第2話 未知との遭遇(正体)
僕は背後に嫌な気配を感じて振り返ると、そこには異形の生き物が立っていた。
その大きく開いた口からは熱を帯びた息が漏れ、瑠璃色に光る鋭い眼差しが、僕を捕えるように見下ろしている。
こんな生き物は今までに見たことがない、これは絶対に魔物だろう。
【魔物】とは、魔力を持った人型以外の生き物で、下級(Dランク)から特級(Sランク)まで様々な種類がいるが、基本的に知能が低く凶暴な性格が多い。
しかも今、目の前にいるのは見るからに凶暴そうな形状をした大きな魔物。
Bランク、いやAランクあっても不思議ではないほどの威圧感だ。
これ以上、不用意に近づくと、喰われてしまうかもしれない。
最悪の状況だ。
とまあ、それが一般的なのだが、それはあくまでも魔力をもった普通の人間やエルフの場合だ。
なんというか、僕は体内に魔力を持たない体質だからなのか、今まで一度も魔物に襲われたことはない。
幸いと言っていいのか、魔力を持たない僕は、魔物から見ても襲う価値すらないカスということだろう。
そういえば、七歳になってすぐの魔力測定で魔力ゼロと判明した時にも、エルフにゴミカスと言われたっけ。
魔物に襲われないのは、この体質で唯一の良いところだけど、自然と涙が溢れてくるので、あまり深く考えるのはやめておこう。
そもそも余計なことを考えている暇はない。
今は凶暴そうな魔物の目の前だ。
たとえ価値はなくても、気まぐれで襲われることはあるかもしれない。
油断はできない。
だが、先ほどから目の前の魔物は、なぜか瑠璃色の瞳でじっと僕を見つめるだけで動かない。
まるで品定めでもしているかのようだ。
僕は魔物の引き込まれるような瞳に見つめられ、どうしていいのか分からなかった。
すると、目の前の魔物は何の前触れもなく、ゴロンと寝転んでしまう。
どういうことだ?
魔物の行動の意味はわからないが、これはこの場からさっさと逃げるべきか。
たぶん、普通はそうすべきなのだろう。
でも目の間にいる魔物は、弱っているようにも見える。
僕は少しの親近感を目の前にいる魔物に感じていた。
魅了の魔法でも使われているのだろうか。
僕には逃げるという選択ができなかった。
そこで僕は、僕の持っている魔素樹の実が欲しいのかもしれないと考えて、魔素樹の実を与えてみることにした。
魔素樹の実には様々な種類があるが、今、僕が持っている魔素樹の実は、魔素のたっぷり詰まったドングリのような実で、魔力を持つ生き物が食べるとエネルギーになるという優れた木の実だ。
もし、魔物が弱っているのであれば、魔素樹の実を食べて少しでもエネルギーを回復をすれば、この場から立ち去っていくかもしれない。
当然、エルフのために採集している魔素樹の実なので、あとで採集した量が少ないとエルフリーダーに怒られてしまうと思うが、ここは仕方がない。
よし、ではさっそく。
僕は手を差し伸べて、魔物に魔素樹の実を与えてみた。
魔物が僕の手から、魔素樹の実をそっと口にした。
初めてなのだろうか、魔物は魔素樹の実を慎重に頬張っている。
さあ、反応はどうだ?
僕は魔物を注視する。
モグ…モグ…、ペッ!!!
魔物は魔素樹の実を少し噛んだあと、勢いよく吐き出した。
「あっ、吐き出した。なぜだ!?」
僕の期待に反して、魔物は魔素樹の実を吐き出してしまった。
魔物は魔素樹の実を嫌がった。
それにしても、今の吐き出し具合、身に覚えがあるような。
魔力を持たない僕だけど、以前、お姉さんエルフのノエルさんに「レオンくん、魔素樹の実、食べてみる? 美味しいよ」と言われて、試しに口にしてみたことがある。
その時の僕は、魔素樹の実のあまりの不味さに速攻で吐きだした。
どうやら魔力を持たない者は、魔素樹の実を不味いと感じるようなのだ。
そして、今の魔物は、そんな僕の反応とそっくりだ。
ただ、目の前の魔物がいくら魔素樹の実が嫌いだと言っても、この異形の姿、普通の野生動物とは思えない。
この辺にはシカ、ウサギ、イノシシぐらいしかいないはずだし。
仕方ないので、もう一回やってみることにする。
やはり食べない。
むしろ見向きもしなくなった。
弱っているように見えるけど、魔素を補充したいわけではないのか?
普通、弱っていたら魔素を補充したがるはずなのだけれど。
さきほどの吐き出し具合を見るに、やはりこの生き物は、僕と同じで魔力を持っていないのか?
魔力を持たないということは、魔物ではない?
魔力を持たない異形の生き物ってなんだろう?
僕は少しだけ思案して、一つの答えを思いつく。
もっとも今まで噂でしか聞いたことがない生き物ではあるけれど。
その生き物とは。
―――もしかして、怪獣???
◇◇◇
この世界には様々な種族が存在する。
その中で――。
皆が使える文明科学の力や、一切の魔力を持っていないにも関わらず、見た者の理解しうる範疇を逸脱する強大な力を持った巨大な獣。
本当に生物なのかどうかすらも分からない不思議な力を持った巨大な獣。
それら巨大な獣を、この世界に住む全ての者は畏怖、拒絶、侮蔑、畏敬など様々な感情を込めて、こう呼んでいた。
自然の摂理を超越した怪しい獣、【怪獣】と。
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