第10話 解放への一歩
僕はあらためて自分の目的を思い返す。
それは両親やかつての奴隷仲間だった子どもたちを、エルフの支配から解放すること。
その目的に向けて、先日のエルフ魔導兵との戦闘は良い経験になった。
あの戦闘では、力加減にも問題はなかったと思う。
最初は不安だった力の制御も、最低限は身についた気がする。
今の僕なら、誤って人間を殺傷してしまうことはないだろう。
ほかにも解放後の食料事情が気になっていたのだが、牛豚怪獣ピグモーと穀物怪獣モフモフが現れたおかげで、その心配も解消した。
ピグモーとモフモフは、僕に協力すると言ってくれているので、栄養満点のお肉に、美味しいパンにパスタが食べ放題だ。これは心強い。
懸念事項が一通り片付いた今、そろそろ目標に向けて動き出しても良いかもしれない。
僕は冷静な意見を求めて、エレナに相談してみた。
「そろそろ村のみんなを解放できそうな気がするんだけど、エレナはどう思う?」
「そうですね、怪獣形態に慣れてきた今のレオン様なら余裕だと思います」
「本当? 余裕?」
「はい、私とリアナも全力でサポートしますし、大丈夫ですよ」
「おお、エレナのお墨付きなら安心だよ。じゃあエレナも一緒に作戦を考えてくれるかな?」
「もちろんです。レオン様」
エレナとしばらく話をしていると、モフモフのところに出かけていたリアナがモフ粉を抱えて、戻ってきた。
「なになにー、なんの話をしてるの?」
「いよいよ村のみんなを解放しようと思ってね。リアナも話を聞いてよ」
それから三人で話し合い、作戦が決定した。
「……シンプルだけど、作戦はこんな感じでいいかな?」
「はい、レオン様。問題はないと思います」
「レオっち、頑張ろうねー」
「よし、じゃあ今日はゆっくり休んで、明日に備えよう」
今日はしっかり休養を取り、明日いよいよ作戦を決行する。
できるだけ長時間、怪獣形態でいられるように、体調を整えて頑張りたい。
◇◇◇
そして翌日、作戦を決行する夕暮れ時。
僕は奴隷の子どもたちが作業から戻ったのを見計らい、獣人形態でこっそりと集落に近づく。
エレナとリアナは、別行動で集落に侵入する予定なので、この場は僕一人だ。
驚異的な視力で子どもたちが集落に帰っていることを確認したあと、怪獣形態へと変身する。
ボワンッ!
僕の巨体が夕暮れの光に照らされ、大きな影が小さな集落を覆った。
体長およそ四十五メートルの巨体になった僕は、集落を上から見下ろす。
奴隷だったときには気にならなかったが、あらためて見ると簡単な柵で周りを囲われた小さく貧弱な集落だ。
さっそく僕はエルフリーダーたちを誘い出すため、一度だけ足踏みをする。
この集落の建物は小屋同然で耐震性など皆無なので、壊さないように慎重にそっとだ。
ズズン……。
これくらいであれば、軽く振動が伝わったはず。
さらに注意を引くため、唸り声もあげておく。
「グオオオオオン!!!」
振動と咆哮。
これならば何か異変が起きていると気づくだろう。
しばらくのあいだ集落を見下ろしつつ、エルフリーダーたちの反応を待つ。
すると、驚いた様子のエルフリーダーとエルフ兵たちが、建物の外へ飛び出してきた。
夕暮れのなか、巨大な怪獣形態で佇む僕。
エルフリーダーは当然すぐに僕を見つけ、腰を抜かしながら大声をあげた。
「な、な、なんだ!!! あのデカいのは!?」
尻餅をついたまま、動かなくなったエルフリーダー。
大きく目を見開き、口をパクパクさせながら、ただこちらを凝視している。
なかなか味わい深い表情だ。
その姿を見て、僕は「こんな相手に三年間もビビっていたのか」と思わなくもなかったが、同時に怪獣形態の恐ろしさを実感する。
僕は立場がすっかり変わった状況に、思わずニヤッとしてしまう。
もっと驚かせたい衝動に駆られるが、ここはぐっと我慢しておこう。
なぜなら僕がこうして注意を引きつけている間に、エレナとリアナが子どもたちを安全な場所へ避難させる手筈になっているからだ。
優しいお姉さんエルフのノエルさんも一緒に避難させてほしいと伝えてあるが、うまくやってくれているだろうか。
「ここに人間の味方をする怪獣が来るから避難して」
突然、見知らぬ人からこんな変な話を聞いて、騒がずに従ってくれるのかという不安はある。
しかし、初対面のときに僕が感じたように、エレナの落ち着いた物腰とリアナの愛嬌のある笑顔には、不思議と人を安心させる力がある。
素直な子どもたちだから、きっと大丈夫だと思いたい。
そうして、ニヤニヤしたりソワソワしたり落ち着かない僕は、もう一度、唸り声をあげてみる。
「グオオオオオン!!!」
二度目の咆哮が響き渡ると、エルフリーダーたちは集落のことを気にする素振りすら見せず、一目散に逃げ出した。
子どもたちを完全に放置して逃げ出すとは、思っていた以上にヘタレだ。
これなら事前に細かい作戦を練る必要もなかった。
ともあれエルフリーダーたちだけが集落から離れてくれたのは好都合だ。
僕は怪獣形態のまま、エルフリーダーたちを追いかける。
ズズン、ズズン。
しばらくエルフリーダーたちを走らせたあと、集落から十分に離れた場所で、僕はやや強めに足を踏み込んだ。
ズズズーーーーーンンンッッッ!!!
地面が大きく揺れ、その衝撃でエルフリーダーたちは転倒し、勢いのまま地面に這いつくばった。
「し、死ぬぅぅぅっ! こっちに来るな!」
いや、さすがに殺すつもりはないけれど。
ただし、三年間イキリ散らしていたお礼くらいはさせてもらう。
僕は転んだエルフリーダーのギリギリを狙って、最後にゆっくりと足を踏み出す。
ズズーーーーンンンッッ!!
巨大な足がエルフリーダーのすぐそばに踏み下ろされた。
「あわわわわ……」
死を覚悟したのか、エルフリーダーは魂が抜けたように固まった。
それからしばらくして、放心状態から我に返ったように大声をあげる。
「う、うわぁぁっっっ!! もうやめてくれーーーー!!!」
エルフリーダーたちは顔面蒼白のまま、よろよろと立ち上がり、僕の足元から逃げ出していく。
その姿を見て、さすがに気の毒になってきたので、それ以上は追わずに見送った。
若干、怪獣の力の無駄遣いだった気もするけれど、十分に気は済んだ。
そして、これだけ恐ろしい思いをしたのだから、もうここに戻ってくることもないだろう。
あとは、奴隷の子どもたちが無事であれば、今回の作戦は大成功だ。




