第0話 プロローグ
砂塵の舞う荒野、広大な戦場跡。
巨大な怪獣が悠然と周囲を見渡し、堂々とした雄叫びをあげる。
「グルルオオォォォォンンッッ!!!」
全てがひれ伏し沈黙した荒野に、その咆哮がこだまする。
怪獣の名はレグオン――怪獣の、王。
◇◇◇
僕の名前は崎山玲央。地方の大学を卒業後、そのまま地方にあるブラック企業に勤めて早十年、休みもなく働き詰めだ。
無能な上司に従いながら、一体このデスマーチはいつ終わるんだ……? そんなことを思っているうちに、僕は過労と不摂生で死んでいた。
両親は早くに他界して、僕は独り身だったので、僕の死を悲しむ人などいないだろう。良くも悪くも後腐れはない。
死んだはずの僕なのに、意識があって目を開けると、そこは三次元とは思えない不思議な空間が広がっていた。
これが宇宙の輪廻か、次の人生ではチートスキルを貰ってスローライフを満喫したいな、それとも世界を統べる魔王なんてのも面白いかな。
そうして色々な妄想をしているうちに、意識が朧げになっていき、気がついたときには転生していた。
僕は前世の記憶を持ったまま、新たな世界で生を受けた。
神聖エヴァリス王国――エルフが統治する強国だ。
そして、この国にある辺境の村が、転生した僕の新生活が始まる場所となる。
神聖エヴァリス王国では、エルフが人間を奴隷として使役していた。
使役する側のエルフに転生したのであればマシだったのだが、言うまでもなく僕はただの人間として生まれてきた。
つまりは日本でブラック企業の奴隷から、異世界でエルフの奴隷へとジョブチェンジというわけだ。
いや、ジョブチェンジと言えるのかは分からないけど。
もっとも奴隷と言っても、エルフは人間を重要な労働力とみなしており、そのため成果を出している限り、日常生活での扱いはそれほど酷くはなかった。
ただし、働けなくなりエルフにとって無用な存在だと判断されれば、あっさりと殺処分されてしまうらしい。
つまるところ生涯現役、のんびり年金生活などはなく、引退後は即死ということだ。
これは前世に続いて今世でも、僕の未来には夢も希望も何もない。
所詮はモブで無力な僕なので、誰かに世界を変えて欲しいと願うばかりだ。
さて、そんなろくでもなさそうな未来が待っている僕だけど、幸いなことに両親には恵まれていた。
僕はレオンという名前をつけてもらう。
「レオン、お前だけでもたくさん食えよ」
「父さん、ありがとう。久しぶりのお肉、おいしいね!」
「レオン、寒くはないかい?」
「大丈夫、母さんの作ってくれた服、あったかいよ。ありがとう!」
優しい両親は、僕のことを最優先に考えてくれた。
僕は両親からたくさんの愛情を感じ、僕も両親のことは大好きだった。
そうして、奴隷という環境でありながらも優しい両親に見守られ、僕はすくすくと育ち、七歳になった。
この国で七歳になった人間の子どもは、全員が魔力測定を受けることになる。
この世界の住人は、多かれ少なかれ魔力を持ち、七歳あたりで個々の素質により魔力がはっきりと現れてくる。
そして、レッスンを経て、低級から上級までレベルは様々ではあるが、誰でも魔法を使うことができるようになっていく。
魔法は八つの属性に分類され、初〜中級魔法が日常生活を支える一方、上級魔法ともなると凄まじい威力を持つ攻撃魔法や高度な回復魔法などが存在する。
また魔力を利用した道具も開発され、魔道具として幅広く活用されている。
そんなわけで、魔力は何かと重要だ。
さて、僕の魔力量はどうだろうか。
僕は転生者なので、無限の魔力を持っていたり、全属性の魔法が使えたりするのではないか。
たぶん、ここが人生一発逆転のポイントだろう。
そんな期待を持ったのだが、一瞬で僕の期待は打ち砕かれた。
「ん? 魔力ゼロだと? 初めて見たぞ。下等な人間の中でも特にゴミカスだな、お前は」
魔力測定を行ったエルフに、そう言われた。
エルフの魔力量は平均して人間の二十倍はあるそうなので、魔力ゼロの僕をゴミカスだと思うのも無理はない。
いくら下等な人間でも魔力ゼロは有り得ない、もしかしたら測定器の故障かもしれないと、もう一度だけチャンスを与えられて測定してみたが、結果は変わらなかった。
なんということだ。
僕には魔力が全くないことが判明した。
この世界の人間は、誰でも少しは魔力を持っているはずなのに、僕だけは全くなし。広い世界で、僕だけが簡単な魔法すら使うことができない。
さすがの僕もこの結果にはかなりのショックを受けたが、リアル七歳児ではないので、大人しく現状を受け入れることにした。
そんな魔力測定が終了すると、いよいよ奴隷として労働デビューだ。
結局、魔力があろうがなかろうが、七歳になった人間の子どもは全員、奴隷として働かされることになる。
奴隷として労働デビューする僕は、優しい両親と離れ離れになり、反抗が出来ないように子どもだけの集落へと移動をさせられる。
ひとくちに労働と言っても内容は様々で、この地区の七歳から九歳までは、主に【魔素樹の実】を採集するという労働を課せられる。
これは比較的に楽な労働であり、年齢を重ねて奴隷環境に慣れていくごと、徐々に厳しい労働を課せられることになる。
さらに労働と併せて『エルフは上級種族、人間は下等種族、聡明なエルフに統治されることが人間にとって幸福である』という洗脳教育を施され、反乱が起きないように人間はエルフに飼い慣らされていく。
さて、僕が集落へ到着すると、そこには七歳から九歳の奴隷として連れられてきた子どもたちが数十人いた。
どの子どもたちも両親と離れ離れなった上に、労働を課せられて疲弊している。
子どもたちに笑顔などなく、厳しい奴隷生活が想像された。
ただ、実際に労働が始まってみると、前世で社畜経験がある僕にとっては、それほど苦痛ではなかった。
むしろ前世では毎日十二時間労働以上が当たり前だったのに、今はたったの八時間労働なので、まあまあ余裕だ。
なんなら僕らを監督している、雪のような白い肌が際立つ美人お姉さんエルフを、つい目で追ってしまう程度の余裕すらある。
ただしエルフリーダー、リーダー役をしているエルフの男は何かとイキっていて嫌なヤツだった。
エルフリーダーは、奴隷とはいえ子どもの僕らをお構いなしに殴ってくるし、部下であるお姉さんエルフへのハラスメント行為も目に余る。
ほとんどはスマート体型なエルフの中にあっても小太りで、全く見るに耐えない嫌なヤツだが、僕には反抗することなどできなかった。
なにはともあれ色々あっても、僕は奴隷として毎日のように森へ行き、魔素樹の実を採集し続けた。
将来のことを考えると憂鬱になってしまうけど、僕はできるだけ楽しいことを考えて毎日を生きていく。
そうして月日は流れて、三年が経った。
七歳から奴隷として働き続け、僕は明日で十歳になる。
十歳からは仕事場が変わるので、森へ行くのも今日が最後になるだろう。
僕はいつもと変わらず、魔素樹の実を採集しに森へと向かう。
この時の僕はまだ知らないけれど、僕の未来、この世界の未来を変えることになる、運命の出会いが待つ森へ。
◇あとがき◇
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