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異世界恋愛+α(短編)

「舞踏会、ぶっちぎりで優勝しましょう」踊りが下手すぎて婚約破棄された女に、新しい男はそう言った。

作者: いのりん


 ダンスパートナーとのカップリング解消は、しばしば破局に例えられる


「フローラ王女、貴女との婚約破棄(はきょく)が決定しました」



 それはかつてのパートナーであったシャムの言葉。


「悪く思わないでくださいね……国のためなので」


 その隣には、申し訳なさそうなセリフを言いつつ、優越感から唇の端を吊り上げる別の女性がいた。


「……承知しました。」


 努めて平静さを保ち言いながら、フローラの内心は恥辱と怒りに燃えていた。





 ことの発端は一年前、フローラの兄アレクサンドルが、突然膨大な魔力を発現したことに起因する。

 魔力、それは神の恩寵。神の末裔とされる王族の、王位継承に必要不可欠とされている物。


 アレクサンドルは元々とても優秀だった。

 しかし幼少時、彼は魔力の素養が全くないと判断され、騎士として教育されることになる。

 そこで王位はごく微弱ながら『物を浮かせる魔力』を、産まれつき持っていたフローラが継ぐ予定となり、彼女は幼いころから王としての教育を受けてきた。


 しかし、戦場で命の危機に瀕した際に兄アレクサンドルに魔力が発現した。それは開国の祖すら上回る、史上類を見ない膨大な力で、瞬く間に戦を勝利に導いた。それで、彼が王位を継ぐように計画が修正されたのだ。


 国としては喜ばしいことだが、フローラ個人としては災難以外の何物でもなかった。





 『王国の未来を背負う優秀な王女』

 それが、今までのフローラに対する評価だった。


 次期国王として、大胆であれ、凛々しくあれ、力強くあれ。

 人に媚びるな、強いリーダーシップを持て。

 導かれるのではなく、導く人物であれ。


 ずっとそう教育されてきて、それに答えようと努力を重ねてきた。


 自分以上に優秀で努力を重ねてきたのに、魔力の有無ただ一点のみで疎んじられている兄に申し訳なく思う心はあった。しかしその分まで、自分はより快活に、果断に、勇ましく……誰からも王にふさわしいと思ってもらえるように、一層の努力を重ねる日々。


 彼女の努力はしだいに花開き、王の資質を実らせようとしつつある……正にその時に、事態は一変した。



『これから貴女に求められるのは王の資質ではない、淑女としての資質である。』


 周囲から急にそう言われるようになり、フローラは困惑した。

 魔力を操り、剣を振りと、誇り高き強者として振舞うために必死に鍛え上げてきた全てを否定されたように感じた。


 それでも、国のためにフローラは気持ちを押し殺し、お淑やかに女らしく振舞おうと努力した。――が、ダメ。全然うまくいかなかった。中でも、淑女の嗜みとされる『社交ダンス』は特にひどかった。


 社交ダンスは基本的に男性優位だ、男の動きや息遣いを察知して、そのリードに女が対応することが求められる。しかし、王のあり方として、『主体性を持ち自分が人を導け』と幼少時から教育されてきたフローラは、無意識化でリードされるのを嫌がってしまう。

 王として、どんな時も相手に流されないというのは立派な資質なのだが、ダンスでは足を引っ張っている。なにせ、淑女は相手に合わせて、ついていかなければならないのだから。



 フローラの受難は続く。


 王位が兄に継承された祝いとして、慣例どおり、各国の要人まで集めて行われる盛大な社交ダンスパーティー、通称『天下一舞踏会』が開催されることになったのだ。


『天下一舞踏会』には各国の代表として若い王族と、国によって選ばれた数組の貴族が参加する。

 そしてそれは、楽しく踊って交流を深めようなどという生易しい場ではない。衆目環視の中、中立的な各国の審査員が点数を付け、国の威信をかけて争う国際交流戦、文化的な闘争の場なのだ。


 フローラの祖国は強国で、ゆえに「うちの国は、これだけ芸事に力を入れるだけの国力がありますよ」と他国へ見せつける場として参加してきた天下一舞踏会。本来、王族としては兄が参加予定だった。しかし流石に国王が競技者にはなれない。ゆえに王妹であるフローラが参加するのは必須であったし、好成績を求められるのもまた必然であった。




 フローラのパートナーには当初、「国一番のリードの名手」といわれる、シャムという高位貴族の男が選ばれた。オラオラぐいぐいと引っ張るリードが得意な男だった。シャムは練習中によく言った。


 「社交ダンスとは絵画。男は額縁で女は花。きっちり収まってくれないと困ります」



 フローラは唇をかみながら必死に練習したが、結局2人の息は合わなかった。

 全然、全く、ちっとも、これっぽっちも、うまくいかなかった。


 するとシャムは、別の出場者である伯爵令嬢のゾークァに浮気をした。

 ゾークァは典型的な貴族令嬢だった。

 相応のわがままさや意地の悪さもある一方で、打算があり、強い意志を持たず、努力だって必要最小限しか行わない。男に色目を使い、意向をくみ取りながらゆらゆら流されるように生きている。

 しかしそれが、こと社交ダンスの、特にシャムのリードとは相性が良かった。


 シャムは、新国王に直訴した。


「あなたの即位を優勝で彩るために、パートナーをゾークァに交代させて頂きたい!」


 願いは聞き届けられ、「シャム&ゾークァのペアは必ず好成績を収めるべし」という約束と引き換えに、二組の婚約破棄はきょくが決定した。


 必然的にフローラには、ゾークァの元パートナーであった男があてがわれることになる。





 新しいパートナーはランドと言う下級貴族の騎士だった。


 過去の国内の舞踏会であの兄を抑えて優勝したことがあり、その実績から選出された男。

 そのダンスはフローラも見たことがあり、素晴らしいものだったと記憶している。


 しかし、この数年、彼はダンスへの情熱を失っているらしい。技量はお墨付き、必要最低限のリードはきちんと行う。しかしそれ以上のことはしない。パートナーへの愛情や熱はなく、おざなりで一体感がない踊りとなるそうだ。それで、実績が欲しいゾークァもシャムから浮気の話が出た時に喜んで応じたらしい。




 顔合わせで、フローラは言った。


「貴方にとっても不本意だろう。しかし私としては国の恥とならないよう、何とか最下位は避けたい。リードに合わせられるように頑張るから協力してほしい。」


 ランドは答えた


「いや、貴女らしく踊ればよろしい。そして、ぶっちぎりの優勝を狙いましょう。」



 貴女と俺ならそれができます。

 そう言われ、フローラは久しぶりに呆けた表情をした。





 天下一舞踏会当日


 その第一次予選で、一組のカップルが注目を集めていた


「あれが、フローラ王女か……美しいな」

「隣にいるランド殿も、見ただけで実力者だと分かる……」



 フローラもランドも、生まれつきダンサー体型だった。身体が大きく手足が長く、なで肩で首も長い。加えて言えば顔もいい。

 そこから、王としての訓練、騎士としての鍛錬で並の紳士淑女のそれよりも圧倒的に鍛え上げられた身体が下地にあり、最近の猛特訓でダンスに最適化され、自信まで備わったそれは、一見しただけで他者を圧倒する『ダンス強者の特有のオーラ』を纏っていた。



「ねえ、シャム様……あのお二人、以前と雰囲気が違いませんか」

「な、なーに。どうせ踊ったらボロが出るだろうよ」




 曲が始まる


 一曲目、ワルツ。


 


 ランドとフローラのカップルは一瞬で会場中の視線をもっていった


 ワッと歓声が起こる。




 社交ダンスにおけるパートナーシップの理想形は時に『花と額縁』に例えられる。


 ここは幼いころからからダンスを嗜んできた紳士淑女が美を争う競技場。

 今も様々な「花」と「額縁」が調和して見事な「絵画作品」となり、美しさを観客に訴えている。


 ではなぜその中で、ランドとフローラだけがすべての視線を搔攫うことができたのか。




 答えは単純。


 二人だけは『絵画作品』ではなかったからだ。



 踊りながらフローラは過日を思い出していた。




 ランドとパートナーを組んだ初日「では試しに一曲」と促され、踊ってみて驚く。


「とてもスムーズに、踊れた……なぜ?」

「今まで貴女のステップは、リードする男性よりも早く、そして鋭すぎたのです」


 この時ランドはフローラをほとんどリードしなかった。

 それどころか逆に、フローラの動きを察知して完璧にフォローしたのだ。そして言った。


「しかし、それは才能がないと言うことではありません。()()()()()()()()()()()()()()()ということでもあるのですから。」



 それからもランドはこちらを絶対に否定しない。個性と能力を認めたうえで、それをうまく活用できるように導いて(リードして)くれる。

 例えば、ある曲の変調リズムにフローラが合わせられないときは、こんな感じだった。


「剣術の訓練を思い出してください。変調の時は俺が目線だけで殺気を飛ばすので、そのフェイントにひっかからないように一拍停止です」

「そんなので……あ、できた。」

「普通の令嬢は絶対できないですけどね。貴女がいままで必死で身に着けてきた技能はきっと他のダンスにも応用できます。うまくできないときは膨大な引出しの中に何かないか、よく思い出してみてください。」


 フローラは、目からうろこが落ちる思いだった。


 そして、そんな彼女に、ランドは「花と額縁」の真の意味を教えた


 曰く



「額縁は花を美に導くことこそすれ、疲弊させてはならない。」





 なぜ、シャムとフローラはうまくいかなかったのか。


 それは、フローラと言う規格外がシャムの額縁(うつわ)には大きすぎたという、ただそれだけの事だった。彼女の全力(ありのまま)を受け止めるには額縁ではなく広大な大地(ランド)が必要だったのだ。



 彼女は自分の意志を持たず、周囲に言われるまま咲く造花(ゾークァ)ではない。

 一見素晴らしい値打ち品のようで、その実薄っぺらい贋作(シャム)などにはなりようがない。


 最適なパートナーに恵まれた今の彼女は、絵画の域を超え、自らの意志で咲き誇る花畑(フローラ)だった。





 2曲目は、タンゴ


 求められる資質は「キレ」、「気迫」、「熱感」、「強靭」、「激」


 すなわち、一曲目以上にフローラ達の独壇場であった。




 予選をぶっちぎりのトップで通過し、勝負は決した




 と思ったところで問題が起こった




「申し訳ない。完全に油断していました……」

「いえ、ここは同国の者しか入れぬ選手控室です。仕方がないでしょう。」


 妨害工作だった。

 ランドの決勝戦用シューズに、麻酔針が仕込まれていたのだ。幸い強い毒性はなく、歩行は可能で、数刻で抜ける程度のもの。

 しかし、下肢にしびれがあり、ダンスの激しい動きについていくことは困難、そんな弱毒。


 一体誰が。

 周りを見て、目線が合ったとき、フローラは悟った。

 下手人はおそらくシャムだ。


 現在、総合2位につけている彼ら。

 フローラたちが決勝を棄権、あるいは盛大なミスをすれば優勝を狙える。


 王女を狙えば大問題となろうが、ランドの家格はそこまで高くはない。

 フローラたちはすでに存在感を示し、決勝を棄権しても面子は保たれる。

 優勝者となれば、面子を気にする国として処罰はできず、真相究明にも動かない。


 そういった打算で軽薄な行動に出たのだろう。

 しかし確かに効果はあり、シャムたちが同じ立場なら挽回は不可能な状況だ。しかしーー



「さあ、ランド。反省はここまでです。現在残った手札を確認しミーティングを行いましょう。」


 それがどうした。

 王として教育されてきたフローラの辞書に『敵前逃亡』の四文字はない。もちろん、騎士であるランドの辞書にもだ。


「勝つためのミーティングを」


 もちろん、『敗北』の二文字もない。


「愚か者に、思い知らせてやりましょう」


 ちなみに『報復』の二文字は太字で載っている






 決勝を前にして、妨害工作をした張本人であるシャムは勝利を確信していた。

 罪悪感や恥の概念はなく、念のため用意していてよかったと自画自賛までしていた。

 ゾークァはシャムが何かしらの不正を企てたことに気づきつつ、自分には損がないので何も言わなかった。


 だから、フローラとランドが決勝に出てきたときは驚いた。

 そして、曲が始まる一瞬前、棄権すると思っていた2人がこちらを見て、口の形だけで伝えてきた内容にさらに驚いた。それこそ、顎が外れそうになるほどに。


 その内容とは




(ぶ ち こ ろ す)




 決勝はスロー・フォックス・トット


 重厚感があり、選手の基礎力の差が一番くっきりと出てしまう演目

 筋力を存分に発揮し、足のはこびはねっとりと

 それは本来であれば、片脚のしびれたランドが踊れる演目ではなかった。


 しかし、踊れていた。

 そこには、3つの仕掛けがあった。



『貴女がいままで必死で身に着けてきた技能はきっと他のダンスにも応用できます。うまくできないときは膨大な引出しの中に何かないか、よく思い出してみてください。』


それが、過日ランドから習ったこと。フローラは今、踊りと並行して、3つの事を同時に行なっていた。


 一つ目、ランドが右脚を使うタイミングに限定して、フローラは微弱ながら生まれつき持っていた『物を浮かせる魔力』を使用。

 これは、簡単なことではない。魔力を使用するには膨大な脳のリソースを要する。言うなら、踊りながら高度な計算式を解くようなものだ。しかし、フローラにはそれができた。

 なぜなら、幼少時からずっと、魔力を使いながら剣を振る訓練をしてきたからだ。


 二つ目、実はランドの体重のほとんどを、フローラが支えていた。ゆったりした体重移動とバランス感覚、そして筋力を発揮して、男一人を支えながら彼女はロマンチックな表情を崩さずに踊っていた。

 普通の令嬢には、そんなことはとてもできない。しかしフローラにはできた。

 なぜなら、彼女は国を支えられるように訓練されてきたから。それに比べれば、倒れそうな臣下を一人支えてやる程度、たやすいものだ。それに表情だって、いかなる時も余裕を崩さないようと教育されてきたのだから。


 3つ目、リードを、女性側(フローラ)が行っていた。社交ダンスのセオリーとは大きく異なるが、2人はこれがベストだった。なにせ二人は騎士と王女なのだから。

 導かれるのではなく、導く人物であれ。

 そう言われてきたフローラにはこれが一番合っていた。相手の弱点を見抜く訓練もしていたから、踊りながらランドの状態も逐一把握できる。そして、『自分が心からやりたいようにやる』ことと、『今のランドが踊りやすいようなリードをする』ことは、この場合矛盾することなく両立していた。



 曲が進む中、フローラ達はシャム達と横並びになった。

 フローラがそうなるようにリードして、立ち位置を調整したのだ。そして二組は同じ動きをする。


 スウェイ


 女性が、足首と膝を使って背中を大きくしならせる動作。


 単純な様で奥が深い。筋力と柔軟性を鍛えるほど美しい曲線(ライン)がでるのだ。


 真横で全く同じ動きをしているから、見るものにはよくわかる。

 鍛錬を積んできたフローラの描く曲線が、名工の作りし美しき花瓶だとしたら、おざなりな努力しかしてこなかったゾークァはまるで、ビア樽だった。それくらいの差があった。


 審査員は一方に大きな加点を、もう一方には大きな減点を入れた。




 曲が止まる


 勝敗は決した






 笑顔で観客たちのスタンディング・オベーションに応えた後は、少々慌ただしい展開となった。


 まず、最後の減点が響き5位に転落した(表彰台を逃した)シャムは妨害工作をした疑いで連行されていった。

 殺意はないとはいえ、国を貶めかねない工作。かなり重い罪になりそうだ。

 

 また、5位という順位は、カップル変更の条件として「シャム&ゾークァのペアは必ず好成績を収めるべし」という約束をしたこの国の代表としては不十分な結果で、ゾークァは青い顔をしていた。きっと今後の立場も悪くなるだろう。


 そして、体力も魔力も限界まで使い、疲れ果てた身で表彰式。から深夜まで続く祝賀会。

 疲労困憊のフローラは、帰りの馬車では意識を失っていた。







 翌日、フローラとランドは、優勝者として、再びダンス会場を訪れていた。

 栄えあるエキシビジョンを踊るために。


 そしてそれは、ランドとの組解消セパレートが近いことを意味していた。

 これが終われば待っているのは、また淑女らしさが求められる窮屈な日々。



 踊りたくないなぁ

 柄にもなく、フローラはそんな事を思った


「どうしたんですか、急に」

 どうやら口に出ていたらしい。珍しくランドが驚いた顔をしている。



 ここから先、2人の道は分かたれる。

 だから今日の一曲一曲がこの2人(カップル)最後の踊り(ラスト・ダンス)だ。


「いえ、もったいないなぁと思って」

「もったいない?」


 そういうランドにフローラは少しばかりカチンとくる。

 そう思っているのは自分だけなのだろうか。



「これから、いくらでも踊ればよいではないですか。」


 もしかして、昨日の帰りに渡された書面、まだみていないんですか。そういわれてフローラは頷く。


 見ていなかった。


 体力的に限界だったので執事に要約を頼んだのだが、「少なくとも緊急を要する仕事ではありません。後で時間ができたときにご自身でゆっくり読んでください」と言われたからだ。それで、大方ねぎらいの言葉や祝辞だろうと判断し、疲労困憊で今日も時間ギリギリまで眠っていたから後回しになっていた。


 あれは、新国王(アレクサンドル)からの命令書だというランド。

 そこにかかれた内容は要約するとこう言うことだった。


『優勝おめでとう。褒美として、ランドには戦で勝ち取った新領地を与えて、辺境伯爵まで昇爵させる。これから二人は夫婦となり、国の発展のためにより尽力してくれ』


「は?」


 フローラは、開いた口がふさがらなかった。





 その後、ランドがいろんなことを暴露(ネタバレ)した。


 過日、ランドは一度ダンスを極めたものの実力に釣り合うパートナーがおらず、実力の半分も出せないことからダンスへの情熱を失い、騎士となった。そこで彼はアレクサンドルと出会い親友となる


 アレクサンドルが魔力に目覚め、新国王となることが決定した時、彼は言った


「兄馬鹿かもしれないが、妹であれば君のパートナーが務まるかもしれない。天下一舞踏会に出てみないか」



 ただ、いきなり王女と騎士を組ませるには身分差が大きすぎて少々しがらみがあったそうだ。

 それで優秀なアレクサンドルは、うまくいかないことを承知の上でまず、シャムとフローラ、ランドとゾークァでペアを組ませた。シャムの実家はアレクサンドルが即位後行いたい政策に協力的ではなく、自ら婚約破棄を申し出たうえで負けてくれれば円満に影響力をそげるという、一石二鳥の策だったそうだ。


 ランドとしては半信半疑だったが、シャムと練習するフローラを見た瞬間、一目ぼれしていたらしい。


「全て兄さまの掌の上だったんですね……」

「本当に、新国王様(アレクサンドル)は優秀ですよね」


 こだわっていた王としての資質だが、どうやら兄を上回るまではいかないようだ。

 フローラは、ひとつ、踏ん切りがついた気がした


「ランドは私が妻で良いんですか」

貴女(フローラ)がいいんですよ」


 すとん、と心が収まるべきところに収まった。

 自分だって夫にするなら彼がいい。


「ではこれからは旦那様として、しっかりリードしてくださいね」

「いやいやを何いっているんですか」


 ランドは言う。

 これから二人が住むことになるのは、未開の辺境領ですよと。


「俺はずっと騎士でしたからね。国営にも等しい新領地運営なんて無理無理。治世はそのための教育を長年受けてきた君にリードしてもらわなくっちゃ。アレクサンドルだってハナからそのつもりだと思いますよ」


 女性優位の国の方が栄えるって格言もありますし、とこともなげに言うランド。


「まあ、その話はあとでゆっくりと……そろそろエキシビジョンが始まりますね、さあ、行きましょう」





 促され舞台(ステージ)に立つ。大歓声。

 目に前には自分にとって最高のパートナー。

 笑みがこぼれるフローラ―。

 自分らしく踊れる、新しい曲が始まる。


 フローラが美しく咲き誇るのは、まさに今、ここからであった。


審査員の(読者)皆様へ


本作の出来栄えを↓の★~★★★★★の5段階で評価(チェック)して頂けますと励みにも今後の参考にもなります。よろしくお願いいたします。

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(*」´□`)」ブラボー!
前進しか存在しないと言わんばかりの強強な言葉、 それがどうした。  王として教育されてきたフローラの辞書に『敵前逃亡』の四文字はない。もちろん、騎士であるランドの辞書にもだ。  もちろん、『敗北』…
散々持ち上げておいて梯子を外す、というのは往々にしてあることですが、やっぱり腹立つなあ!そして散々蔑ろにしておきながら、一発逆転すれば持て囃す、これまたむかつく。どちらも腐ったり傲慢にもならずにお互い…
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