ふつう
君たちは特別なんだ
だからここにいるんだよ
幼い頃そう言われてここに来た
特別、そんなことを真に受けていたのはいつまでだったか
喉の渇きを感じて目が覚めた。
「みず……」
自室の扉を開けると廊下の明るさに目をすぼませる。
無機質な白色で金属の壁。下はフローリングで暖房がついているのか素足でも冷たくない。
ペタペタと廊下を進む。
リビングに向かう道中で何人かすれ違ったが、全員同じ格好をしている。
身体の右側で布地を紐で縛って止めている。下は半ズボンだ。薄い青色が入院着を思わせる。自分も同じものを着ている。
唯一違うのは左胸に刺繍されているマークだ。
ローマ字のmlが重ねてあるようなものや、アラビア数字の六が空白を補うように重なっているもの、矢のようなもの、様々だ。
かくいう自分もローマ数字の2のようなマークが刺繍されている。
リビングにはテーブルで本を読んでいている女性が一人いた。
「……お前はいつもここにいるな」
ウォーターサーバーから水を注ぐ。
「君はいつも眠そうね」
水を飲みながら女性が読んでいる本に目をやる。かなり読み込んでいるのか、ところどころ色が剥げている。タイトルは『星座解説図鑑』とある。
自分もサラッと読んだことあるが八十八星座が写真と共に解説させている。
「またそれか。よく飽きないな」
「大事でしょ。それに、ね?」
何か意図がある目線を向けてくる。
「ああ、そうだな」
「……、……さん! いい加減起きてください!」
「わぷっ!」
いきなり顔に水をかけられて目を覚ます。
反射?的に鼻で水を吸ってしまい頭が痛い。
「ゲホゲホッ、何だよヴェルソー」
目の前にいるのは12歳くらいの男の子だ。
顔にかけられた水はまるで蛇のようにしゅるしゅるとヴェルソーが持っているペットボトルに収まった。
「シュティさんが呼んでましたよ。ツヴィさん」
「ティーアが? なんの用だよ」
起こされたツヴィリンゲは面倒くさそうに向かった。
「やっときた。おはようヴィリ」
「寝ていいか? 昨日当番で朝方まで起きてたからくっそ眠いんだわ」
「ルィヴィが追手を確認したの」
その言葉でツヴィリンゲはしかけていたあくびを止めた。
「まだ距離はあるみたいだけどね」
「間が悪いなあ。人が寝てたところに来るなよ。おーい、ラーク、シュッテェ、ヴィスイー、行くぞー」
呼ばれた三人はツヴィリンゲの後を追って出て行った。
今いるのは地上から15mほど上にある洞窟の入口だ。少し下には森が広がっている。今は夏。木々が青々と葉をつけており見通しは悪い。
「ルィヴィ、どこだ?」
パラソルの下で座っている12歳くらいの女の子に話しかける。
「二時の方向に約二キロです」
「どれ」
腕を伸ばして点を繋ぐように線を描く。
描き終わった線は一か所に集まり単眼望遠鏡が現れた。
「お、いた。のんきに作戦会議してるわ。さすがルィヴィ」
単眼望遠鏡を放り投げると光になって霧散した。
「ヴィスイー、頼んだ」
ヴィスイーは見た目から口数が少ないのがわかる12歳くらいの女の子だ。
彼女はラーク、シュッテェの背中に線を描いた。
「場所は?」
ルィヴィはヴィスイーの肩に手を置いた。
「見える?」
ヴィスイーが頷くと三人の身体が浮いた。
「二分」
二分後で解除すると言いたいのだろう。
察した三人はそれぞれ返事をして飛ばされていった。
森には完全武装した影が複数あった。おそらく何らかの部隊だろう。
隊長らしき人物が神妙な面持ちで告げる。
「これより作戦を開始する」
その言葉と同時に部隊の前方三メートル先に目標のうち三人が着地した。
「どっからきた!?」
「空」
一人が何事もないように上を指して答えた。
「さ、作戦開始!」
我に返り隊員に指令を出す。隊員達も我に返り武器を構えた。
「しなくていいのになあ」
図らずも隊員が構えるのが開戦の合図となった。
三人は既に三手に別れている。
「各自捕獲に向かえ! 決して油断はするな!」
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