーは、さらに大興奮して絶叫する。
「こいつ怪獣か!? なんだそのガラ結晶は!!! でっけぇぇぇ!!! これはヤベぇぇぇよ、絶対に捕まえろ!!!」
その声を聞き、警備役であるエルフ兵の一人が、慌てて大きな魔導捕縛銃を準備する。
【魔導捕縛銃】とは、対象を捕縛するために強固な魔法繊維で作成された魔導網を発射するエルフ特製の魔道具だ。
エルフ兵は、僕ら奴隷が脱走を試みた際、もしくは魔物や怪獣を発見した際を想定して常備している。
バシュッッッ!!!
警備役のエルフ兵が怪獣に狙いを定めて、魔導捕縛銃を発射する。
咄嗟にうつ伏せをした僕の頭上をすり抜けて、魔導網が大きく広がり、怪獣へバサリと被さった。
そこへ警備役のエルフ兵が連携して、雷系魔法で攻撃する。
「電撃魔法!!!」
エルフ兵の放った電撃魔法は、魔導網を通して何倍もの威力になる。
バリバリッッ! バリバリバリバリッッッッ!!!
強力な電撃魔法が怪獣を襲い続ける。
いくらなんでも、この攻撃には耐えられないだろうと僕は思ったのだが、僕の目の前にいる怪獣は、特に苦しそうな表情や反応を示さなかった。
スンとしている。
しかし、僕が「あれ? 効いていないの?」と思ったのも束の間、スンとしていた怪獣が突如として大爆発、そのまま霧散した。
「は? 爆発!? う、うわぁぁぁ!!!」
当然、怪獣のすぐ目の前にいた僕は、爆発に巻き込まれた。
身体が散り散りになっていくような感覚があったのだが、なぜか苦痛はまったくない。
なにがどうなっているんだ?
そう思った瞬間、僕の意識はふっと途切れた―――。
◇◇◇
爆散から、どれほどの時間が経ったのだろうか。
「う、うーーーん……」
僕は意識を取り戻した。
いったい何がどうなったのか、まるで見当もつかない。
そうして、知らない場所で目を覚ました僕の目の前には、見知らぬ二人の少女が立っていた。
少女たちは僕が目を覚ましたことに気づき、一人が静かに口を開いた。
「あなたは怪獣王に認められ、怪獣王が持っていた二つの命のうち、一つを分け与えられました。あなたは怪獣王の力を手にしました」




