えぴろーぐ
「さあさあ、お立合い!」
とある港町で手品師が技を披露している。
「まず取り出したのは何の変哲もないただの布。ここにちょいとこのボールを包むとぉ」
布はムクムクと膨らみ、布を外すとそこには鳩が現れていた。
「さらにこのボール、ただのボールではなく無限に鳩を生みだせるのです」
ボールが光る度にクルックーと鳩が現れる。
「お次はこの飲み物を増やしてみせましょう」
観客が持っていたカップを借りる。中身はオレンジジュースで既にほとんどない。
念を送って五秒もするとジュースは縁からこぼれた。
なみなみになった状態で観客に返す。
観客は恐る恐る口をつけて「ちゃんと味がする! 本当に増えてる!」と連れに共有している。
その後も、二、三、手品を披露してお開きにした。
投げ銭は小銭もあれば札もある。上々と言えるだろう。
手品師は港に停泊している一隻の船に乗り込んだ。
「おかえりなさい、ツヴィさん」
「あ、おかえりヴィリ」
「ただいまー。ティーア、ルィヴィ」
手品師はツヴィリンゲだ。あれから五年が経ち、十九歳になっていた。
「今日の収穫はどうだった?」
「割とあると思うぞ。数えてみんとこにはわからんが」
投げ銭入れを机の上に置くとティーアが覗き込んだ。
「おー、すごい。さすが見破れない凄腕手品師さん」
「バカにしてるだろ」
「してないよお」
五年前のあの日から船で生活している。どうやら性に合ってしまったらしい。
「でもそろそろ限界かな、って感じはする」
「さすがに一ヵ月もいれば住民も飽きて来るよねえ。わかった。レッグが戻ってきたら伝えるよ」
五年の間に、ツヴィリンゲは手品っぽく見えるように星座を練習した。今では仕掛けがプロですらわからない手品師として有名になっている。
「聞いてくれよ、俺の作品買いたたかれ、あ、おかえりツヴィ」
「ただいまレッグ、おかえり」
「ただいま。なあ、俺の作品買いたたかれたんだけど」
「なら売らなきゃいいのに」
「売らなきゃ部屋が埋まるだろ?」
五年の間にレッグは彫刻家になっていた。
作品を作っては資材を買ってきて作品を作っている。鉱物でさえも削れる彫刻具座と彫刻室座を発動させれば、初めてでもそれなりの作品が出来るのだという。
「なんか、熱意がないんだと。作品の安さは熱意の度合いだってさ」
「一回資材も道具も星座使わずに作ってみれば?」
「え、だる」
「「ただいま」」
「おーおかえり」
次はレーヴェとユングフラウが帰って来た。二人は移動式の屋台を経営している。あれから料理にはまってその土地、特有の食材で毎回新しいレシピを考案している。
「今日の分、終わった。納品行く」
「いってきまーす」
ラークとヴィッタ―は研ぎ師になった。刃の欠けを直し、切れ味が長持ちするように二人ともごく少量の力を付与しているのだという。たまに納品についていくが、どこもかなり好評だ。
シュティーアとヴィスイーは荷運び屋になった。重力操作と筋力強化の二人には適任と言えるだろう。
ミィオーセスとアラクラン、ヴェルソーは薬の調合師になった。
アラクランが出した毒をミィオーセスが見極めてヴェルソーが薬になる濃度まで薄める。ヴェルソーが手伝っているのは星落ち子が出した毒は星落ち子の力がこもった水でしか薄めることが出来ないからだ。
シュッテェとトラゴスは大会などに出場してたまにとんでもない額を稼いできたりする。聞けばあえて毎回優勝せず二位や三位を狙っているとのこと。
星落ち子が本気を出すと誰も勝てなくなる可能性があるし、毎回優勝している奴がどこにも師がいないのがおかしい、と考えられて変な勘ぐりをされるのは面倒、というのが理由らしい。
ルィヴィはその町の警備団で働いていたりする。突然十二の子供、しかも女性が警備団に行っても相手にされないが、三年前にどこだったかの大都市で大規模な盗賊団一斉確保を手伝って、特別警備証とかいうモノを貰ってから、系列の警備団では歓迎してくれるようになった。今でも大捕り物があると呼ばれたりする。
五年の間に全員自分に向いている稼ぎ方を見つけた。
十四人十四色の稼ぎ方で今の生活は困っていない。
研究所から逃げ出した時はどうなるかと思ったが、逃げ出してからの二年間もどうにかしていたのだから、これからもどうにかなる気がしている。
だって俺たちは普通の子供なんだから
お読みいただきありがとうございます
最近これも仕事も頑張りすぎたので次回作は9/1より投稿を始めたいと考えております
お待ちいただけると幸いです